第219話





「えーと………」


 レインは考える。部屋が余ってるならレイナを客人として迎えて適当なタイミングでエルセナへ帰そうと思っていた。ただ今は部屋もない。あとレイナはまだ幼い。アメリアの元で働かせるというのも心苦しい。


 覚醒者でもないから阿頼耶やステラに押し付けることも出来ない。……どうしたものか。


 "…………お!これしかないな!"


 レインは珍しく妙案を思いつく。そしてすぐにレイナに話しかける。


「じゃあレイナ……本当にどんな命令でも聞くんだな?」


「はい!もちろんです!何なりとお申し付けください」


 レイナは膝をついたまま顔を上げてレインを見つめる。レインは何故か犯罪をしている気分になってきた。早く終わらせよう。


「じゃあこのままアイラさんについて行って向こうでの仕事を手伝ってこい」


 これがレインの考えだった。命令に絶対服従ならこの命令も聞くはずだ。アイラと一緒に行けば離れ離れになる事はない。アイラもアイラで家族と一緒に国を立て直す仕事が出来る。誰も不幸にならない良い案を思い付いたと自分を褒めてあげたい!


「嫌です!」


「そうか………………え?!なんて?」


「そういうのは違います。厄介払いみたいじゃないですか?」


 せっかく考えた良案が見事に両断された。もうこの家にいてもらう以外の選択肢がない。


「…………分かったよ。ただ部屋が使用人用の部屋しか余ってないから我慢しろよ?」


「ありがとうございます!」


 レイナはさらに頭を下げる。本当は一部屋あるがその部屋はカトレアの部屋だ。カトレアは本国に帰還したが、必ず戻ってくる予感がしていた。


 "そういえば……カトレアは何で呼び出されたんだろう。良くない事になってないといいけど……"



◇◇◇



――時は少し遡る。レインがセダリオン帝国への攻撃を開始した数日後――


 そこは世界最大の覚醒者大国であり軍事面、資源、人口、技術力などありとあらゆる分野で他国の追随を許さない超大国『エスパーダ』


 さらに世界の中でも特に優れた覚醒者たちを多く保有し、兵士たちの育成、覚醒者に関する研究にも莫大な予算をかけている。覚醒者の数、兵士の数、その質、全てが世界の中でも最高峰に位置している。


 その超大国の皇帝、ガルシア・ヴェートヘルマン・フォン・エスパーダ3世が座る玉座に前に7人の覚醒者が集められた。


 全員が皇帝への忠誠を誓うように膝をつき頭を下げている。大国どころか世界を代表する覚醒者たちだ。


「よくぞ来た、超越者たちよ。……そして我が名において命ずる」


「「「「ハッ」」」」


 覚醒者たちの声は綺麗に揃う。


「傀儡の神覚者レイン・エタニアの妹エリス・エタニアを我が国の管理下に置く。どんな手段を使ってでも我の元へ連れてこい」


 その命令を聞いた覚醒者たちの中で即座に了承の返答をできる者はいなかった。傀儡の神覚者の強さは既に世界中が知っている。


 その彼が最も大切にしている存在に触れる事は禁忌だ。その禁忌に触れた国が今、消滅しかけているという事実はこの帝国中でもごく限られた者だけが知っている。


「皇帝陛下、発言を許可願います」


「よかろう。『魔道の神覚者』よ。発言を許可する」


 せっかく愛する人といい雰囲気になっていたのに呼び出させれて若干イライラしているカトレア。本当なら今すぐにでもレインの元へ行き援護してあげたい気持ちでいっぱいだった。が、何とかそれを悟られぬように心を殺して発言する。


「ありがとうございます。では失礼ながら……その行動は『傀儡の神覚者』と炎の国『イグニス』との全面戦争を意味します。こちら側にも相当な被害が出るでしょう。

 どうか拉致ではなく招聘する形を取り、自らの意思でこちら側へ来るよう交渉するという形にご再考願えませんか?」


 他の超越者たちを代表してカトレアが話す。イグニスとの戦争……というよりレインとの争いは絶対に避けるべきだと判断した。


 カトレアに関してはもしそうなった時にレイン側に立つつもりだが、戦うべきではないと判断しているのは他の超越者たちのほとんどが同じだった。

 

 他の超越者たちもレインの実績と今行っている事を知っているが故に無言の賛成を貫いた。


 その中でも実際にレインと戦った経験を持つカトレアだけは皇帝に意見してでもやめさせるべきだと判断した。


 彼と戦ってはいけないと分かっていた。というか他の覚醒者たちが戦って死のうが、エスパーダ帝国が滅びようが、もはやカトレアにはどうでもいい事だった。自分が愛するレインとは戦いたくない。これが本音だった。


 彼は妹のエリスの為に生きているといっても過言ではない。レインにとってエリスの命が最も優先される。親交の厚い人、例えばカトレアであってもエリスと天秤にかけられるとエリスを迷いなく選択するだろう。カトレア的にはもう少し悩んでほしいとは思う。


「アッセンディア……お前はあの男1人に我が国の覚醒者たちが負けると……そう言いたいのか?」


 皇帝は自分の命令に意見したカトレアを怪訝そうに見つめる。皇帝の名において命令された事に対して意を唱える事は重罪だ。会話が成立したのはカトレアが超越者だからだ。普通の兵士からその場で処刑されただろう。


 皇帝の語気が強まった事に謁見の間を警護する兵士たちに緊張が走る。


 そして周囲が見守る中、カトレアは顔を上げて口を開く。 

 


 

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