第213話
◇◇◇
巨人兵は足元で何かしている覚醒者や兵士を防衛柵ごと踏み潰していく。皇帝に付ける事が出来たと思われる番犬の反応に向かって真っ直ぐ歩く。
何か仕掛けているのだろうか。巨人兵が歩く度に足元で爆発が起こる。設置型の爆発魔法みたいだ。巨人兵の足を吹き飛ばせるくらいの威力だ。再生能力がなかったら巨人ですら簡単に倒せたかもしれない。
この戦争が始まって10日くらいが経った。本気になれば一国を滅ぼす事も出来る力を得ていると理解した。
「気付けばこんなところまで来てしまったな。もう人を殺しても何も感じなくなってきた。俺は人間じゃなくなったのか?」
レインは巨人兵の手に乗り、運ばれながら独り言を呟く。当然、その声に返事はない。
「アメリアは目を覚ましただろうか。……すごい疲れたな。……こんな俺を……皆は受け入れてくれるだろうか?軽蔑されないだろうか」
残るは皇帝のみだ。今まで怒りに任せて剣を振り下ろし、傀儡を使って殺戮の限りを尽くした。でも後悔も反省もない。
「そういえば……もう10日も飲まず食わずだな。ほとんど寝てないし。アメリアの料理が食べたいなぁ」
少しだけ落ち着いた事で自分がどれだけ無理をしているのか理解した。一度自覚すると忘れることは難しい。
「さっさと終わらせよう。何度か逃して遊んでやろうと思ったけど……今も逃げ回ってるな。傀儡が見つけたのか?いいぞ……殺さないように追い込め。どうせ護衛はいるだろうからソイツらは始末しろ」
周囲の傀儡に命令を出しながらレインを進み続けた。もう生き残っている帝国軍兵士はかなり少なくなっているだろうが、攻撃の手を緩める必要はない。
◇◇◇
「…………こんな所にいるのか?」
レインは帝都の端にある倉庫に辿り着いた。既に周辺を傀儡たちが取り囲んでいる。ここに皇帝がいる事はほぼ確定している。だからわざわざ誰も通らなくなった道を制圧しておく必要も無くなった。
「…………コイツらは……護衛だった奴らか?」
「はい……安全確認の為に出てきた者だと思われます。可能な限り隠密に殺しましたので中に内部にいる皇帝にはバレていないでしょう。それより……」
横にいたヴァルゼルが答える。番犬の反応は2階から感じる。巨人兵なら拳一撃で壁を突き破れるだろう。
「どうした?」
「もうこの口調はやめさせてもらうぜ?旦那……少し休んだ方がいい。酷い顔色だ。
いくら旦那でも絶食状態で10日は無理だ。ほとんど寝てすらいない。皇帝と一緒にくたばる気か?」
「………………分かってる」
「いや、分かっていないな。今すぐ休むんだ。今、その辺の家から食料を取って来させている。奴はここから逃げられない。既に地下にも傀儡を配置している」
「……………いらない」
「旦那!」
ヴァルゼルはそれでも倉庫へ向かおうとするレインの肩を掴む。配下として傀儡としては不敬な行動かもしれない。しかし主人が死ねば傀儡は消滅する。
戦いの道にその身を置くレインから離れるのは戦闘をこよなく愛するヴァルゼルにとっては苦痛であり、文字通りの死であった。だから全力で止める必要があった。
「…………ヴァルゼル」
「……っ!」
レインの一言でヴァルゼルは何も言えなくなった。少し前までは自分と同等か弱い存在だったはずなのに、この短期間で爆発的な急成長を遂げた。
ヴァルゼルはただ視線を向けられただけだ。なのにもうどうやっても勝てない存在だと理解させられた。これ以上歯向かえば存在そのものを消されてしまう。
「…………ここで待て」
「ハッ!」
そう言ってレインは巨人兵の手に乗って2階へと上がっていく。そして巨人兵は2階の壁を殴り付け破壊する。その後すぐにレインは内部へと入っていった。
「はは……ははは……あの目…前にも見たな。どこで見たんだっけ?……いや忘れるはずがない。私がお仕えしていた第6魔王……狂戮の魔王様と同じ目だ。いや下手するともっとかもしれない。新たな魔王がここに降臨された」
◇◇◇
「レイン・エタニア!!お前は一体何なのだ!!!」
「何って?……俺はお前を殺しに来た神覚者だ。よくも俺の大切な人を傷付けてくれたな。楽には死ねんぞ」
レインは敢えて剣を召喚しない。すぐに殺してしまってはつまらない。自分が犯した過ちの大きさを徹底的に自覚させてからゆっくり殺す。あの子はそれだけの苦しみを受けたから。
「ま、待て!……わ、私が悪かった!この通りだ!」
皇帝は自身の身分も忘れて土下座する。硬く冷たい石で出来た倉庫の床に頭を擦り付けた。
「本当に今更だな」
レインは皇帝へ向かって歩くのをやめない。近付く足音が皇帝にとってどれほどの恐怖だったかは想像に難くない。
「使用人殿を襲った事も屋敷へ襲撃を掛けようと提案したのもレクシアなのだ!私は許可しただけだ!頼む!許してくれ!」
「それだけじゃないだろ?その前にも俺の妹を誘拐しようとしたな?」
「な、何を言っておるのだ?そんな事は知らない!王国と戦争をする前まで……わ、私は貴殿の存在も知らなかったのだぞ?!」
皇帝は埃や油で汚れた顔を上げる。既に目の前にいたレインに懇願するような目を向ける。
「知らなかった…だと?俺がSランクダンジョンをクリアした後に全世界から手紙が来ていたぞ?お前の国からも来ていたはずだ。なのに知らないとはどういう事だ?」
「そ、それは……そのような情報を聞いたから……形式的に送っただけだ!内容も全て執政に任せておった!私は何も知らんのだ!エルセナを攻撃したのも娘が言ったからだ!娘もレクシアも私に何も言っていなければ何も起こっていない!私は悪くないんだ!」
レインは強く地面を蹴った。石の床は鈍い音を上げ、大きくひび割れた。もしそこに頭があれば容易に踏み潰されただろう。
「もう話すな。お前は死んで当然だ。俺の大切な人を傷付けた罪、エルセナの人々を殺した罪、その命を持って償え!」
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