番外編2-6






 その花がいるのは分かったが、ポーションではダメなのか一応聞いておく。それがどんな花か、どこにあるのか全く分からない。ポーションで治るならそれでいいんじゃないだろうか。


 エリスが治ったので治癒のポーションは大量に余っている。何とも贅沢な悩みだ。レインは基本的に体調を崩さないし、アメリアたちも普段から気を付けているようで健康そのものだ。たまに無理やり休ませないといけないというのは昨日のことで分かった。だから別にここで使っても問題ない。


「…………あるのですか?」


 と、サーリーが言ったということはいけるようだ。


「あるよ?最下級から最上級までたくさん。ポーションで治るならその方がいいじゃん。どれで治る?」


「…………この症状の進行から見て…上級ポーションであれば充分……かと」


 さっきまで花がどうのこうのと騒がしかったが、ポーション1つで無事解決した。地面から生えてる花なんか食べたって美味しくないだろ。それなら甘いポーションの方がいい。


「了解。……じゃあこれ飲ませて」


 レインは収納スキルからポーションを取り出して、サーリーに渡した。サーリーはポーションを確認して瓶の蓋を開ける。そして苦しそうな声を上げる母親の口へと近付ける。これで解決だ。


 しかし……。


 母親はポーションを飲まされる直前でサーリーの手を掴んで止めた。


 "……もし俺の予想通りのことを言ったら無理やり飲ませてやる"


「…………い、いけま…せん。ゴホ…ゲホゲホ…はぁ…はぁ……そんな……高価な物。……お金……が……」


 はい確定。


「神覚者様……ど、どうすれば……」


 上級ポーションは数千万Zelする。小さな村の村人が簡単に払える金額ではない。しかしそれで死んでは元も子もない。ただ金額が金額で所有者が神覚者であるためサーリーも母親が拒むのを無理やり飲ませる事はしないし、出来ない。


 サーリーは振り返りレインの判断を仰ぐ。レインの答えは決まっている。


「とりあえず無理やりにでも飲ませろ。もう金金金ってうんざりだ。俺の好意を黙って受けろ」


 レインも金には苦労した。人から施された事はないが、もしされる側なら受け入れるだろう。まあその結果、アルティがいた場所へ辿り着いた訳だが。


「か、かしこまりました」


 サーリーはレインの言う通りにする。あの抵抗の後からは苦しむ声をあげるだけのリサの母親にポーションを飲ませる。そして効果はすぐに現れた。


「…………あれ?」


 先程までの苦しみが嘘のように消えた母親は驚きの声を上げる。


「治ったか?」


 レインの質問にリサの母親は飛び起きる。そしてベッドの上で正座して頭を下げた。この光景…昨日も見た。


「は、はい。神覚者様……この度は私如きのためにありがとうございます。このご恩は一生忘れません。ポーションのお金も……」


「いらない。2度も言わせないでくれよ?お礼も不要だ。俺をここに連れて来たのはリサだからな。お礼ならこの子に言ってくれ」


「…………リサ」


 レインの後ろに隠れるようにして立っていたリサが顔を出す。

 

「ママ……もう大丈夫?苦しくない?」


「……ありがとうね。助けてくれて」


 リサと母親は抱き合う。元気な親子の感動の再会だ。邪魔する訳にはいかない。レインはサーリーの肩に触れて外へ促す。

 


◇◇◇

 


 サーリーと2人で外で待つ。見知らぬ顔がいると村人たちが家から出てき始めた時、リサの家の扉が開いた。母娘ともに落ち着いたようだ。


「神覚者様……お待たせ致しました」


 母親の顔は見違えるように良くなった。もう完全に回復したようだ。これでここに来た理由はもうない。


「お兄ちゃん!ありがとう!」


 リサは母親の後ろから飛び出してレインへ抱きつく。エリスがまだ小さい時を思い出す。しかし別の事も考えた。


「何で病気になったんだ?近くにモンスターでも出たのか?」


「い、いえ……近くの川から水を汲んでいた時にモンスター……犬みたいなのが上から流れて来て。もし素材が残っていれば家計の足しになると思って……触ろうとしたらまだ…… 生きていて……噛まれたんです」


「それでそのモンスターは?」


「そのまま流れていきました」


「そうか……まあ……これからは気をつけるんだね。さて……俺たちはそろそろ帰ろうか」


 既にここにいる理由はない。レインは神覚者として顔が知られている。リサたちと話しているから近付いてこないだけで既に注目されてる。


「もう帰っちゃうの?もう少しお話したい」


 リサはレインから顔だけ離して見上げてくる。何という上目遣い。ここに永住しそうになる。確かに予想以上に早く終わった感は否めない。


「リ、リサ!よしなさい!」

 

 母親はリサの言動を注意する。それほど神覚者っていうのは恐怖の対象なのだろうか?レインは気にしないし、リサもよく分かっていないようだ。


 まあ王族に並ぶ階級の人に馴れ馴れしくするのは良くない……よな?というか神覚者って王族に並ぶんだ。少し前にサーリーが言っていた事を今更思い出す。


「どうしようかな」


「ねぇー……お兄ちゃんは魔法は使えるの?ダンジョンってどんな所なの?スキルを使うってどんな感じなの?覚醒者様とお話しした事ないから教えてほしいの」


 リサはレインに質問する。覚醒していない人からすればこうした事が気になるのだろう。


「こら!リサ!……神覚者様、申し訳ありません。この子にはよく言っておきますので、どうかご無礼をお許し下さい。神覚者様は神覚者様のご予定を優先なさって下さい」


「別に構わないよ。何から教えようか」


 レインはリサに抱きつかれたまま話を始める。その時だった。後ろから何かが飛んできた。レインは気配でそれを察知する。


 そしてリサを抱いたまま振り返ってそれを素手で弾き飛ばす。飛んできたのは小石だった。魔力も宿らないただの小石はレインの手刀で粉々になった。


 誰かがレインに石を投げた。その揺るぎない事実に集まって来ていた村人たちは戦慄する。


「リサから離れろ!!この野郎!」



 

 

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