第141話










◇◇◇




 爆発により空高く舞い上がった砂がダンジョン内の太陽を覆い尽くした。周囲は薄暗さでよく見えない。耳をつんざくほどの爆音は覚醒者たちの聴力を一時的に破壊した。



「クッソ……やっぱり分かってないじゃん。……耳が……キーンってする。…………ニーナさんは?!」



 レインは自分の上に覆い被さった土を身体を起こして落とす。そして自分の腕に抱かれたニーナの安否を確認する。



「…………う、ううん…な、何が……」



 ニーナは無事だった。突然の爆音と周囲の薄暗さに混乱しているようだった。



「大丈夫ですか?」



「え、ええ……すいません、また助けられました」



「助けるのは当然です。怪我はしていませんか?どこか異常は?」



 もしかすると怪我をしているかもしれない。既にアルティは阿頼耶と別人だと分かっている。阿頼耶はまだレインの腰に武器としてあるが、タイミングを見て人の姿にして回復してもらおう。



「怪我は……ないようです。…………耳が痛い」



「やはり回復した方がいいですね」



 そう言ってレインは阿頼耶に心の中で指示をする。武器形態の阿頼耶は口に出さなくてもレインの意思を理解する。仕組みは分からない。



 阿頼耶はレインの意図を汲んでゆっくりと離れていった。すぐに代わりとなる武器を召喚して誤魔化す。


 その数秒後には奥から阿頼耶が走ってきた。服装もいつも通りだ。アルティに渡して無くなった分は自分で作って着ているみたいだ。



「レインさん!お2人ともご無事ですか?」



「大丈夫だ。ただ念の為、回復スキルを」



「承知しました!」



 阿頼耶はすぐにレインとニーナに触れてスキルを使う。するとすぐに耳の痛みは引いていった。


 そこでようやく周囲をハッキリ確認できるようになった。盾代わりに召喚した傀儡たちは全て消し飛ばされていた。



「………………流石にやり過ぎだな」



「はい、島が広がるにつれて出現していた森もほぼ消滅したようです。他の覚醒者がどうなったのかは分かりません」



「大丈夫でしょー!なんか警戒して反対側に集まってたみたいだし……ゴホッゴホッ……」



 レインやニーナが他の者たちの心配をしていると舞い落ちる土煙の向こうから声が聞こえる。この惨状を作り出した張本人が咳込みながらやってきた。



 それも全部お前のせいなんだけどね。まだ確認はしてないが、レインたちがここにいて無事なら他の者たちも大丈夫だと思う。いやそう思いたい。



「アルティ……島は吹き飛ばさないって言ってたよな?」



「言ったよ?吹き飛んでないじゃん。更地にはなったけどね」



「それが吹き飛んだっていうんだよ!俺が傀儡を出して伏せてなかったら俺もニーナさんも無事じゃ済まなかったぞ!」



「な、何よ……何でそんなに怒るのよ!あれくらいで死なないでしょ!これくらいの風なんて埃が舞うだけで涼しいくらいじゃん!」



 その言葉にレインもニーナも阿頼耶までも絶句する。やはりアルティは規格外だ。規格外だけならいい。


 しかしそれが人間と比べてどれくらいの差があるのか理解しておらず、それが当然だと思ってしまっている。



「アルティ……人間はそんなに強くない。アルティにとっては虫ケラくらいの耐久力だと思った方がいい」



「レインを虫ケラだなんて思ってないよ?!」



「そういう事じゃなくてね?人間はあれくらいの突風で簡単に死んでしまう。風で巻き上げられた石が頭に当たるだけでも死ぬんだ。

 あの突風だと人間が作った建物なんて全て消えてなくなってしまう」



「…………分かった。レインに良い所を見せようと調子に乗っちゃった。次からはもっと気を付ける」



 アルティは明らかに落ち込んでしまった。自分が期待した返答がなければ誰だって落ち込んでしまうか。

 


「分かってくれたらいい。でも凄いな。あれが本気の魔法なのか?」



「ううん……もっと広範囲を破壊できる魔法もあるよ?でも島を完全に消滅させないように威力を抑えたの。失敗しちゃったけどね」



「……やっぱりアルティは規格外だよ」



「レイン!」



 アルティは立ち上がったレインへと駆け寄る。そして抱きつく。ただレインはアルティに対しては耐性が出来ており普通に受け止める。



「どうした?」



 アルティがレインへ抱きついた事よりも、レインが普通に受け止めて会話を続けている事にニーナは驚愕とした。私の時と反応が違う?!という思いだった。


 レインはあの場所で10年近くアルティと一緒にいた。期間でいえばエリスと同じくらいだ。だから女性で見た目はかなり綺麗なアルティであっても平気だった。



「私のこと嫌いになった?……そんな事ないよね?!」



「いやこんな事で嫌いになってたらあの場所での修業に耐えられなかったよ。……今はそんな事はどうでもいいな。早く行こう。ここを終わらせないと」


 レインは自分に抱きつくアルティを引き離そうとする。



「ちょ……ちょっと離れて……」



「…………………………」



 アルティは抵抗する。レインの背中に回す腕の力を上げていく。



「お、おい……痛い痛い!!背骨が折れるって!」



 レインの身体からミシミシと音が鳴る。レインがアルティの肩を掴んで本気で引き剥がそうとしても全く動かない。しかししばらくすると勝手に離れた。



「……ふぅー、これでしばらく大丈夫かな」



「な……何が?」



「こうして触れ合うの久しぶりじゃない?次はいつになるか分からないし、ここが終われば私はしばらく動けない。色々回復しないといけないから。だからこうやって栄養を蓄えておかないと」



「………………そうですか」



 レインには難しい話だった。

 

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