第137話
北部同盟?本当に初めて聞いた。今のシリウスの聞き方からして知ってるはずだけど、本当に本当に念の為聞いたって感じだった。
"俺もエリスと同じ学校に行こうかな?頭が悪すぎて悲しくなってくる"
「そ、そうか。…………アイツはまだ死なないようだな。じゃあ簡単に説明するか」
シリウスはモンスターの状態を確認する。空からの雷撃をその身に受け続け破壊と再生を繰り返している。動く事も出来ず、死ぬまで永遠に苦しむ事になる。
その姿を確認してからシリウスは話し始める。これまでなら何となく聞いているだけだったが、これからはちゃんと聞いて覚えないといけない。
神覚者となり、このままSランクダンジョンを攻略したとなれば世界的にさらに有名となる。これまで以上に他の国の人とも交流が増えてくる。流石に知らないと言って全部教えてもらう訳にもいかない。
「よろしくお願いします」
「別に畏まらなくていい。北部同盟ってのは北の大陸にある中小国11カ国で構成された巨大な軍事同盟だ。『エスパーダ』、『ヴァイナー』と隣接している。
ヴァイナーの位置が悪いと言ったのは、そんな軍事同盟も横にあるし、さらに世界最強の覚醒者たちを抱えるエスパーダもある。戦争なんてのはない方がいいが、それでも力は必要だ。話し合いっていうのは力が拮抗した者としか出来ないんだよ」
「……そうか」
「さて無駄話もここまでだ。アイツはこのまま俺が消滅させる。このまま俺はあちら側へ行く。レインはレインの出来ることをしてくれ」
「分かった」
このままここに居ても無駄なだけだ。近接戦に優れる神覚者は常に前線にいた方がいい。そう判断してレインはさっきまでいた場所に戻った。
◇◇◇
「もうここに来て何日目だ?」
誰かがそう呟いた。あれからもずっと交代で休憩を取りながら上陸してくるモンスターを撃退し続けている。
しかしドラゴンや巨人の集団、そしてそれに隠れるように人型モンスターを送り込んで来た後からは大きな変化はなかった。
ただただ赤い布を纏ったモンスターが上陸してくるだけだ。黒い海の水はかなり減った。
もう何処までが島で何処が海底なのか分からない。ただモンスターは真っ直ぐ向かってくるからそれを迎撃し続ける。
しかしあまりにも単調な作業だ。ヴァイナーからの援軍のおかげでもある。神覚者は6人となりSランクは20人以上、Aランク以下の覚醒者に至っては100人を超えている。
『始まりの王城』と呼ばれたエスパーダのSランクダンジョンの時よりも遥かに優れたメンバーでの攻略だ。物資もレインの収納スキルのおかげでまだまだ豊富にある。
ただ覚醒者たちは人間である事に変わりはない。徐々に消耗していく。
「……このまま終わらないんじゃ。海の水を全て無くすなんて不可能だ。……永遠に戦える人間なんていない」
誰かが呟いた不安の声は、これまでみんなが抑え込んでいた扉を壊してしまった。
「……これはマズイですよ。みんなが動揺してしまっている」
リグドが迫り来るモンスターに
「分かっていますが……我々には解決する術がありません。常に真昼のような明るさに加えて絶えることのないモンスターの襲撃、援軍が来たとはいえ守る面積は増え続けている。
死者は増えていませんが負傷者は増えています。…………もう何日ここにいるのか分からなくなってきましたね」
ニーナも相当消耗してきている。ニーナも含めたSランクたちは他の覚醒者以上に休憩なく戦闘を続けている。そんな中でもニーナは遠距離攻撃手段がないから常にモンスターと接近戦を強いられる。
それに加えてイグニスとメルクーアの覚醒者たちに指示までしている。消耗するのは必至だ。
しかし消耗と分かっていてもこのダンジョンの攻略法がわからない。おそらくモンスターを倒せばいいのだが、いつまで、どれだけ倒せばいいのか分からない。
そこまで強くない中級海魔を増やし続ける必要性もなくなってきた。
「…………いつになったら終わ」
"ねぇ!!!レイン!!"
アルティがいきなり大きな声を出す。その衝撃で物凄い立ち眩みがした。なんか気持ち悪い。
"………………何でしょう?"
"そろそろ終わらせようか。このダンジョンの事も理解できたし。とりあえず人目がつかない所に阿頼耶と2人で移動してくれない?"
"何の話だ?終わらせる?"
"ここに他の魔王はいないみたいだ。レインの傀儡を強くする為に黙ってたけど、ここの主人は外側にはいない。とりあえず適当な理由をつけて森の中でもいいから阿頼耶を連れて移動してくれない?"
"……わ、分かった"
レインはそう言ってニーナの方を向く。レインの様子が変わった事をニーナはすぐに察知する。
「レインさん?」
「すいません、少しここを離れてもいいですか?他の場所の様子を見てきます。苦戦してるようなら傀儡を配置したいですし」
「わかりました。よろしくお願いします」
ニーナの許可を確認してからレインは森の方へと駆ける。移動中にガントレットに魔力を流して阿頼耶を呼ぶ。
レインの速度であれば広くなった島でも時間はかからず移動できる。
◇◇◇
数分後には人目のない所へ移動できた。さらに数秒後には阿頼耶が猛ダッシュで到着した。
「お待たせしました」
「今数秒しか待ってないよ。それでアルティ?ここで何をしたらいいんだ?」
"んー?ちょっと待ってね。ちょっと久しぶりだから……"
その時、レインの胸の中心から黒い塊が出てきた。それはフワフワと目の前に留まり、そして形を変えていく。
「よっと……うぅーん!身体を持つのは久しぶりだねぇー!」
「アルティ?!」
目の前にアルティが普通に出てきた。エリスを思わせる黒く長い髪、引き込まれるような赤い瞳、目のやりどころに困る妖艶な服装。あの時から全く変わらない姿だった。
「どうしたの?そんなに驚く事でもないでしょ?ダンジョン内なら出てこれるよ?」
「そうだっけ?」
「ただ身体を持ったり、精神だけになってレインに宿ったりするのって凄い疲れるんだよ。だからあまりやりたくないんだけどね。……でもここに来てから随分経ってる。もうみんな飽きてきてるでしょ?解決法と分からないみたいだし私が解決してあげるよ。
それに……レインに寄りつく変なのをここで牽制しておくのも悪くないと思ってね」
「…………何の話?」
「まあそれは追々自分で勉強しな?さてじゃあ阿頼耶!」
「…………何でしょう?」
「服脱いで」
「「………………は?」」
アルティは笑顔で阿頼耶に話しかける。
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