第135話
傀儡たちが上陸を試みるモンスターとぶつかった。それを援護するようにヴァイナー王国軍の魔法攻撃も再開された。それを確認してからシリウスたちの質問に答える。
「……で、何を聞きたいんだっけ?」
「あの駒は……」
「もし破壊されたら……」
「婚約者は……」
「おい!一斉に話すな!あとオルガは黙ってろ」
「何でよ!」
オルガの質問は関係ないものだった。危うく無駄に反応してしまうところだった。イグニスでもそうだったが、何故他人の恋人だとか結婚だとか知りたいんだ?
「えーと……じゃあ順番に答えていくか。まずは意思があるのか?とか言ってたっけ?」
「そうだ。私が知る召喚スキルと違いすぎて聞いたんだ。あと破壊された場合はどうなるのか?最後に召喚された駒とそこにいるモンスターの見た目が酷似しているのは何故なのかを教えてほしい」
「意思はない。命令したら何でもやるな。複雑でも割といける。破壊されたら俺の魔力を消費して即座にその場で復活する。かい……駒が強ければ強いほど消費する魔力は多い。で何で似てるかと言うと……」
ここでレインは止まる。そう言えば全部言わない方がいいんだっけ?イグニス国王の……名前忘れた……王女様のシャーロットにも本当のスキルは隠してる。
「どうした?」
言い淀んだのをシリウスたちは見逃さない。ここは合わせておいた方が良さそうだ。
「俺が倒したモンスターの中から一定の確率で傀儡に出来るっていうものだ。姿はあんな感じになる。運要素が強いな」
「…………なるほど、教えていただき感謝する」
シリウスは深々と頭を下げる。神覚者が使用人の謝罪のように頭を下げている光景はかなり貴重な気がする。
「ではワシも聞きたい事がある!その傀儡と呼んでいいのか?数に制限はあるのか?傀儡にできる数や同時に召喚できる数なのだ」
これを聞かれたのは初めてだな。というかこれに関してはスキルの持ち主も知らない。やっと事ないし。
「どうだろう……まだそんなに数がいないから分からない」
「そうか。感謝しよう!で、いつ我が国に来てくれるのだ?」
一瞬で空気が固まった。シリウスでさえも……え?って顔している。スキルに関して教えてもらったのに勧誘までやるのか?ここで?と言いたい顔だ。良かった。シリウスはそうした常識を持ち合わせている人だった。
「行かないけど」
「将軍補佐だぞ?報酬も望むままだぞ?」
「人から命令されるのは好きじゃない。お金ももう十分なくらい貰ってる。あと……オーウェン、俺は失礼な奴としつこい奴は嫌いだ。何度も言わせないでもらえるか?」
レインは少しイラッとする。報酬や地位にはもう微塵も興味がない。それを提示すれば国を越えて引っ越しするだろうと勝手に思われているのも良い気はしない。
「す、すまない」
「次から気をつけてくれればいい。じゃあ俺も前線へ行くよ。傀儡だけじゃ心配だからな」
"あとアルティのアドバイス通りに速度に全力で行こう。もう話すことは話したし……いいよな?"
レインは脚に全力の力を込めて上陸するモンスターたちの方へと駆け出した。駆け出してから気付いたが砂が少しだけ舞ってしまった。3人にかかってたら申し訳ないな。
"まあいいか。〈強化〉もレベル7まで来てる。レベル10が最高だからそこまで一気に上げたいな"
そう思いレインは剣を取り出して近くにいた巨人へと斬りかかった。
◇◇◇
レインが消えるように移動し、その場には3人の神覚者が残される。空気はあまり良くない。
「アンタ……何やってんのよ」
オルガはため息混じりに話す。
「むぅ……早まったか。彼を不快にさせてしまったな」
オーウェンは素直に反省した。タイミングも本当に良くなかった。
「…………『凍結』オルガに聞きたい」
シリウスが徐ろに口を開く。その表情は驚きに支配されていた。先程まで余裕のある表情だったのが打って変わっている。
「何?……アンタ顔色悪いけどどうしたの?」
「……彼には転移系のスキルがあるのか?」
「ないと思うけど?アリアが海に落ちそうになった時も使ってなかったし、その後も氷の道を走ってたからね。なんでそんな事聞くのよ?」
「シリウス……答えよ」
シリウスの様子がおかしい事にオーウェンも気付いた。オルガの質問には答えないかもしれないがオーウェンの質問にはちゃんと答える。
「み、見えませんでした。あの男の動きが……。私が気を抜いていたという事もあるかもしれませんが、気付いたら視界にいなかった」
「そうか。……エタニア殿は余裕そうだな。我々が助けに行けば今はかえって邪魔になるじゃろう。
ワシも最初は舐めてかかりあの速度に圧倒されたよ。あの力が世界中に知られる事とならば今以上の勧誘を受けるだろう。その後ろ盾がイグニスという国ではとても保たないかもしれんな」
オーウェンはレインがモンスターを圧倒しているところを確認してから話し出す。
「何?どういう事?」
オルガはオーウェンの言葉の意味が分からない。
「この世界は複雑なんじゃよ。力こそ他国との交渉で相手より優位に立つ事が出来る効率的で最高の手段だ。昔は兵士の人数だったが、今ではその役割は覚醒者……その中でも神覚者となっている。
あのエスパーダ皇帝ガルシア3世も超越者なんていう7人の神覚者を前に出す事で貿易面で他国より遥かに優位に立っておるしな」
「それで?言ってる意味が本当に分からないんだけど?」
「…………要はエタニア殿のように他を圧倒する神覚者は全ての国が何としてでも手に入れたい存在だ。多少、汚いことをしてでもだ」
「まあ何となく言いたい事は分かったけど……そんな事出来るかしらね?レインくんの強さは圧倒的だからね。敵対する事に意味ってある?」
…………これはワシの予想だ。このダンジョンは無事にクリアされるだろう。6人の神覚者に20人を超えるSランクだ。ただ問題はこの後だ。世界がエタニア殿の存在を知った時、自国へ招来する為にありとあらゆる手を使うだろう。手段は問わずな。もしかすると彼が最も大切にしている者を人質にする事もあり得るだろう。
後ろ盾となる国が強ければそれすらもリスクと捉えて行動を起こしづらくなるが……イグニスではな」
「それ……レインくんに言った方がいいんじゃない?」
「いや……言わない方が良いだろう」
「どうしてよ?」
「エタニア殿の性格を考えればこそだ。彼は優しく誰にでも手を差し伸べると聞く。ただそれは敵対しない者だけだ。……まあ当然ではあるな。
しかし先の件を伝えてしまうと彼は近付く者全てを警戒する事になるだろう。彼の優しさの恩恵は世界中に届けられるべきだとワシは思っている。本音で言えば我が国がその恩恵を1番受けたいとは思うがな」
しかしオーウェンはレインの力を1つの国で独占したいとは考えていなかった。レインの力は1つの国のダンジョン攻略に使われるべきではない……と。
その言葉を聞いてオルガが口を開く。
「アンタ何様?レインくんの事を物とかと勘違いしてるんじゃないの?」
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