第134話










「おい!大丈夫か」



 レインはイドラフの手を離しそうになる。それをオーウェンがレインの肩に触れて制止する。



「落ち着け……大丈夫だ。魔力が完全に枯渇して意識を失っただけだ。そのうち目を覚ますし、魔力も数日で回復していく」


 もう1人の覚醒者であるシルダも息が上がっている。額には汗が浮かび苦しそうだ。


「レイン様……本当に無理をする必要はありませんよ?もう私の分も含めて相当な量の魔力を送り込んでいますが……」



「え?……いやぁ…全然大丈夫です」



 レインは総魔力量の5割がようやく回復したかどうかのレベルだった。魔力量が多いとされるSランク覚醒者2人のほぼ全数を供給されても完全回復には全く足りなかった。



 イドラフも自身の魔力も上乗せして供給しているのにも関わらず。



「それほどまでの魔力量であったか。やはりお主は面白い男だ」



 オーウェンは何故か感心している。そんな暇があるならそこで倒れているヴェナルスを介抱してやってほしい。



「…………はぁ……はぁ……申し訳…ありません」


 その言葉を残してシルダも後ろ向きに倒れた。これでレインへの魔力供給は終了した。

 この間も回復のポーションを飲みながら地面に座ってゆっくりしていたおかげで肉体的にも回復した。魔力も全体の半分くらいは回復できた。


 あの巨人が出てきたくらいの水準まで回復できたのは本当に大きい。



「……ありがとうございます。おかげで半分くらいは回復しました。これでまた戦えます」


「は……はははッ…これで半分ですか。本当にすごい御方だ。どうか貴方に神のご加護があらんことを」


「ありがとうございます。じゃあ行ってくるよ」



 レインは阿頼耶の方を見て話す。阿頼耶は少し微笑み頷いた。そして海岸へと視線を戻した走り出した。

 



◇◇◇

 


 

「ちょっと!アンタ!そんな周りに雷バリバリしたら私の氷が割れるでしょう!!もっとあっちに行きなさいよ!」



 オルガの怒った声が響く。



「双子の神覚者か」



 シリウスが迫るモンスターを雷で焼き焦がしながら返事をする。



「私は『凍結の神覚者』よ!お兄ちゃんとまとめてるんじゃないわよ!」



「…………俺たちが来なければ全滅していたのにその態度は何だ?お前ごと雷撃するぞ?」


「やれるもんならやってみなさいよ!騒ぎに騒いで国際問題にしてやるんだから!」


「…………お前、めんどくさいって何回言われてきた?自覚はあるだろ?お前の兄の方がいくらかマシだな」


 

 シリウスは少し顔を逸らして鼻で笑う。そんな時にレインは到着した。



「お前ら……仲良くしろよ。……えーと、シリウスさんでいいですか?助かりました」



「命令ですので。それよりも私としては貴方の力を見せていただきたいな。本当に『殲撃』『霧海』『魔道』を倒したのか?『霧海』の厄介さは有名だし、『魔道』の殲滅魔法は強力で性格も破綻している。優勝という結果は揺るがないが実力は本当なのか?」



「いいよ。どうせ見せるつもりだった。魔力が完全に回復していないから本気はスキルは本気で使えないかもしれないけどな」



 レインは返事を待たずに傀儡を召喚する。復活するのに消耗の少ない騎士を召喚して数を揃えるか、逆に消耗の大きい水龍と上位巨人兵を召喚して一瞬で殲滅するか。



 答えは後者だ。


 

「構わない。将軍が毎日のように皆に自慢していた力を……」



 そこでシリウスは言葉を失った。他のヴァイナー王国軍の覚醒者たちも魔法攻撃を止めるほどの衝撃を与えた。



 海岸線を覆う長さを持つ漆黒の竜、レインたちの背後に立ち並ぶ5体の重装を纏った巨人兵が出現する。



「これが……『傀儡』と呼ばれる所以か?」



「そうだな」



「失礼を承知で聞きたい。コイツらに意思はあるのか?破壊された場合はどうなる?それにこの駒の見た目はあそこで瀕死のモンスターによく似ている。ただの召喚スキルではないって事か?」



 シリウスは堰を切ったように質問する。他の覚醒者のスキルに関して質問するのは良くないとされている。同じ国ですらそう聞ける話でもないのに、他国のしかも最高戦力の神覚者となれば尚更だ。



 国によっては聞くだけでも重罪になり得るかもしれない。



「それはワシにも是非教えてもらいたい」


 何処からか聞きつけたのかオーウェンも来ていた。レインの傀儡に興味があるようだ。オーウェンはヴァルゼルに完封されてしまった。敗北したオーウェンはすぐに帰国していた為、その後のレインの戦闘を見ていなかった。



「ちょっと!アンタたち、それは聞きすぎでしょ!神覚者が神覚者にスキルを聞くなんてあり得ないって!」



 レインがどうしようかと考えているとオルガが間に入る。別に隠す必要はない、聞かれれば答えるというのがレインの考えだ。


 知られた所で対策のしようがないと思っている。それに傀儡はレインが戦い続ける限りほぼ無限に増えていく。



「別にいいよ。こうして助けに来てくれたんだ。そのお礼って事でいいなら」



 その言葉にシリウスとオーウェンは目を丸くする。聞いてみたがオルガの言葉を聞いて我に返っていた所だった。



「い、いいのか?」



 スキルを聞いた張本人のシリウスが問いかける。



「大丈夫だよ。その代わりこのダンジョンのお礼とか後から請求して来ないでくれよ?」



「もちろんじゃ!まあ最初から報酬など受け取るつもりはなかったがな。ワシが今まで出会った中でもお主の力はあまりにも異質なんじゃ。その力の片鱗を見る事は我々にとっても大きすぎる教訓となる」



「…………そんなもんか。まあいいや。とりあえずモンスターは俺が何とかしようか。……ヴァルゼルも来い」



 ヴァルゼルも地面から這い出てくる。



「おお!シリウスよ!コイツがワシの腕と肋をへし折った黒騎士じゃ!召喚した駒の力が神覚者に匹敵するなどこれまで聞いたこともなかったからな!」



 オーウェンはヴァルゼルの肩を叩きながら笑う。シリウスもヴァルゼルの完全武装の鎧や大剣をまじまじと見ている。



「……傀儡、モンスターを殲滅しろ。全て殺していい」



 レインは囁くように話す。するとオーウェンの手を弾いてヴァルゼルがこちらへ向かってくるモンスターたちへと斬りかかる。水龍も巨人兵たちも一斉に海へと向かって行った。



「今のが命令?!もっと大きな声で言わなくてもいいの?!」



 とうとうオルガも聞いてきた。やはりレインのスキルは世界的にも類を見ない物のようだ。みんな気になるし色々聞きたいようだった。



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