第129話









 やはりこのダンジョンのボスは見ていた。ただモンスターを上陸させるだけでは覚醒者たちを倒せない。なら知能を持つモンスターを送り込む。



 それでも倒されたから今度は強い個体を少数送り込む。それでも倒されたから、その倒した奴を模倣したモンスターをありったけの魔力を込めて創り送り込んできた。


 だがそんな事は全てどうでもいい。レインは戦鎚を振り上げてモンスターを引き離した。


 そして間髪入れずに刀剣に持ち替えて斬りかかる。しかしモンスターは容易く受け止めた。


 

 "クソ!クソ!クソ!今ので5人死んだ!俺が油断したからだ。こんな奴が来てると知ってたなら……俺が前に出てたらアイツらは……"



 レインは視界の端には覚醒者の亡骸が見える。



「くそったれが!お前は俺が殺してやる!」



 ニーナの指示の元、人型モンスターに魔法攻撃をしようとしたAランクが3人、レインにポーションを持ってきてくれたBランクが2人、そのモンスターの後ろで倒れている。



 もう魔力を見る事ができない。身体も一部が斬り落とされて確実に死んでいるのが分かる。


 そのレインの後悔を嘲笑うようにモンスターは力を入れてレインを押し戻す。そして一気に斬りかかってきた。レインは後退を繰り返しながら猛攻を凌ぐ。



「やり……づらい。ヴァルゼル!!」



「おうよ!」



 レインはドラゴンの死体を眺めていたヴァルゼルを呼ぶ。この速度の戦闘に参加できる傀儡はヴァルゼルしかいない。



 ヴァルゼルはすぐに来た。そして大剣を振り上げてモンスターの背後から斬りかかる。



「コイツを殺す!手伝え!」



 ヴァルゼルの速度は速いわけじゃない。ただそれを補う加速系のスキルもあるし、コイツは剣しか持っていない。それならヴァルゼルでも……。



 しかしその直後にヴァルゼルの首が飛んだ。それに合わせてレインも魔力も削られた。



「なッ?!……ぐッ!!」



 レインは横から振られた戦鎚を刀剣2本を使って受け止める。しかしその威力が高すぎた。



 全力で踏ん張っても身体が宙に浮いた。そして続け様に蹴りを入れられた。その蹴りでレインは近くの木を薙ぎ倒しながら吹き飛ばされる。



 レインは体勢を整える為に剣を地面に突き刺す。地面を裂きながら進みようやく止まった。



 "アイツ……いつの間に戦鎚を?まさかスキルまで"



 視線を前にするとモンスターは既に目の前にいた。そして戦鎚を振り下ろそうとしている所だった。レインは咄嗟に盾を召喚して〈支配〉で固定する。



 しかしモンスターはその盾ごとレインを押し潰そうとする勢いで戦鎚を振り下ろした。何とか盾を支えるがメキメキと音を立てながら押し込まれる。


 レインは盾の下から刀剣でモンスターの脚を斬り落とそうとするが、直前でジャンプし回避される。盾への攻撃が止んだ所で抜けようとしたが、今度は落下の勢いを乗せた戦鎚の一撃が盾とレインを襲う。


 レインは盾を放棄して転がるようにそこから抜ける。支えを失った盾は地面深くに沈んだ。レインがそこから抜けたことを確認したモンスターは地面を抉りながら戦鎚を振り上げて攻撃しようとする。


 舞い上がった土煙で視界が奪われる。魔力を見るレインに大きな影響はないが、土の一部が目に入る事で物理的に視界を奪われた。レインの〈真・魔色視〉も目を開いていないと見ることは出来ない。



「クソッ」



 レインは目を擦って視界を確保するが、その数秒は命取りとなる。片目の視界を確保した時には戦鎚の一撃が顔面を直撃する寸前まで来ていた。



「旦那!!」



 しかし戦鎚が直撃する前にレインは後ろからの力に引っ張られる。戦鎚は周囲に突風を起こして空振りした。



 復活したヴァルゼルは戦闘に参加する機会を近くで伺っていた。モンスターの狙いはレインのみに絞られている。



 他の覚醒者たちも同じだった。援護の為に接近すれば確実にレインの邪魔になるか、自分が殺されるだけだ。



 人型モンスターが出てきてからも他のモンスターの上陸は止まっていた。だから神覚者とSランクを中心とした覚醒者たちは、その人型モンスターを取り囲むように配置されている。


 しかし何も出来ないでいた。それは神覚者やSランクは常人離れした強さを持つが故に、その人型モンスターとの実力差を直感で理解してしまい動けなかった。


 さらに人型モンスターは常にレインに肉薄している。だから遠距離攻撃魔法による援護も行えない。近くに行って支援魔法をかける事も出来ない。



「ヴァルゼル……すまない……助かった」



 モンスターを距離を取れたレインは一息吐こうとするが、すぐにモンスターが戦鎚を振り上げて接近する。



「旦那は退がって体勢を整えろ!このままじゃ何も出来ずにやられるぞ!」



 ヴァルゼルはレインとモンスターの間に入り込み、戦鎚を身体で受け止める。ヴァルゼルの脚はその衝撃を証明するかのように地面に沈む。

 しかしモンスターがもう一撃を加える前に大剣を振って牽制した。



 モンスターは大剣をジャンプしながら空中で回転して回避した。そして蹴りを入れると同時に刀剣でヴァルゼルの身体を3つに裂いた。



「やっぱり……収納スキルか。それにヴァルゼルのスキルも把握している」



 その光景をレインは後ろで見ていた。大剣をジャンプで回避した時に戦鎚が消えてモンスターの手に収まるように2本の刀剣が出てきた。そして蹴りに対してヴァルゼルのスキルが発動すると同時に剣で両断した。



 そこから間髪入れずに今度は剣でレインに斬りかかる。もはやここではこのモンスターと速度やパワーで対等に渡り合えるのはレインだけだった。


 

 

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