第110話
◇◇◇
レインたちは再度集まりオルガの案内で客船へと乗り込んでいく。やはり浮かんでいるという感覚のせいで違和感がある。
ただ内装はとても乗り物とは思えなかった。レインの屋敷の部屋のような高級感漂う部屋が並んでいる。
そもそもレインは船をちゃんと見た事すらなかったから船着場にあった木材の6人乗りくらいの小さな船で行くと思っていた。それしか船がなかったから。
それなのにこの船は3階建てというし、これが動くのかというくらい大きな船だし、イグニスでは見ることも出来ないような乗り物だった。
豪華な部屋が並ぶが、その中でもさらに大きな部屋にそれぞれの代表が並んで座る。
代表といってもメルクーア側はオルガだけだし、こっちはレインとニーナだけだ。
「こんな大きな物が動いてるなんて信じられませんね。イグニスにはこんなの作れなさそうです」
「レインさん!作ろうと思えば作れますけど?イグニスには海がないのと街道の整備も進んでいるので大きな馬車ではなく小さな馬車を沢山動かしているだけです!」
「そ、そうなんですね」
ニーナはかなり食い気味に話した。ニーナはイグニスという国に対してかなり思い入れがある。あまりに違う評価を述べると強く否定するようだ。
これからは気をつけないといけないと思ったレインだった。
◇◇◇
船での旅は約2時間ほどだった。人によっては気分が悪くなる事もあるから心配していたがそんな事はなかった。
「はぁーい!メルクーア王都『ルイーヴァ』に到着ー!!」
オルガと兵士に案内されるように船を降りて地面を踏んだ。そしてすぐ前には巨大な扉と街全てを囲い込むように建てられた塀が見えた。
やはり王都となると何処でもこんな感じで守りを固めているんだろう。この世界はダンジョンとモンスターだけが敵じゃないから。
そのまま城門を通過して中へと進んでいく。街は『テルセロ』にとても似ている。外側に家や飲食店が並び、中間に覚醒者組合や武具屋が建てられている。
そして奥に続くに連れて貴族たちの豪邸やギルドマークが描かれた大きな建物が出てくる。
イグニスから派遣された攻略隊はその街並みを眺めながら進んでいく。
ただメルクーア王都内では緊急時を除いて馬車の使用が禁止されているらしく徒歩での移動だ。
やはり武装した兵士や覚醒者たちの一団が、この国の神覚者であるオルガに案内されていると注目を浴びる。
そしてレインたちがなぜここに来たのかも全員が理解しているようだった。
Sランクダンジョンの崩壊という国家存亡の危機を解決する為に助けに来た者たちだ。
拍手や歓声といった歓迎ムードではないが、拝む者がいるくらい切迫した状況ではあるようだ。
レインたちは案内されるがまま王城へと向かう。そこで今回の攻略メンバーと落ち合うようだ。そんなこんなで王城へ入った。
そして応接室にエリスと阿頼耶、Sランクも含めた6人で移動する。
オルガと兵士たちは国王や他の神覚者を連れて来ると言って離れて行った。
……と思ったらすぐにそこそこの人数がゾロゾロと部屋の中に入ってきた。先頭を歩く人以外は全員が覚醒者だ。覚醒者はオルガも含めて5人いる。
「イグニスの皆さん本日は遠い所からお越しいただきありがとうございます」
イグニスの国王よりも老けたお爺さんみたいな人が入ってきた。
多分のこの人が国王だな。だって王冠してるし。あれ思うんだけど重いとかならないのか?装飾されてるから首とか痛めそうだ。
「私はこの国を治める王をしておりますエルドラムと言います。よろしくお願い致します」
この国の王もすごい低姿勢だ。これが普通なのかだろうか。確かに国の発展を支えているのは紛れもなく覚醒者の存在が大きい。
そうした事を理解していて行動に移している人なのだろう。
国王エルドラムが着席する。そしてそれに続くように他の者たちも座った。
「ではエルドラム様、現在の状況を教えて下さい。各国の応援はどうなっていますか?そちらの方々の紹介も含めて教えていただけると助かります」
ニーナがまず口を開いた。こういう時に仕切ってくれる人がいるのは助かる。レインにはなかなか出来ない事だ。
「はい、承知しました」
国王は軽く頭を下げてから話し始める。
「まずSランクダンジョン『海魔城』周辺の海は大荒れです。船で行けばどれほど大きな高速船を用いても沈没してしまうでしょう。
その範囲はどんどん広がっており我々の生命線である漁が全く行えない状況です。
我が国の資源はもともと長期保存が出来ない為、すぐに備蓄もそこをついてしまう。なので早急に対応せねばなりません」
国王の表情は必死そのものだ。この国の現状がどれほど切迫しているのかを1番よく理解している。
「各国からの応援は?」
ニーナは続けて質問する。
「それが……要請を受け、参加いただけたのはイグニスの皆様だけです」
「……そうですか」
ニーナの口調的に予想はついていたようだ。イグニスの国王もそう言っていたから当然ではあった。
「ほとんどの国は他国に戦力を割く余裕がないものが多かったです。メルクーアは他の国と隣接する訳ではありません。
Sランクダンジョンの攻略は必ず死者が伴います。
ダンジョン
まあそうだろうな。レインがもし国王であってもやらないと思う。もしくは覚醒者の判断に任せるとかだろう。
今回イグニスが協力したのは報酬に惹かれたからだ。あと距離が近いっていうのもありそうだ。ダンジョン崩壊後にメルクーアが滅べば陸地を渡ってイグニスにも来るだろう。
「では……ここにいる5人と…メルクーアからは何人が?と言ってもそちらの方々ですよね?」
「仰るとおりです。我が国からは神覚者が3人とSランクが2人の5人です。この国の神覚者全員が参戦します」
「お待ち下さい。Sランクが2人?貴国にはSランクが少なくとも15人はいるはずですよね?なぜ2人しか参加しないのですか?」
「それについては本当に申し訳なく思っております。我が国にはSランク覚醒者を強制的に動員する規則がありません。お願いをするという立場にあるので……今回は……」
「そうですか」
要はみんな断ったって事か。Sランクなんてどこの国でも常に望まれている。別にこの国でなくてもいい。国の為に命を賭けるほど殊勝な覚醒者も珍しいか。
「計8人のSランクで挑むと言う事ですね」
「…………そうなります」
メルクーア国王のエルドラムはなんとも言いづらそうだ。そりゃそうだろう。
『始まりの王城』と呼ばれたエスパーダのダンジョンではSランク、Aランクが何十人も死んでいる。しかもどんなダンジョンだったのかというのが公表されていない。
Sランクダンジョンというのは規格外だということ以外は何も分かっていない。
「……そうですか。もう他の国から援護は期待できませんか?」
「はい、残念ながら。しかしどうかお願い申し上げる!あのダンジョンの崩壊はこの国だけでなく世界の滅亡に繋がると確信しています!なのでどうか……どうか」
国王は何度も何度も頭を下げた。一つの国を治める王が何度も頭を下げる光景はこの先見る事もないだろう。そう思えるほどこの人は必死なんだ。
「分かってます。その為に俺たちは来ました。神覚者が俺含めて4人にSランクも5人いる。あとから『黒龍』のマスターの…………」
名前なんだっけ?ど忘れした。うるさい奴ってイメージしかないし、名前を呼び合う仲でもないからすぐに出てこない。
「…………サミュエルです」
ニーナのフォローが入った。ものすごく小さい声で。
「サミュエルも来る!……AランクとBランク覚醒者も参加するんだろ?」
「はい、こちらは40名を予定しています」
「ならこっちと合わせたら…………」
ちょっと待ってくれ。2桁の足し算がうまく出来ない。レインは横目でニーナを見る。
「…………60人です」
ニーナはレインが少し止まったのを察してすぐに教えてくれる。さっきよりもさらに小さい声で。
「60人もいる。何とかなるだろ!」
レインの自信に満ちた声が部屋に響く。ニーナに助けを求めてなければ格好良く決まったはずだった。
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