第103話
「いや……もうそういうのは何とかしないと駄目だ」
戦闘を続ける傀儡たちと毒人形に向けて手のひらを向けた。傀儡たちは巻き込んでも問題ない。確実にあの毒人形を焼き殺す。
"イメージするのはカトレアだ。あいつは嫌いだがあいつの魔法は確かに精錬されていて強かった。世界最強の
レインは魔力を手のひらに集める。手の方がじんわりと熱くなるのを感じる。レインは少しだけ目を閉じて頭の中で思い浮かべる。
"カトレアが使っていた魔法をイメージしよう。あとは料理で使ってる火を大きくする。アイツを焼き尽くすんだから火力を最大にする。
……飛ばすとか分からないから投げつけよう。炎を丸い球体に押し込て投げつける!"
そしてレインは目を見開いて命令を出してから魔法を叫ぶ。
「ヴァルゼル!そいつを押さえ付けろ!」
レインの声にヴァルゼルと傀儡たちは振り向く事なく遂行する。一斉に飛びかかり毒人形にしがみ付く。防御を捨てた為、すぐに傀儡たちは両断されていく。
しかし数秒稼げれば十分だった。頭の中で作り上げた炎の魔法に集めた魔力を全て投入する。
「
レインは腕を振りかぶって投げる動作をする。そしてレインの言葉と動きに反応するように毒人形と傀儡たちの足元から炎が噴き出した。
それは渦となって毒人形と傀儡たちをまとめて包み込み空へと昇る。
その場には炎によって形作られた柱が完成し、上空にあった雲すら吹き飛ばした。
その時の天候は、やや曇りから晴天へと切り替わり、周囲に眩しい光と
炎の中でヴァルゼルたちが消滅し、召喚が解除された気配を感じた。ただ毒人形の気配は分からない。
「………………思ってたのと違う」
"はぁー…アンタは魔法使わない方がいいね。センスが無さ過ぎる。何が
うるさいと言いたかったが、事実なので何も言い返さない。言い返すこともできない。
本当に適性がない事を自ら証明する形となってしまった。レインはただ天まで燃え上がる炎の柱を眺めるしかなかった。
「……この炎ってどうやったら消えるんだ?」
"その魔法を発動するために使った魔力が無くなったら消えるよ。だからその内消え……アンタどれだけ魔力込めたの?"
「魔力にどれだけ込めるとかあまり無いだろ?とりあえず、こう……ガッとやった」
"アンタ……やっぱり馬鹿なんだね"
「馬鹿なのは自覚してるが改めて言われると悲しくなるな。……まあ俺が出したもんなら俺が剣とかで斬れば何とかなるんじゃないの?」
レインはもう一度剣を召喚して構える。そして力を込めて炎の柱を横に両断した。
斬った瞬間にレインの方にも熱気が押し寄せたが耐えられるレベルだった。炎の柱は両断した所から消失していき数秒後には完全になくなった。
それなのにまだ周囲に熱を残している。それだけであの炎の火力が相当だったと予想できた。
「死んだ……よな?」
レインは油断する事なく警戒を続ける。あの毒人形には魔力をそこまで感じなかった。
つまりレインの目から逃れる事が可能だ。もし逃げていたとしたら追う事は出来ない。
ただあの状態から抜け出して逃げられるほどアイツは速くないと思いたい。
「レインさん!!」
その時、後ろから声をかけられた。大きな魔力が近付いている事には気付いていたが誰なのかは分かっていた。
「……ニーナさん」
振り返るとニーナがいた。防具が施された赤いコートを着ている。さらにニーナ自身より少し短いくらいの黒い太刀を腰に下げていた。
これまで見たどの装備よりも強く大きい魔力を放っている。
「ご無事ですか!さっきの炎はなんですか?」
ニーナは息を切らしてレインへと向かっていく。おそらく相当な速度で駆けつけてくれたんだろう。
「ニーナさん、俺は大丈夫です。……ただ確認してほしい事があります」
「何でしょうか?」
「この辺にさっきのモンスターの気配はありますか?初めて使った炎の魔法で姿が確認出来ないままこうなってしまって……」
ニーナのスキル〈領域〉は範囲内の魔力を持つ全てを認識するというものだ。あの毒人形は魔力がそこまで感じられなかっただけで魔力が全く無いわけじゃない。
レインの目でも察知は可能で既に周囲にそれらしき色は見られない。それでも念には念を入れておきたかった。
あの毒人形がニーナの〈領域〉外に出てしまっていたらそれまでだ。もし逃げていたのなら次見つけた時に必ず殺そう。
「…………いえ、この辺りには私たち以外に誰もいないようです。全員逃げられたみたいですね」
「……そうですか。……ヴァルゼル」
レインはもう一度ヴァルゼルを召喚する。
「……ああ…熱かったぜ。まさか鎧ごと融解されるとは思わなかったな。…………で、何で呼んだんだ?」
「お前、消滅する時までちゃんとアイツを掴んでたか?死体もないし死んだ所を見てないから不安なんだ」
「あ?……ああ、アイツが真っ先に溶けて死んだぞ。さっきも言ったがアイツは火に弱いんだ。だからあんな火力はいらないだがなぁ」
「…………それなら良い。戻れ」
レインが手を払うように動かすとヴァルゼルはその場で消えた。これであのモンスターが確実に死んだ事がわかった。本当はこの目で確認したかったが仕方ない。
「……あのモンスターは死んだようです。ちょっと大袈裟に騒ぎすぎましたね」
レインは少し反省した。こうなると分かっていたらあそこまで騒ぐ必要がなかった。
そのせいで多くの人間が王城方面へ詰め掛けただろう。それにニーナも完全武装で駆けつけてくれた。
「そんな事はありません!私たちではあのモンスターを倒すのにもっと時間がかかっていたはずです。時間を掛ければかけるほど他の人にも被害が出る可能性も高くなります!
レインさんがモンスターを1人で引き受けてくれたから私たちも装備を切り替えたり、国民を避難させたりできたんです。胸を張ってください!」
ニーナはレインを真っ直ぐ見つめて話す。そこには嘘も誇張もない。ただ純粋にレインの行為を認め、称賛していた。
「ありがとうございます。……じゃあ戻りましょうか」
ニーナの言葉にレインは少し救われた気分になった。そしてすぐにシャーロットがいるであろうレインの屋敷へ向けてニーナと共に歩き出した。
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