第99話
◇◇◇
「それではすぐに食事を運んできますので少しお待ちください」
そう言ってアメリアとステラが大広間から出ていった。阿頼耶にも手伝うようお願いして行ってもらった。
1つのテーブルには5人くらいが座れるものだ。それが4箇所用意されている。20人が座れるがアメリアたちを入れても12~3人だ。十分な広さだろう。
ただレインの横に誰も座らない。反対側はエリス用と札が置かれていた。
別のテーブルにはロージアとリグド、サミュエルの『黒龍』組が既に座っていた。
目の前にはニーナとシャーロットが睨み合っている。ボソボソと小さい声で何かを話している。今は強化スキルを使っていないからよく聞こえない。ただレインには伝えないといけない事があった。
「シャーロットさん、こっちに座って下さい」
レインは自分の横の空いている席を指差す。
「え?!」
ニーナがデカい声を出す。ダンジョン以外では聞いたことのない声を出すからビクッとした。
「まあ!もちろん喜んで!」
シャーロットは自身の頬に手を触れて嬉しそうにこちらにスキップでやってくる。
重そうなドレスを着ててよくそんな動きが出来るもんだと感心した。
シャーロットはすぐに隣に座り頬杖を付いてまっすぐニコニコしながらこちらを見ている。
レインの向かい側には親指の爪を噛みながらブツブツ何かを言いながらニーナが座った。
「……楽しい話は一旦後にしましょう。ここに来るまでの間にあったダンジョン
その言葉で全員がこちらに視線を送った。シャーロットも綺麗な姿勢と王女としての顔付きを取り戻す。
「ダンジョンの件ですか?」
「はい、シャーロットさんはランディアという村を知ってますか?」
「…………ランディア。確かイグニスと『エルセナ』を結ぶ街道沿いの小さな村だったと記憶しております。ここ『テルセロ』の北西の位置にある村ですね」
「そうです。……俺が聞いた事がないだけかもしれませんが、使われていない小屋の中にダンジョンが出現して、そのまま兵士や派遣されていた覚醒者も気付かず崩壊しました」
「……小屋の中に?!それで村の被害は?」
シャーロットの反応を見るに初めて聞くようだ。良かった。普通によくある事だとか言われたらどうしようかと思った。
「兵士や覚醒者たちが頑張ってくれたおかげで俺が来てからは怪我人こそいましたが、村人に死者はいませんでした」
「…………そうですか。それは良かったです」
「レインさん……村人に、という事は兵士か覚醒者の人が……」
ニーナの指摘にシャーロットも口を押さえた。
「はい、3人死にました。これに関しては誰も悪くないです。ただ……それでもその死んだ兵士に家族がいるならば何か助けてあげたいんです。
それとこの国の全て村や町に兵士か覚醒者を追加で派遣するか、見逃しているダンジョンがないかを確認してほしいと思いまして……」
「承知しました。亡くなった兵士を調べて家族には国家への貢献の褒賞としてこちらで考えて何か贈りましょう。あとは兵士の派遣ですね。……人数的や財政的に常駐させるのは難しいので、お父様にお願いして王命で全ての人が住む場所で大規模な捜索を実施します。
発見されればすぐに組合本部から攻略パーティーを編成して派遣します」
シャーロットはレインの願いを聞いて今後どうするかをすぐに提示した。それに関してレインに異論は全くなかった。この国の王女がシャーロットで良かったよ。兵士を1人の人間として見ているから。
「さて、報告は終わりです。そろそろ食事も来るかな?皆さんゆっくりしてってください」
「はい!」
シャーロットの元気な返事だけが響いた。
◇◇◇
「はぁ……うめぇ……」
『ハイレン』での食事は不味いわけではなかった。ただやはりアメリアの作る料理が美味すぎた。
レインは黙々と食べる。全ての食事を運び終えたのを確認したらアメリアたちも席について一緒に食べるようにしてもらった。
クレアはエリスが起きたら連れてきてもらうように指示してある。あとは各々が話をしている感じだ。
「レインさん!ヴァルグレイ将軍はどれほどの強さでしたか?」
アメリアの食事を堪能しているとレインとシャーロットの間に入り込むようにニーナが来た。
「ヴァルグレイ……ああ、オーウェンか。……うーんまあ強かったよ?1回戦の相手だったけど、すごい油断してくれたからそこまで苦労せずに済んだな。
本当に強かったのはカトレアだった。ローフェンに治癒してもらってなかったら腕が無くなってたよ」
「ヴァルグレイ将軍の強さは世界でも有名なんですけどね。苦労せずに勝てたなんて言える人はそんなにいませんよ?……それにローフェンですか?『治癒の神覚者』のローフェン・クラティッサの事ですよね?」
「その人です。よく知ってますね」
「有名な神覚者の名前と称号くらいですね。神覚者はその国の切り札みたいなものですから何でも知ってるわけじゃないですけど。
ヴァルグレイ将軍もかなり強い部類ですけど、あの国最強の神覚者は別にいるらしいですし」
「そうなんだ。他に強い奴がいるのにあんな必死に勧誘してきたんだな。大将補佐の地位を用意するとかなんとか……」
レインはなんとか思い出す。金や地位に関しては興味もなかったからオーウェンとの会話をそこまでしっかり覚えていない。
「え?!そ、それって……実質ヴァイナー王国軍のNo.2じゃないですか!レインさんの力をそこまで認めているなんて」
ニーナもシャーロットも驚く。そんなにすごい事なのかとレインには当然だが理解できない。
「ヴァイナー王国軍ってどんな感じなんですか?……まあこの国の兵士の事も知らないですけどね」
兵士という職業は当然知っているが、どうやってなるのかは全く知らなかった。
「それでは簡単に私が説明致しましょう。ニーナさん?ちょっとそこを退いてもらえます?」
シャーロットは自分とレインの間に立っているニーナを押し除ける。
ニーナは渋々移動し別のテーブルから椅子を持ってきて三角の形になるようにレインの斜め前に座った。
「まずヴァイナー王国軍は我が国とは違って覚醒者のランクに限らずは全員兵士となり王国軍の管轄になるんです。これは王命で決められているので絶対ですね。あと徴兵制というもの取り入れています」
「……ちょうへいせい?」
どんな字を書くのかもレインには分からない。
「はい、それも我が国とは違いますね。ちなみに我が国は志願制といってなりたいと思った人に試験をして合格すれば兵士となります。
『ヴァイナー』は……確か18歳になると150日の訓練期間があり、その後は希望で辞めてもいいし、続けてもいいだったはずです。
ただ噂程度ですが、待遇はかなり良いので辞める人は訓練について行けなかった人らしいです。その徴兵制というのは8大国の中でも『ヴァイナー』と太陽の国『ヘリオス』の2カ国だけで実施されています」
「…………それでその国の人は良いんですかね?無理やり兵士にさせられるんですよね?反発とか起こりそうですけど」
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