第89話
――スキル〈限界突破〉を使用します――
――スキルを解除するまで身体能力を超向上させます。スキル使用時間に比例して反動も強くなります――
スキルを使用した直後から身体の中から無尽蔵に力が湧き出てくるのが分かった。
そしてこのスキルの反動も凄いことになると直感しすぐに行動に移す。天使が振り返るまでが勝負だ。
レインは自分の前に並ぶ騎士に盾を空へ向けるように指示する。騎士たちはすぐに行動に移し、レインは盾を足場にして全力で飛んだ。
ドンッ!――その衝撃で足場になった傀儡たちは後ろへ吹き飛んだ。天使との距離は一瞬で縮まる。その時になってようやく天使はレインの接近に気付いた。だがもう遅い。
レインは取り出した大剣に〈支配〉による加速を上乗せして天使の首に刃を当てる。
"かってぇ!!!"
天使は全身を白銀の鎧で包んでいる。首も同じだ。鎧が硬すぎて大剣の刃が通らない。バチバチと火花を散らすだけだ。
「ああああああ!!!斬れろ!!!」
首に少し切っ先が入り込んだ時に天使の手から魔法陣が作り出される。それはレインの腹に押し当てられるように展開させた。
そのまま魔法が炸裂すればレインの上半身は消し飛ぶだろう。
「それまでに何としてでも斬り落とす!」
大剣は確実にゆっくり入り込んでいくが天使の魔法の方が明らかに早かった。
「旦那ぁ!!!」
レインがいる空中の少し下からヴァルゼルの声が聞こえた。視界の端でその姿を捉える。そして既にヴァルゼルは自身の大剣をレインに向かって放り投げていた。
レインは自分が持っていた大剣を手放した。そしてすぐに身を翻す。その直後に天使から雷撃が放たれた。少し足に掠ったが問題ない。
魔法を回避する為とはいえ剣を離してしまったレインは落下する。空を飛ぶ手段をレインは持っていない。
しかし今は両手が空いている。身体能力の強化によって思考も加速する。今ならアルティのように〈支配〉で複数の刀剣を操れるだろう。
レインは自分の足元に盾を出現させ〈支配〉によって固定する。それを足場にして天使へ向けて跳躍する。その時、ヴァルゼルが投げた大剣が近くまで来た。当然、直接手に取る事は出来ない。
それも〈支配〉で無理矢理引き寄せた。天使は迎撃の為に、複数の魔法陣を展開しているがレインの方が僅かに速かった。
既に天使の首に刺さっている大剣を後ろから押し込むように斬りつけた。
渾身の力でヴァルゼルの大剣を握りしめ、〈支配〉で加速させる。そして既に天使の首に刺さっている大剣にも〈支配〉を使って押し込む。
「落ちろぉぉ!!!クソったれがぁ!!!」
レインの叫びに乗せた渾身の力は天使の首にある刃をさらに押し込んだ。
ザンッ!――そこから天使の首を落とすまで時間は掛からなかった。首を落とされた天使はゆっくりと地面へと落下していく。展開していた魔法陣も空気に溶けるように消えていった。
「…………倒した、このままカトレアをッ」
レインは再び盾を足場にしてカトレアの方を向いて突撃しようとする。
「〈
レインの視界の半分が炎に包まれた。そして左腕の感覚が丸ごと消え失せた。さらに焼け焦げる嫌な匂い。
レインは左側を見る。やはりそうだった。肩から先が無くなっている。カトレアの放った熱線がレインの左腕を焼き消した。
しかし幸いな事に傷口はそのまま焼かれたから血は出ていない。痛みも今はまだない。
ただ問題もある。四肢の損失は審判の判断によっては敗北となる。つまりはレインがこのまま着地する前に決着させねばならない。
「……………終わりね」
カトレアの勝ち誇った表情が見えた。傀儡たちもカトレアまで辿り付けなかったようだ。
勝利を確信したカトレアはただ何もせず落下していくレインを見ていた。それを見たレインは微笑んだ。
「………………良かったよ。お前が
レインは右手を握る動作をする。
「……何ッ…………ゴボッ…」
突如としてカトレアの背後から出現した3本の刀剣が、カトレアの脚、腹部、そして喉に突き刺さった。
そのままレインは手を振って刀剣を左右に引き離す。まだ治癒魔法で回復してくる可能性だってある。確実に斬り殺さなくてはならない。
カトレアの身体は4つに分けられた。そしてすぐに水晶の要塞は崩れ落ちる。
「…………勝った、勝ったぞ…………エリス」
地面へ落下するレインをヴァルゼル空中で受け止める。そのヴァルゼルを巨人兵が踏み台になるように受け止め、ゆっくりと地面に降ろされた。
「旦那ぁ……やったじゃねぇか!」
「お前らも……ご苦労だったな」
その言葉を受けてヴァルゼル以外の傀儡は消えていった。ヴァルゼルもレインをゆっくり地面に寝かせてから消えた。そしてあの声が轟く。
「決着ーー!!!!!勝者!レイン・エタニアー!!!『決闘』優勝者はレイン・エタニアに決まったー!!!!」
その言葉と同時に耳をつんざくような大歓声が闘技場全体を包み込んだ。それと同時に覚醒者が一斉に雪崩れ込んでくる。
カトレアは死亡し、レインは左腕を失った。時間が経過しているのはレインの方だ。走ってくる覚醒者の中にローフェンの姿があった。
「レインさん!!ご無事ですか?!」
ローフェンは自分の真っ白な衣服が汚れる事なんて一切構わず膝をついてレインの肩に触れる。
「…………何とか…生きてますよ」
「すぐに元に戻します!他の者は治癒を使いなさい!」
「「「ハッ!」」」
ローフェンのスキルによって左腕が肩から生えてくるように元通りになっていく。そして別方向からは複数の治癒スキル持ちの覚醒者が一斉にスキルを発動する。
骨も折れてるし、全身ボロボロだ。この光景はエリスには絶対見せられないな。
「…………レインさん、どうですか?痛みはないですか?」
ローフェンは治癒を施しながら問いかけてくる。
「痛みは……ない……です。あれ?……でも…なんか」
「レインさん?あの…血が……」
「………………え?」
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