第77話
隙間から見えた広い闘技場に一切の空席は見当たらない。止むことのない大歓声がこの『決闘』の注目度を表している。
運営国である『ハイレン』が無作為に取り決めたらしいトーナメントでレインは第1試合からだと決まっていた。さっき知った。一応、横に職員の人がいるが会話はない。
対戦相手はまだ分からない。闘技場内に入場して初めて分かるようになっている。観客に対しては参加者のみ分かるようになっているらしい。
レインは規則を思い出す。武器などの持ち込みは自由だ。禁止されているのは事前に他の者から支援魔法をかけてもらう事、ポーションなどの回復薬の使用、対戦相手以外をも巻き込む範囲攻撃魔法やスキルの使用だ。全て自分が扱えるスキルと魔法のみで戦う。
それらを行った場合は即敗退といった厳罰となる。怪我を負った場合は可能な限り治療するが後遺症が残った場合はその責任を負わないとか死んでも同じとの記載もあった。
要はこっちは頑張って治療はするけど、死んでも自己責任だよ――って事だと言っていたな。
「……思ったよりルールが厳しかったな。まあここにいるのは全員あの誓約書にサインしてるって事だから納得の上なんだろう」
勝敗のルールも細かく決められていた。基本的には降参するか、戦闘継続不可能と審判が判断した場合とあった。しかし特記事項のようなもので部位(四肢)を欠損した場合も敗北と見做すとあった。
おそらく手脚を失うといった後遺症を警戒してるんだろう。『ハイレン』にいる『治癒の神覚者』は対象の状態を数分前に戻す事が出来るらしい。
受付の女性に説明されただけでまだ確定したわけじゃないがみんながそう言ってるならそうだと思う。
「……エリス待っててくれ。ここの参加を全員殺してでも……必ず優勝して手に入れてみせる」
レインの決意これまで以上に固い。
「さあ!みなさま!大変長らくお待たせ致しましたー!!此度は過去に優勝した経験がある覚醒者が勢揃いしております!!みなさまにも満足していただける『決闘』となるでしょう!!
これより『決闘』第1試合を開始致します!!」
ここにも聞こえるくらいの大きな声が響く。スキルなのか魔法なのかは不明だが自分の声を拡大して周囲に伝えている。拡声の為の道具でもあるのか。
そしてそれに続く大歓声。もう間も無く始まる。ここの参加者は全員がSランクか神覚者なのは確定だ。Aランクが参加しても死ぬだけだろう。
さらに訓練ではなく全力で殺しにかかってくる。相手の力を見極める必要はない。先手必勝、一撃で終わらせるくらいの覚悟で挑む。あと審判ですら『決闘』と呼んでいる。
という事を思うレインですら正式名称は覚えていない。
「それでは覚醒者の入場です!」
その言葉が響くと同時にレインの目の前にあった分厚い扉が開かれた。しかし職員は手を出して制止する。まだ名前が呼ばれてないから入るなって事だ。
「まずは西門!!過去に3度の優勝経験があり、今回も優勝候補筆頭!!戦の国『ヴァイナー』王国軍大将!『殲撃の神覚者』!オーウェン・ヴァルグレイ!!!」
「「「わあああああ!!!」」」
地面が揺れるほどの大歓声だ。最初から神覚者が相手か。上等じゃねえか。
「対する東門!炎の国『イグニス』史上初の神覚者となった新星!『傀儡の神覚者』!!レイン・エタニア!!」
初参戦という事もあり歓迎はまばらだった。さらに『傀儡の神覚者』の傀儡の部分に疑問がある人が多いようだ。
だがそんな事を気にするほどの余裕はない。レインが覚醒者という地位にしがみつき運と努力でここまで来た唯一の目的。やっとここまで来た。
レインは職員に視線で確認を取り入場する。日差しが照りつけ眩しく感じる。闘技場はかなりの広さだった。
縦150m、横150mほどの円形の闘技場だ。地面は固められた土が敷き詰められていて周囲を取り囲むように観客席が設けられていた。
観客席の上の方には個室のような部屋もある。多分あそこが国のお偉いさんとか貴族とかギルドマスターがいるんだろう。
そして向かい側には対戦相手が立っていた。歳は分からない。多分40代とかその辺だろう。白髪に無精髭を生やしたおっさんだ。重そうな鎧を纏い、分厚い手甲が目立っている。
『殲撃の神覚者』か。どんなスキルなのか見当もつかない。しかし武器を持っていないところを見ると近接戦特化の戦闘スタイルだと思う。
お互いがお互いを認識したところで闘技場真ん中にいる審判に手招きされる。向こうは分かっていたようで既に中央へ歩き出していた。
レインもすぐに歩いて向かう。試合開始前に挨拶でもするようだ。
すぐに到着しお互いが向き合う。向こうのほうが背も高く、筋肉もすごい。
「小僧……運がなかったな」
『殲撃の神覚者』オーウェンは向かい合った瞬間にそんな言葉を放った。
「あ?」
「『イグニス』とかいう国から出た初めての神覚者という事はそれなりに期待されて送り出されたのだろう。
しかし最初の試合でワシと当たってしまうなど、余程神に見放されておるのだろうな」
既に勝ったような口調で話すオーウェンに対して良い気はしない。
「別に国の為にやってるわけじゃない。それに何でアンタが勝つ前提なんだ?やってみないと分からないだろ」
「クハハハハッ!誰もがそうよ。小さな国の頂点になった事で自惚れ過信する。世界は広いという事を理解出来ておらぬのだ。
……それに国の為ではないと言ったか?神話級ポーションは王家に献上し、緊急時に利用してこそ価値があるのだ。……まさか小僧、神話級ポーションを王族ではない家族や友人の為に使うなどと言うのではあるまいな?」
「だったら何だ?悪いのか?」
家族という言葉にあの子の笑顔が浮かぶ。それを否定したコイツに怒りを覚えた。
「はぁー……怒りを通り越してもはや哀れよのう。さらには『傀儡』などという不名誉な称号も与えられておる。……よかろう。この試合が開始されたら3手……3手だ。小僧に譲ってやる。ワシは回避はするが絶対に反撃はしないと誓ってやろう」
オーウェンは指を3本立ててレインに突き出す。
「へぇ……じゃあお言葉に甘えようかな」
"レイン……良いの?コイツはレインを明らかに見下してるよ。そんな提案を受けちゃったらさっきの事を認めてるようなもんじゃない?"
"別にいいよ。楽に勝てるならそれに越したことはない。この提案をした事を後悔させてやるよ"
"まあ……頑張んなよ。レインなら大丈夫さ"
「それでは両者位置について下さい!!」
レインたちの会話が終わった事を確認した審判がお互いの立ち位置を指示する。というか闘技場に入った時に白い線が引かれていた。
お互いの距離が大体50~60メートルくらい離れた場所に向かい合うようにして立つ。
「それでは!!…………開始!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます