第39話
レインは左手にも別の剣を取り出した。相手は大剣を振り回してる。一撃の強さでは勝てない。ならば手数で勝負する。
傀儡どもはこの戦闘では邪魔なだけだ。召喚していた奴らも含めて入口付近に集めた。
あの男と一騎討ちの形をとる。
「お前……何だ？他の奴とは違うな」
「何が？」
「まあいい。久しぶりの客だが飽きてきたな。これなら寝てる方がいい。さっさと殺して寝ると……」
ガギィィン！！！！！
この場内に響き渡るほどの大きな音が鳴った。
「かったいなぁ」
レインはベラベラと話す男に接近して、空中から2本の剣で首を落とす為に全力で振るった。
「…………イッテェなぁ！！」
男は激昂し大剣をレインへ振るう。だが、身体強化のスキルを全開で使用しているレインにとっては遅いとすら思える。
"あの一撃でも痛いくらいか。……という事は斬撃に対して耐性のあるスキルでも使ってんのか？だとしたら次は殴打でも試すか。また舐めてかかってくれたら助かるんだがなぁ"
レインは両手に持った剣を手放す。すると剣は空気に溶けるように消えた。
「………………お前は俺がしっかり殺してやるよ！」
男は瞬時にレインの目の前に出てきた。そしてすぐに大剣がレインがいた場所を両断する。
やはりこの男が使うスキルの中に対象の目の前に瞬時に移動する物がある。ニーナの〈神速〉とは異なり一旦消えて、目の前で出現する感じだ。
ただ消えてる間は攻撃出来ない、けど構える事は可能で出現と同時に斬りかかれるって事だろう。
普通の覚醒者なら反応出来ずに両断されるだろう。ニーナが回避出来たのは〈領域〉というスキルで察知、そして技量で回避出来たんだ。
レインに関しては見てから反応できるくらいの速度だから回避できる。
「なんだぁ？諦めたのか？」
男はレインが剣を手放したのを見てそう言い放った。
ゴガンッ！！！今度は鉄と鉄が激しくぶつかるような鈍い音が場内全体に響き渡る。
「そんな訳ないだろ。斬撃がダメなら別の手段を取るのが普通だろ？」
レインの高速移動に男はついて行けていないようだ。レインの全力の拳は男の右脇腹に直撃した。
"かってぇし、重っもいなぁ"
レインに本気で殴られれば大抵の者は吹き飛ぶ。それだけの威力を誇っている。
しかしレインの脚が地面に沈んだ。対する男は数センチだけ宙に浮いただけだった。
「お前……他の奴らより随分強いな。何でパーティーなんか組んでんだ？」
「お前には関係ないだろ」
「はぁ……まあ聞けよ。俺が話してやってる内は生きられるんだぞ？お前らの攻撃は俺には効かないんだからどの道死ぬしかないんだよ。お前はかなり強い方だが俺の力を突破する事は出来んぞ」
「勝手に決め付けんな」
レインは再度地面を蹴って高速で移動する。正面から突っ込めばあの大剣の餌食になる。うまく撹乱して確実に一撃を与える。
"さっき痛いって言ってたからな。ボコボコにすればその内倒れるだろ。そうでなくては困る"
「その速さでそのパ……」
今度は男の右側から顔面を殴った。助走をつけて勢いよく殴ったが少し顔を背けるだけだった。すかさずレインは戦鎚を左手に召喚し男の頭上から頭部目がけて振り下ろす。
男はガードすることなく頭で受け止めた。男が立つ地面は大きく抉れ周囲にヒビが広がった。そこには大きな窪みができた。
レインが次の一撃を入れようとした時、下から大剣が振り上げられた。レインは持っていた戦鎚を軸に身を空中で翻して回避した。レインの手を離れた戦鎚はすぐに消える。
"これもダメージなしか"
レインは少し離れた場所に着地して構える。
「お前は良いなぁ。ほら！どんどん来いよ！」
男は大剣を地面に突き刺して両手を広げた。その行為にレインはイラつきを覚える。
"舐めやがって……"
レインは戦鎚を再度召喚した。握る手に力がこもりミシミシと音を立てる。脚にも力を込める事で地面もひび割れ沈んでいく。
脚に込めた力を解放し、ドンッと爆発のような音と共にレインは駆け出した。
そして目の前に立ち、ニヤニヤと癪に触る笑みを浮かべた男へ向かって戦鎚を振り下ろした。
◇◇◇
「……はあ……はあ」
それから約1時間ほどが経過した。既に場内はレインの猛攻によりボロボロになっていた。
レインは傷一つ負っていない。そしてあの男もだ。
「もう息が上がったのか。これ以上待っても無駄だな。楽しめると思ったが……残念だ」
その男はレインの剣による斬撃も戦鎚による殴打もリグドとロージアが放つ魔法攻撃も、レガの暗器による刺突も効かなかった。
回復しながらレインを助けるために連携して攻撃したがその全てを無効化された。
アイツが持つスキルが分からなかった。全ての攻撃を完全に無効化するスキル？そんなスキルが存在するのか？
「じゃあ……そろそろ戦うとするか」
その言葉に耳を疑った。今までは戦ってすらいなかったのか？
全員で戦っていてはロージアと阿頼耶の回復が追いつかない。レガやリグドはあの男の一撃を掠めるだけでも致命傷になる。
そして正面切って戦えるレインとニーナの攻撃も効かない。レインよりも弱い傀儡をいくら戦わせたところで意味がない。
あの男にも弱点は必ずあるはずだとニーナも言っていた。全ての攻撃を完全に無効化する万能なスキルなんて存在しない。
「抵抗するのも諦めたのか？……まあいい。〈肉体強化〉〈速度上昇〉〈剛撃〉〈装甲〉」
男は複数のスキルを発動して一歩踏み出した。レインとニーナもそれに合わせて構えた。
ドンッ――嫌な音がレインの横で聞こえた。レインが視線を横に移す。横には肘打ちの直撃を受けて吹き飛ぶニーナが見えた。範囲内の魔力を認識する〈領域〉を使っていたはずなのに攻撃を受けた。
レインはすぐに剣で斬りかかる。しかし男の首の少し手前で弾かれた。透明で見えないがかなり分厚い鉄の壁を斬ったような感覚だった。
さっきまでは効いてはいなかったが確かに命中していた。しかしこの斬撃は命中する前に弾かれた。
先程までとは違うスキルが使われている。そして男はこちら見た。
「…………ぐぅ！！」
目が合った瞬間には目の前にいた。そして大剣の刃がもうすぐそこまで接近していた。咄嗟に剣で防いだが、圧倒的な力に押し込まれる。そのままレインも吹き飛ばされ壁に背中を打ち付けた。
ここに来て初めての負傷だ。男の大剣を防ぎ切れず左腕を掠めた。たったそれだけの事で腕が痛みで上がらなくなった。おそらく折れている。さらに背中を強くぶつけたせいか頭痛や吐き気が止まらない。レインは地面に両手両膝をついた、。
「…………ゴホッ！……一撃でこれか。強くなったって言ってもSランクの化け物には遠く及ばないのか」
レインは目の前の敵の大きさを実感した。しかし絶望はしない。諦めもしない。家で自身の帰りを待つ大切な存在がいる。
"エリスの為なら俺は……いくらでも立ち上がれる。骨が折れてる？知ったことか。あの子の為ならこんな痛みも苦しみも耐えられる。むしろエリスが笑って暮らせるなら喜んでこの痛みも受け入れる"
レインは立ち上がった。ふらつきながら、剣を地面に突き刺し杖代わりにして立つ。
「……ほお？」
「死んでたまるか。ようやく光が見えたんだ。お前を殺し！俺は俺の願いを必ず叶える！！」
レインはもう1度強く踏ん張る。地面がミシミシと音を立ててヒビが入った。
だが強くなったわけじゃない。レインにはこの状況を打破できるだけの考えも強さも持ち合わせていなかった。
男は大剣を振り上げてこちらへ突進する構えを見せた。万全であっても正面から受け切るのは難しい一撃だ。今の状態ではどうする事も出来ない。
男の姿が消えた。……目の前にいきなり出てくる。……大剣が振り下ろされる。……レインは目を逸らさず真っ直ぐ剣とその男を睨みつけた。
"………………代ろうか"
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