第28話
◇◇◇
帰る時はあの支部へは行かない。今回の報酬は全てこのパーティーで分ける事が出来る。
レインたちを含めて10人で攻略した。報酬は10で割ったものになる。レインたちは急ぎ足で組合へ向かった。Aランクダンジョンの攻略報酬は組合本部で支払われる。何故ならそれだけの金を保管する場所がここしかないからだ。
レインと阿頼耶は外で待つことにした。ここにいい思い出はないし、この期に及んで報酬を少なく見積ったりはしないと判断した。
30分ほどでみんなが出てきた。しかし……。
「どうしたんだ?」
みんなの顔が暗かった。これは何かあったに違いない。
「レインさん……本当に申し訳ありませんでした!」
アラムは頭を深く下げた。それに合わせるように全員が頭を下げる。ただレインには理解できなかった。
「何があったのか言ってみろ。ただ謝られてもどうしていいか分からん」
「じ、実は……」
そこからアラムに事の顛末を聞いた。要は報酬を全て奪われたようだ。ただ奪われただけなら警備兵やハンターに言えばいい。しかし今回は合法的に奪われてしまった。
そもそも今回のBランクダンジョン――実際は手違いでAランクダンジョンだったが――はアラムたちが獲得した物ではない。
元々同じパーティーにいたが、現在は『黒龍』ギルドに行ったAランク覚醒者が獲得した物だった。つまり報酬の受取人は死亡時を除いてそのAランク覚醒者に指定される。そこから分配していく流れになる。
報酬を換金する際に組合本部でバッタリ再開した。その男はかなり驚いていたらしいが、そのダンジョンの報酬受け取りの権利は俺にあると言い出した。
そしてAランク覚醒者という地位と『黒龍』ギルドの名前もあってただのCランクには口出しも出来なかった。
そして1億近い報酬の全てを奪われてしまった……との事だ。
「そうか」
「本当にすみませんでした。俺たちが勉強不足だったんです。今まで全部彼に任せてたのがいけなかった。そんなルールがあるなんて知らなかったんです」
アラムは涙ながらに話す。嘘をついているようには見えない。
"……1億か。阿頼耶と2人で2000万だったのか。あー惜しいなぁ"
「クソ!何で全部奪われなきゃならないんだ!アランの奴……『黒龍』にスカウトされたからって俺たちを切り捨てたくせに!」
レインはメンバーの1人が呟いた名前に聞き覚えがあった。
「……今なんて言った?」
「……え?切り捨てたって事ですか?」
「違う。そのAランクの名前は何だ?」
「アランです。
"あいつかぁー!!!"
レインの中でどうしようもない怒りが込み上げてくる。ルールに則っての事なら仕方ない。だけどアイツが2000万をレインたちから奪ったと思えば腹立たしい。
「抗議してくる」
レインは阿頼耶を少しだけ見た。それで全てを察した阿頼耶は微笑み頷いた。
まだ目立ちたくないという思いもある。もっと力をつけてからでも良いと思う自分もいる。
ただランクが低いというだけでこんな扱いばかりされるのは癪だ。今のレインはAランクダンジョンのボスを簡単に倒せる。それが何を意味するのかは理解していた。
「え?!ちょっと!」
アラムは止めようとするが強くは抵抗しない。こんな結果を誰が納得できると言うんだ?
レインはアラムを押し退けて組合本部へ入る為の階段を駆け上がる。すぐ後ろには阿頼耶もいる。
バンッ――と勢いよく扉を開ける。誰が入ってきたのかと内部の人間が理解した時に談笑が起きる。この雰囲気が本当に気に入らない。
そして最も気に入らない対象はカウンターの椅子に座り大声で笑っているのが見えた。
レインはその男の元まで真っ直ぐ進む。そいつはレインの存在にすぐ気付いた。
「何だ?お前、生きてたのか?」
アランは少し驚いたような反応を見せた。そして今の言葉に違和感を覚えた。この男はアラムとレインが一緒にダンジョン攻略に赴いた事を知っているのか?Bランクダンジョンの攻略権を持っていたと知っているなら今の発言はおかしい。
何故ならレインの横には阿頼耶がいる。Aランク覚醒者が1人いるだけで下位のダンジョンの攻略難度は下がる。
なのに驚いた様子で「生きていたのか?」と言った。
「……そういう事か」
「何をブツブツ言ってんだ?高ランクのダンジョンに潜って頭でもやられたか?」
アランは自分の頭を人差し指でツンツンと触る。
「貴……様ッ」
阿頼耶が怒りを露わにするが手で制止する。
「俺たちから奪った金を返してもらおう」
「ぷッ!ふはははっ!何を言うかと思えば……本当に頭がイカれたようだ。可哀想になぁ!良い病院紹介してやろうか?」
アランの言葉に周囲からも笑いが起きる。レインの怒りは限界に近い状態だった。レインはあえて抑えていた魔力を解放する。これで気付く奴は気付くはずだ。
"…………ん?"
周囲にはそのままクスクスと馬鹿にしたような笑いを続ける奴とその事に気付いて黙った者の2種類がいた。そしてレインはある事に気づいた。
"スキルが変化してるな"
――スキル〈強化〉がLv.Maxになりました。スキル〈強化〉を
レイン自身も初めて見る文章が出てきている。
"アルティ……これは?"
"見たままだよ?スキルレベルが最大になったって事はそのスキルを常に発動しても問題ない身体が完成したって事。だから常時発動型に変更出来るんだよ。どうするかはレイン次第だよ"
なら返事は決まってる。――はい、だ。
――スキル〈強化〉を
スキルが強化されたのか。ならコイツで試したいとレインは思う。
「おい!何とか言ったらどうだ?」
アランは立ち上がりレインに掴みかかろうとする。
「おい……もう止めろって。金も渡してやれよ」
周囲の覚醒者……冒険者たち――2~3人――がアランを止めに入った。全員がAランク相当の力を持っているように見える。その光景に笑っていたみんなが驚く。
レインを庇ったのは『黒龍』ギルドだけじゃない。全員が腕に覚えのある覚醒者ばかりだ。この者たちはレインから出る魔力とその力を直感で理解できたのだろう。このAランクがレインを挑発し続け、争いが起きればこの周辺に被害が及ぶと分かっているからこその行動か。
だがこの
「うるせぇ!邪魔だ!」
アランは庇った覚醒者たちを跳ね飛ばした。周囲はトラブルを見ようと人が集まる。その跳ね飛ばされた人たちは消えてしまった。
「おい!今すぐ土下座して命乞いするなら見逃してやる。やらないなら半殺しで2度と外を歩けないようにしてやる」
"もう隠れるのはやめにしようか。全く……もう少し身の振り方を考えとくべきだったな。晴々しい登場ってのは難しいもんだ"
アランは自分が腰から下げている剣に手をかけた。それを抜くと同時にレインも仕掛けようとした。
既に魔力を隠していない。組合本部全体が黒い靄に包まれる。もちろんレインにしか見えていない。この建物全体を包む魔力はレイン1人が放っている。
2人は正面で向き合う。レインは丸腰だ。アランは剣に手をかけ今にも抜刀する勢いだ。
ここまですればレインが引き下がると思ったんだろう。以前のレインなら実際にそうしていた。
そしてその時はすぐに来た。我慢できなかったアランが抜刀し剣を振ってきた。その速度はレインにとっては止まっているようにも見えるほどだ。
"このまま避けて腹に一撃入れてやる。内臓破裂で終わりだ"
アランの剣とレインの拳がぶつかる。――その瞬間だった。
「そこまで!!」
2人の間に入るように女性が飛び込んできた。黄金を散りばめたような肩まである金色の髪、それと対を成すような漆黒のコートを着ている。
装備だけならレインに近いものに見える。そしてなりより目を引くのが琥珀色の綺麗な瞳だ。
その女性はアランの剣を指2本で止めレインの拳を手のひらで受け止めた。
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