成り上がり覚醒者は依頼が絶えない〜魔王から得た力で自分を虐げてきた人類を救っていく〜
酒井 曳野
プロローグ
そこは人類の拠点の最前線であり最後の砦の一つ。
その男は黒い軽鎧に身を包む。黒にしたのはその男に力を与えた者が黒を好むからだ。本人にとっては別に何色でも大差ない。派手じゃなければ。
この砦は名乗りを上げた各国が金と人員と資源を惜しみなく投入して作り上げた覚醒者たちの為の砦だ。
ここを突破されると全ての国に壊滅級の被害が及ぶ。
天空の扉と大地の裂け目から敵が間も無く侵攻を開始する。まずは大地の裂け目、地獄の入り口からだ。敵がどこから来るのが分かっているだけまだマシだろう。
地面が割れ、その裂け目から強大で禍々しい魔力を感じる。魔力探知に長けていない者がかなり離れたとしても感じるだろう。まだ完全にダンジョンが崩壊した訳でもない。隙間から漏れている魔力だけでこれだ。
この砦を作る時も苦労したな。どの国がどれだけの人員を派遣するのかって事くらいで揉めに揉めた。
少し前の事を思い出し、男はため息を吐く。
敵の攻撃を集中させる為の砦だ。バラバラに侵攻されれば打つ手が無くなる。
完成させないと全員が死ぬって時にも、自分の国を守る
とりあえず全員殴って大人しくさせたが……。
やはり人っていうのはな――
大切な何かを守らなければならない時と自分自身に危機が迫った時くらいしか無償で動けないもんなんだ。
それが国のトップであってもそうだ。自国の民が第1だとか何とか言ってるが本心ではどうなのか分からない。
あの自国の王城の1番安全な奥の方で引き篭もって震えている老いぼれ共が全面的に協力を申し出たのもいくつかの小国と大国の1つが滅び、王族、貴族、平民に至るまで、全てが皆殺しにされたからだ。ただ殺されたならどれだけ良かっただろう。
その男が滅んだ大国に少数で乗り込みそこに留まっていた敵を撃退した。
その時に残っていた亡骸の悲惨さがどれだけの苦しみと絶望の中で死んでいったのかを即座に理解できたからだ。
それで自分も他人事ではなくなったからとようやく動き出した。
そんな事情とは関係なく集まった覚醒者たち。全員が志を持ちその男と同じで守りたい存在を背に抱えている。
この中の何人が生き残れるだろうか。守りたい存在ともう1度会うことが叶うのは何人いるだろうか。
男は振り返りそれぞれの方法で自身の力を高める動作をする者たちを見た。祈る者、武器を磨く者、自らの手に魔法を込める者……様々だ。
可能であれば全員を家に帰したい。しかし無理だろう。
その男は強い。他を避け付けない圧倒的な強さを誇る。しかし無敵じゃないし無敗じゃないし絶対でもない。1人で出来ることには限りがある。どれだけの才能と実力と幸運があっても人間という規格を超える事は出来ない。
「…………どうしたんですか?何か問題でも?」
俺の横に立つ赤く長い髪を靡かせ自分と同じくらいの背丈の斧を肩に担ぐ女性が話しかける。
「いや……利害関係なくここまでの覚醒者が集まった事に驚いてるんだよ。かなり苦労したけどな」
「…………まあ貴方の呼びかけに答えなかった人……というか国は無くなりましたからね。それにあそこから出てくるのはさらに多くのモンスターです。……みんなわかってるんですよ。あなたの側で戦うことが1番安全だって。それに貴方……断らないし」
「然りです。ご主人様の側よりも安全な場所などありません。断らないのもご主人様の慈悲深い御心の賜物です!」
反対側から黒髪の女性が声を発する。その女性は武器を何も持っていない。赤い髪の女性が戦士ならこの女性は魔法使いだろうか。そんな見た目だ。
「そんなに期待されても困る。俺が守るのは俺が大切だと思うものだけだ」
「分かってますよ」
「私はご主人様をお守り致します」
バチバチバチッ!!!!
地面が揺れて少し先の裂け目から見える真っ黒な渦のようなダンジョンから光がほとばしる。黒にも見え青にも見える。
漏れ出る魔力もどんどん膨れ上がる。でもその場を誰も動かない。逃げ出したい気持ちもあるだろうが何処に逃げていいのか分からないし、逃げた所でどうにもならない。
"さて……いよいよだね。準備はいいかい?アンタは私の力の全てを継承している。あとは自分の力を信じるだけだよ!"
頭の中に別の女性の声が響く。もうずっと聞き続けている声だ。今は遠くから魔法で直接話しかけられている。
彼女を始めとした強い者たちは各地へと散っていった。敵が出現するのはここだけじゃない。それぞれがそれぞれの場所で各個撃破する作戦だ。
"分かってるよ。俺はもうあの時とは違う。強くなったよな?"
"……うん、見違えたよ。アンタに出会った時は才能は見えたけど行けるかなー、もうー無理かなぁって思ったけどね"
"そうだな"
"ここまであっという間だったねぇ。実際は3年?4年?体感だと数百年くらい?"
"覚えてないなぁ。でもここまで長くもあり短くもあったかな"
ここで少し昔を振り返ろうかな。
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