不思議探求部の活動
雲川空
第一章 春の便り
①
私、
いや、そうではなく。私は今、なぜ衝撃を受けているのかというと、なにを隠そう…実際にとっさに隠しはしたのだが….私の下駄箱に、いわゆる、ら、ラブ、恋文が入っていたのだ!
高校生になって約一年、高校二年生になって一向にそれらしい学生生活になっていかないことに、はて学生生活とは、とそんなことを友達と話をしていたばかりだというのに、そんな私にもいよいよ春が、春が来たのですね!季節的にも春だし、いいね!浮かれまくっているが、まだ中身を確認していないことに気付いたので、封筒を確認してみる。
しかし、改めて確認して違和感に気付く。宛名がないのである。こういったものには普通名前が書いてあるものではないのだろうか、もしやいたずら?
「おはよう、しずく」
とっさに鞄に封筒をしまう。びっくりした。人間本当にこういう状況で声をかけられると隠すのか、漫画とかドラマの世界だけだと思っていたけど。
「お、おはよう、レオ」
とっさのことではあったが、上手く切り抜けた。挨拶は若干上擦ったが…。
「挨拶に何をそんなに驚くことがあるの? 朝からまた何をやらかしたの? 早く白状した方がいいよ」
「人を犯罪者みたいに言わないでよ! それにまたって何よ、いつもしているみたいに言わないで」
「ごめんなさい。あまりにも慌てているものだから、つい」
そう言ってほほ笑む。ちきしょう!美人の笑みは同姓の私から見ても眩しい。ときどき同級生が悲鳴を上げる気持ちがよく分かる。レオこと
「はあ…」
「ため息を吐くと幸せが逃げていくというよ」
「ため息も吐きたくなるよ。もし、幸せが逃げていくようなことがあったらレオの幸せを私に少しだけ分けて」
「私の幸せはこうして友達と朝のひと時を楽しむこと。だからいくらでも分けてあげる」
おいおい。なんて素敵な友人だ。告白する男子どもの気持ちがよく分かる。
「それで、何があったの?」
「だ、だからなんでもないよ」
なおも追及してくるとは、正直ごまかしきれる自信がない。でも、ちょっと誰かに言いたい気持ちもある。だってこの私にラブレターだよ!
「そう。しずくがそういうなら、ここまでにしておく」
レオはそう言うと、上履きに履き替えて教室に向かう。
「えっ、聞かないの?」
私は思わず聞き返してしまう。これで、もう聞いてください、構ってくださいと言っているようなものだ。なんて恥ずかしい真似を。先を歩くレオは歩みを止め振り返る。その姿もまた絵になる。
「どっちなの、聞いてほしいのか、聞いてほしくないのか」
「え、えーと…」
「ならせめて、手紙の内容を読んでから話をするか、しないのかを決めて」
そう言ってレオは歩き始める。え、ちょっと待って、手紙? 今手紙って言った!
「ちょ、ちょっと待って! レオどうして分かったの?私がその、ラ、こ、て、をもらったのを!」
「廊下では静かにするものだよ。もちろん走るのも駄目。みんなが注目してしまう。それと言葉も走り過ぎてなにを言っているのか意味不明だよ」
確かに、他の廊下にいる人達が私の方に視線を向けている。は、恥ずかしい。いや、私は小走りであり、断じて走ってはいない。そして、追いついた私はレオの横に並ぶ。
「レオ、本当にどうしてわかったの? 私がその、手紙を貰ったって分かったの?」
レオの耳元に小声で話かける。
「くすぐったいな」
そんな私の問いかけにどこか面白そうに返す。本当にこの子は私の問いかけに真面目に答えるつもりがあるのだろうか。あと反応が可愛いな、もう。
「いいから」
「そんなに難しいことではないよ。しずくはいつも可笑しいけど、下駄箱の前で意味もなく立ちすくむ人はそうはいない。ということは下駄箱という入れ物になにかが起こったかあったということ。この場合考えられる答えはいくつかあるけど、しずくの性格やその反応から考えればその答えは限られる。後はその答えが合っているのか違っているのかの答え合わせをすればいいだけ」
「……」
絶句。言葉にならない、できない。あの一瞬でそこまでの思考をしたのか。そして、それを確かめ答えも得て。相変わらずレオのこの思考力には驚かされる。隠し事はするだけ無駄だな。この頭脳に私自身何度も助けられている。というか、いつも可笑しいって!笑っているじゃん!
「流石だね」
言葉になったのは称賛の言葉だった。
「ありがとう。でも、さっきの言葉は、今考えついたことだよ。本当は封筒らしきものを鞄に入れるところを目撃しただけ」
いや、返して。私の称賛を返して。見たなら、見たって言ってよ。
「ごめん、ごめん。あまりにもおも、おかし、可愛い反応していたから、からかいたい気持ちがでてきて、つい」
「もう! てか、本音全然隠す気ないでしょ! 誰が面白くて、可笑しい人間だって!」
「そこまでは言ってないよ」
「ということは言おうとはしたってことでしょ!」
「でも可愛いのは事実だから」
「ありがとう!」
本当にレオは人たらしの才能があると思う。いったいこの性格で何人虜にして、泣かせてきたのだろうか。
「ただ廊下では大きい声を出さないで。恥ずかしいから」
「ごめんなさい」
レオのもっともな言葉に、謝る以外の選択肢を私は持ってはいなかった。
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