カナンの勇者
月山けい
序章
月神世界の勇者さま
雪のように舞う光の
命を運ぶ
せせらぎの
その空と大地には、そこはまだ真昼のものであるのに、まるで夜空に浮かぶ星の海を切り取ったかのような『
そんな地のとある小道の
少しだけ小高くなっていて、その中央に座している老齢の樹木。
そしてそんな彼女の周りには、数人の子供たち。
「ねー、聖女様。昨日のお話の続き聞かせて?」
「はやくはやく」
急かされた女性はされど嫌な顔一つせず、むしろ無邪気な子供たちを慈しむように深く笑むと頷いて、『星の柱』へと目をやる。やがて遠くに見える王都へと、そこにいる、あるいはそこにいた誰かを見やるように、暖かな眼差しを向けた。
その語り部は、愛を込めて始まりをなぞる。
――――
かつて世界を救った勇者様がいました。
その方は私たちの神、月の神セレスに呼ばれ、使命を授かったといいます。
世界と命を救うという使命です。
しかし、世界に歓喜が満ちたというのに、彼の方に
その勝利には代償があったからです。
平和と引き換えたのは、愛する者の命。
その手は多くを救い、拾い、助けました。
その手は多くを倒し、
けれど最後に、その手は愛する者の死で染まることになりました。
なぜ、どうして、これは何の罰なのか。
旅の仲間たちは、彼の支えになれなかった不甲斐なさを悔やみました。
水の都の
そうして悲しい結末でありながらも
それから私たちにとってはほんの少しの、
ここから運命は再び動き始めます。
心と力を
自分は勇者なのか、それとも
ただ世界の不条理に身を任せるのか、それとも己に従って生きるのか。
救うのか、見捨てるのか。
絶えず突き付けられる数々の現実は、愛する者を失った
けれど、それでも
彼の方ならきっと進んでくれる、と。
どんなに辛い道であっても、血を吐くことになろうとも。
どれだけ涙を流すことになろうとも。
かつてあの人が
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