第36話:ゴリさんゲーム配信を始めるってよ

『……ふ……ふふ。流石のアタシもキレちまったよ……』

「え? ど、どうしたんすかゴリさん……?」

『ふ、ふふ……ふふふふっ……! そこまで言うんだったらさ……クロちゃんに見してやるよ……アタシの本気ってやつをさぁ……!』

「ほ、本気? い、一体何を言ってんすか……?」

『あぁ、うん……明日さ、アタシToutubeでゲーム配信をしてあげるよ、しかも対人ゲーをさ。ふふ、対人ゲーで暴言を出さない方が難しいよねぇ……?』

「えっ!? 配信!? ゴリさんって配信勢だったんすか?」

『え? いや違うよ、やった事すらない』

「違うんかい! ……って、え? そ、それじゃあ何でまた急に?」

『いやゲーム配信ってさ、知らない人からも見られるわけじゃん?』

「は、はい、それはまぁそうですけど」

『だからさ……アタシはゲーム配信中ずっと全力で品行方正のキャラを演じ切る。それでもしその配信中にアタシが一度でも“殺す”って言ったらアタシの負け。最後まで言わずに品行方正を演じ切ったらクロちゃんの負け。これでどうよ?』

「え、えーっと……いやそれ絶対に俺の勝ち確定な未来しか見えないんすけど?」

『あ、その代わり、テメェが吹っ掛けて来た喧嘩なんだから……アタシの配信は必ず“最後”まで見ろよ? それが勝負の条件だからね? 他のゲーム仲間達にも見て貰うように声かけるけどクロちゃんだけは最後まで見ていって貰うからね?』

「い、いや別に明日は休みだから全然構わないんですけど……え? でもゴリさん配信は何時間くらいするつもりなんすか? まさか長時間やるわけじゃないっすよね……?」

『あはは、それは当日までのお楽しみという事で! あ、それじゃあ明日の準備しなきゃだからアタシ先落ちるね乙!』

「えっ!? ちょ、ちょ待っ――」


―― ゴリ林さんとの通話が終了しました。


 俺の質問をガン無視して通話が切られた。何だかよくわからないけど、どうやら明日ゴリさんはTourubeでゲーム配信を始めるらしい。俺は少しだけ嫌な予感を感じつつも翌日の土曜日を待つ事にした。


 そしてそれから半日以上が経過して土曜日の夕方。唐突にゴリさんからメッセージが届いた。


“今日夜9時から配信するからな! テメェがふっかけてきた喧嘩なんだから最後までちゃんと見ろよな!”


「……ほ、本当にやるのか……いやあの人行動力の化物すぎるだろマジで……」


 続いてURLが送られてきた。Toutubeのチャンネルページのようだ。


「うーん、まぁでもゴリさんって普通にゲーム上手いし、本気で配信したら面白そうかもしれないよな」


 それに他のゲーム仲間達にも見に来て貰うように誘ったって言ってたし、いつものゲーム仲間の皆でゴリさんのプレイ配信をワイワイと眺めていくのも普通に面白い土曜日になりそうだ。


「……うん、これはもしかしたら面白い配信になるかもしれないな。よし、それじゃあ早速ゴリさんのチャンネルページに行ってみよう!」


 俺はそう言いながらゴリさんから送られてきたURLをクリックしてみた。すると……。



『リアルJCゴリラのゴリ・ゴ・ゴゴ・リゴ(⋈◍>◡<◍)。✧♡Ch』



「……は……はい?」


 するとそこにはあまりにも嘘が過ぎる名前のチャンネルページが開かれていった。そしてここからゴリさんによる狂気の1日限定ゲーム配信が幕を開けるのであった……。


◇◇◇◇


『はーい! どうも皆様始めましてー☆ 今日から配信を始めてみました、リアルJCのゴリ・ゴ・ゴゴ・リゴって言いまーす☆』


 そこにはいかにもなフリー素材のようなゴリラのガワを被った、自らをJCと偽るJKゴリラがそこにはいた。


kuto:きっつ

えんじ:痛い

彩音:ばか草

ぺこ:ww

ゆうch:ヤバそう

atagi:絶対JCじゃないw


『おっとー! 始めたばかりなのにこんな沢山のコメントありがとうー☆ 皆のコメントがこんなに沢山きて僕嬉しいよー☆』


えんじ:ネタに極振りしすぎだろ

ゆうch:初見バイバイすぎんかこの配信??

ぺこ:まさかの僕っ娘!?

彩音:パワーワード詰め込みすぎだろ

atagi:いやもしかしたら男の娘ゴリラの可能性も?

kuro:親が見たら絶対に泣くぞ


 今現在のチャンネル登録者数及び同接人数は共に6人だった。まぁもちろんだけど今コメントしてる視聴者は全員身内だ。だってゴリさんと一緒にやってるペクス仲間達とHNが同じだし。


 そんな感じで挨拶的な雑談をしていると、ちょこちょこと初見の人達が配信を見にやって来てくれていた。同接も気が付いたらもうすぐ20人くらいになりそうだった。


たけ:初見です。このチャンネルは何をするチャンネルなんですか?

花大:チャンネル名が厳つすぎてわろた。名前の由来はなんなの?

ンドレス:本当にJCなんですか?


『あ、初見さんありがとうー! こんなに質問を貰えてすっごく嬉しいよー☆ でもよくある質問に関しては予め全部概要欄にまとめてるからさ、まずはそっちを見てからコメントしてくれると嬉しいなー☆ あはは、JCとの約束だよー☆』


彩音:ちゃんと初見に配慮したチャンネルでちょっと感動した

ぺこ:あまりの優しさに泣きました、チャンネル登録しときます

ンドレス:今日から始めたばかりのChなのに準備が良いですね!

花大:視聴者に優しい配信は伸びる!

たけ:はい、わかりました! それじゃあ確認してきますね!


(……へぇ、そういうのちゃんと準備してたんだな。いやゴリさんめっちゃやる気あるじゃん!)


 という事で俺も早速画面をスクロールしていって概要欄の説明文を見てる事にした。



“概要欄:答えを求めてんじゃねぇよタコ。テキトーに見て勝手に察しろ”



kuro:おい待てゴリラこら

えんじ:視聴者バカにしとんのか

彩音:こ れ は 酷 い

たけ:あまりにも投げっぱなしすぎて笑っちゃった

花大:流石に草生えたわ

atagi:清々しいクズさに惚れました、チャンネル登録しました


『あははー☆ 皆概要欄をしっかりと読んでくれて本当にありがとねー☆ そしてこれから同じように質問してきた人達には、皆で概要欄に誘導してあげてねー☆』


たけ:はーい

ずんたん:了解です

ンドレス:わかりました

kuro:い、いやこのゴリラ今後来る質問全部答えるつもりないだけだぞ!

彩音:流石ゴリラ汚い


 という事でJCゴリラによる自己紹介はたったの5秒で終わったのであった。いやもう最初から何だか嫌な予感しかしないんだけど……。


(ほ、本当に……ゲーム配信をするだけなんだよな……?)


 俺はそんな不安を感じながらもゴリさんの配信を眺め続けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る