第32話:ゴリさんに必ず勝つと宣戦布告をしていく
それから数時間が経過した。 辺りもどんどんと暗くなってきたので、今日はもうそろそろ解散しようという事になり俺達は最初に集合した駅前へと戻ってきた。
「いやぁ、遊んだ遊んだ! あはは、どうだったかな、クロちゃんは楽しめたかな?」
「はい、もちろんっすよ!」
当然の如くゲーセンでゴリさんにボッコボコにされた後は、俺の買い物に付き合って貰いつつ、前々から行ってみたいと思っていたPCショップにも足を運んでみた。 気になっていた渋タクモデルのカスタムPCも生で見る事が出来たのでとても嬉しかった。
そんな感じでPC周りの製品の買い物を一通り済ませた後はまたゲーセンに戻り、今度は対戦ではなく協力プレイのゲームで一緒に遊んだ。 ゴリさんとの協力プレイをある程度楽しんだ後は、やっぱり俺もアケコンが欲しくなってきたので、最後に駅前近くにある家電量販店に行ってゴリさんにオススメされたアケコンを購入したのであった。
「そかそか、うん、それなら良かったよ!」
という事で今日は一日中ずっと色々な所に歩き続けた一日だったんだけど、でも俺にとっては疲労感よりも充実感を覚える一日となった。
(最初はどうなるかと思ったけど……うん、やっぱりオフ会が出来て良かったな)
そりゃあゴリさんと出会った瞬間はとてつもない緊張感やら気まずさで頭が一杯になったけど……それでも最終的にはとても楽しい一日を過ごす事が出来た。 やっぱり何だかんだいっても、ゴリさんとは三年近くもほぼ毎日のように遊んできたネトゲ仲間だし、気心が知れた人とのオフ会というのは本当にとても楽しかった。
「ふふ、でもクロちゃん調子乗って物買い過ぎだよー。 帰る時に電車に荷物忘れてうっかり降りないでよー?」
「はは、それだけは本当に気を付けますよ」
俺がそんな事を思っていると、ゴリさんは俺の両手にぶら下がっている大量の紙袋を指さして笑ってきた。 その紙袋の中身は今日買い物をした数々の製品が入っているんだけど、その中でも今日一番の高価な買い物は最後に購入したアケコンだった。
「いやでもアケコンってあんなに高かったんすね。 そのおかげで想定してた予算よりも多くの出費になっちゃいましたよ」
「あはは、まぁそうは言っても最高品質のアケコンはもっともっと高いからね? やっぱりどんな製品でも初心者用のローエンドから上級者用のハイエンドまで幅広くあるからさ、値段もピンキリになっちゃうよね」
「あぁ、確かにそれはそうっすよね」
という事で俺はゴリさんにオススメされたアケコンを買った訳なんだけど、値段はおよそ1.5万円くらいした。 もちろん他にもっと安いアケコンは沢山売っていたんだけど“アタシもこの会社の製品使ってるからこれにしときなよ!”と熱弁されたので俺はそれを買う事にした。
「でもこれだけ製品の幅が広いと結局どれを買えば良いかめっちゃ悩んじゃいますよね」
「あはは、実際に今日のクロちゃんはどのキーボードとマウス買うかでめっっちゃ悩んでたしねぇw」
「う……い、いや本当に今日は長時間買い物に付き合って貰っちゃってすいません……」
「ううん、いいよいいよ。 アタシもクロちゃんの悩んじゃう気持ちはすっごくわかるしさ」
俺が申し訳なさそうにそう言うと、ゴリさんは全然気にしてないという素振りをしながら笑ってくれた。
「まぁでもアケコンで上達したいっていうんならアタシがオススメした製品はかなり良いと思うよ。 ここの会社が作ってる製品はどれもコスパかなり良いしね!」
「なるほどなるほど。 いやでもコスパとかの観点は実際に使ってる人じゃなきゃわからないからゴリさんのアドバイスは本当に助かりましたよ。 もしゴリさんがいなかったら俺は何も考えないで一番安いのを買ってたと思いますし」
「あー多分それが一番勿体ないよねー。 昔から“弘法筆を選ばず”なんて諺もあるけどさー、まぁそれでもやっぱりある程度は良い製品を使った方が上達は早いと思うしね」
「なるほど、確かにそれはゴリさんの言う通りかもですね」
「でしょでしょ? ふふ、あとそれにさぁ……」
「ん? それにって?」
俺はゴリさんの意見に同意したんだけど……でもその後すぐに何か含みのある笑い方をしてきたので、俺は怪訝な顔をしながらゴリさんに聞き返してみた。
「ふふ、もしクロちゃんがアケコンを全く使いこなせなくてさ……俺こんな
「いや考えてる事めっちゃせこいんすけど!?」
「ふふふ、合理的な女と呼んでくれてかまわないよ?」
俺がそうツッコミを入れるとゴリさんは楽しそうに笑ってきた。 いや俺はゴリさんにアケコンを奪われないようにちゃんと使いこなしてみせるさ。
「いやぁそれにしてもクロちゃんそんなに沢山買っちゃって大丈夫なの? 今日だけでめっちゃ散財しちゃったでしょ?」
「いえいえ今日買ったのは全部必要な物なんで大丈夫っすよ! ……まぁバイト代の3ヵ月分くらいは飛びましたけども」
「あらあら、それは大変だねぇ。 ふふ、それじゃあクロちゃんの大好きな爆死ガチャ芸もしばらくはお預けだねぇw」
「いや好きで爆死してる訳じゃないんすけど!? ってかそもそも芸じゃないし!」
確かにソシャゲの課金ガチャはほぼ毎回爆死してるけど俺だって好きで爆死してる訳じゃねぇから! で、でも、確率は収束するって偉い人が言ってたから……だから次の水着限定ガチャはきっと大丈夫なはず……!
「ま、まぁしばらくはバイト生活頑張りますよ。 それでその……ゴリさんはどうでしたか? 今日は楽しめましたか?」
「アタシ? アタシはねぇ……」
俺がそう聞くとゴリさんは少しの間だけ目を閉じて……そしてすぐに目を開けて俺にこう言ってきた。
「うんっ! もちろん最高に楽しかったよ!」
ゴリさんは満面の笑みを俺に向けて俺にそう言ってきた。 そんなゴリさんの満面の笑顔を見て俺はドキッとしてしまった。
(そ、そりゃそうだよな、忘れてたけどこの人は七種先輩なんだから)
よくよく考えてみたらさ……今日は一日中ずっと憧れの先輩と一緒に過ごしてたんだよな。 いやそう思うと今更だけど顔がどんどんと赤くなってきた……
「どうしたのクロちゃん? いきなり黙っちゃってさ?」
「え!? あ、い、いえ、な、何でも無いですっ!」
「んー? ふふ、もしかして……アタシに惚れたのかい?」
「……っ!」
俺があまりにも挙動不審な態度をしていたせいでゴリさんはケラケラと笑いながらそう弄ってきた。 そしていつもはその冗談を軽く受け流していたんだけど、でも俺は……
「……不覚にも、生まれて初めてゴリさんにドキっとしてしまいました」
「……あらま?」
いつもはその冗談を軽く流していたんだけど、俺はもういいやと思ってゴリさんにそう言った。 でも恥ずかしいは恥ずかしいから俺は赤くなってる顔をゴリさんに見せないようにそっぽを向きながらそう言った。
「……ふふ、今日のクロちゃんは本当に素直だねぇ、お姉さん本当にビックリだよ?」
「だ、だからさっきも言いましたけど、俺は割と素直で良い子なんすよ?」
「ふふ、そんなのもちろん知ってるよ」
「はいはい……って、え?」
まさかゴリさんが俺の言葉を肯定してくるなんて思ってもいなかったので、俺は素っ頓狂な声を出しながら思わずゴリさんの顔を見た。 するとその視線に気が付いたゴリさんはさっきまでとは打って変わってとても優しい口調で俺に喋りかけてきた。
「ふふ、神木君が素直で良い子だって事はもちろん知ってるよ。 一年の頃から生徒会の仕事を一生懸命頑張ってくれてるしさ、それに私が困ってたら助けてくれる優しい子だって事も知ってるよ」
「え、と……」
その優しい口調はまさにいつもの七種先輩の口調だった。 そしてまさか七種先輩からそんな事を言われるなんて思ってもみなかったので、俺の顔はさっきよりもどんどんと真っ赤になっていってしまった。
そしてあまりにも恥ずかしいので俺はゴリさんに顔を見られないように頭を少しずつ下げていったんだけど……でもゴリさんの話はこれで終わりでは無かった。
「……ま、それにさ……うん、神木君なら私も良いけどね。 ふふ、まぁこんな可愛げの無いアタシでも良いんだったらだけどね?」
「……え!? そ、それって……?」
そんな意味深な発言を聞いて俺は項垂れていた頭を一気に上げると……そこにはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべているゴリさんが腕を組みながら立っていた。
「ふふ、どうするよー? 今ならクロちゃんがちゃんと言葉にしてくれたらさ……もしかしたら……もしかしたらがあるかもしれないよー? くすくす……」
「……っ」
先ほどまでの優しい七種先輩の口調から一転して今度はいつもの憎たらしいゴリさんに戻っていた。 そしてその笑い方もいつもの七種先輩がしてくれるような優しくて柔和な笑みなどでは決して無かった。 何というかこう、変な悪戯を企んでこちらの様子を見て楽しんでいるような、そんな感じの小悪魔じみた笑い方だった。 そしてゴリさんがそんな小悪魔じみた笑い方をしている理由はもちろん……
「んー? どうしたのクロちゃん? いきなり黙っちゃってさぁ?」
俺が黙っているとゴリさんはニヤニヤと笑いながら俺の顔を見続けてきた。 でもそんなゴリさんの表情の目の奥では俺にこう喋りかけてるように聞こえてきた。
―― クロちゃんならさぁ……当然わかってるよね??
いや実際にはゴリさんは何も口に出していないんだけど、でも俺にはゴリさんがそう言ってるように聞こえたんだ。 そしてそれはもちろん……
(はは、そんなの……もちろんわかってますよ)
もちろんゴリさんが俺に何と言って欲しいのかなんて当然わかる。 だって俺とゴリさんはこの三年間、ほぼ毎日のように馬鹿な事したり喧嘩したり笑い合ったりしてきた悪友なんだから。 ゴリさんの考えてる事なんて手に取るようにわかるさ。
「……いや、今日はしないっすよ」
「……ふぅん、そうなんだ? あはは、そりゃあ残念だけどさぁ……ふふ、やっぱりクロちゃんはヘタレさんだねぇ……」
「いや違いますよ、そうじゃないっす。 あ、いや俺がヘタレなのはもう今更なんで認めますけども」
「……へぇ? じゃあさ、クロちゃんが“それ”をアタシにしてくれない理由は何なのかなぁ? もし今クロちゃんが“それ”をしてくれたら、アタシはオッケーするかもしれないって言ってるんだよ? それなのにしない理由って何なのかな? お姉さんにわかりやすく教えてよー?」
ゴリさんはニヤニヤと笑いながら挑発するようにそう言ってきたんだけど、俺は一切動じずにこう返事を返した。
「だって……もし今俺がゴリさんにそれをしちゃったら……それは“約束”が違いますもんね?」
「……っ」
俺がそう言うとゴリさんはピクリと少しだけ動いた。 でもそれはほんの一瞬の出来事で、すぐにゴリさんは何を言ってるのかよくわからないといった顔をしながらこう言ってきた。
「んー、約束ってー? あはは、クロちゃんとアタシって何か約束したんだっけ? そんなのアタシちっとも覚えてないんだけどなぁ。 ねぇねぇ、アタシとの約束って何の事なのかなぁ?」
そう言いながらゴリさんはニヤニヤと笑い続けている。 いやもうこんなんゴリさんだってわかって言ってるじゃんか。 はぁ、全くもう……はは。
「はは、全くもう……わかってるクセにゴリさんはすぐにそうやって挑発してくるんですから。 まぁでもいいっすよ、今日だけはその挑発に乗ってあげますよ。 ……じゃあいいですか? 一度しか言わないんでよく聞いといてくださいよ?」
「ふふ、うん、いいよ。 言ってみなよ?」
俺はニヤニヤと笑い続けているゴリさんに向かってビシっと人差し指を突きつけながらこう言った。
「いつか必ず……いつか必ず10先で勝ってみせますから! だからそれまで首洗って待っててくださいよ……ゴリさん!」
「……っ!」
―― だからいつも言ってんじゃんー、アタシに10先で勝てたらいつでもクロちゃんの彼女になってあげるってさぁ……!
「……ぷ、ぷははっ! うん、やっぱりクロちゃんは最高だよね!」
ゴリさんは今日一番の大笑いを決めながら俺に向けてそう言ってきた。 そしてそれから少し落ち着きを取り戻してからゴリさんは続きを喋り始めた。
「ふふっ、でもいいのかなぁ? クロちゃんがアタシに10先で勝つなんてさ、一体いつのことになるんだろうねぇ……くすくす」
「大丈夫っすよ、ゴリさんを追いかけるのには慣れてるんでね。 それに俺ゲームセンスは無いかもしれないっすけど、諦めない心の強さだけは誰にも負けないっすからね?」
「あはは、確かにね! クロちゃんはどんだけボロッカスに叩き潰しても、絶対に諦めない不屈のドエム精神を持ってるもんね!」
「いやだからドエムじゃないって! まぁでも近い内に必ずゴリさんの事をボッコボコにしてやりますんで対戦よろしゃす! はは、もうゴリさん今のうちに10先で負けた時の言い訳考えといた方が良いっすよー?」
という事で俺はゴリさんに向けて生意気すぎる宣戦布告をブチかましたんだけど、でもそんな生意気な発言を受けてもゴリさんは楽しそうに笑っていた。
「ふふふ、だいぶ言うようになったじゃん? あーあ、昔はもっと可愛げのある良い子だったのになぁ……こんなクソ生意気でムカツク事ばかり言うようになってお姉さんとても悲しいよ」
「はは、可愛げのある素直な後輩には学校に行けばいつでも会えるんだからいいでしょ? それにゴリさんだって昔は凄い丁寧で優しくて頼りになる大人の女性って感じだったのに……今じゃ“テメェ殺すぞっ!”が口グセのヤバいお姉さんになっちゃって、後輩の俺としては非常に悲しいっすよ」
「ふふ、品行方正で優しい優しい先輩には学校に行けばいつも会えてるんだからいいでしょー? って、あぁなんだ、つまりはお互い様だったって事か、あははっ」
「はは、違いないっすわ」
そう言って俺とゴリさんは顔を見ながらお互いに笑い合った。 そしてひとしきり笑い合った後、ゴリさんはクルっと体を反転させて俺に背中を向けながらこう言ってきた。
「……ふふ、でもさぁ……クロちゃんは知らないかもしれないけどアタシって結構モテるんだからね? そんなアタシにずっと待ってろだなんてさぁ……ふふ、君は随分と偉い口を叩けるようになったんだねぇ?」
「う……それはまぁ……その……生意気言ってすいません……」
俺がごにょごにょとそう言っていると、後ろを向いているゴリさんからふふっと笑っている声が聞こえた。
「……ふふ、まぁでも、アタシにとってクロちゃんはどうしようもないくらいにクソ生意気で憎たらしい弟分だけどさぁ……うーん、それでも私にとって神木君は優しくて素直な可愛い後輩だしなぁ。 だから、うん、まぁしょうがないなぁ……」
ゴリさんはそこまで言うともう一度クルっと体を反転させ……そしてしっかりと俺の顔を見つめながらゴリさんはこう言った。
「ふふ、君がアタシに勝てる日が来るまでさ……私はずっと待っててあげるよ。 だから頑張ってね」
そう言うゴリさんの……いや、七種先輩の表情はいつもの柔和でとても優しい笑みだった。
【第一章:終わり】
―――――――――
・あとがき
これにて第一章は終わりとなります、ここまで読んで頂きありがとうございました。
☆評価やフォローもしてくださった読者の皆様も本当にありがとうございました。評価やフォローをして下さったおかげで私自身の執筆作業の励みとなっておりました!
そしてこれからも引き続き楽しく読んで貰えたら嬉しく思います。
それでは最後に改めてここまで読んで頂き本当にありがとうございました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます