第30話:結局リアルで会ってもゴリさんに煽られる

 七種先ぱ……いやゴリさんにいつも通り煽られた事により、(ムカつくけど)実家のような安心感を得たおかげで、最初に感じた気まずさや緊張感といったものは徐々に薄れていった。


 そしてその後も喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら、今度は普段一緒にプレイしているFPSゲームの話で俺達は盛り上がっていた。


「あ、そういえばペクスの新シーズンもうすぐ来るね! 流石に今回はやる時間無さそうだから全然調べてないんだけどさー」

「あー、確かにもうすぐ新シーズン来ますね! リーク動画見ましたけど新武器めっちゃ強そうっすよ。 あとはキャラ調整もだいぶ入る感じっすねー」

「へぇ、そうなんだ、新武器の追加ってだいぶ久々だね! それにキャラ調整も入るんなら次の環境もまたガラっと変わってきそうだなー。 他には何か面白そうなアプデとか入りそうだった?」

「うーん、そうっすねぇ……あ、そういえば今回からランクマのマップが固定からローテーションに変更になるらしいっすよ」

「はぁ!? ちょっ何それ神アプデすぎん!? 新シーズン始まったら早速やんぞ!」

「いや言ってる事一瞬で矛盾してるんすけど!?」


 今日一番の目の輝きを見せながら先輩はそう言ってきたので俺はすぐさまツッコミを入れた。


「あはは、冗談だよ冗談! まぁでもたまには息抜きでインするからさ、そん時は一緒に遊んでよー?」

「はい了解っす、俺なら全然いつでも付き合いますよ! あ、でもそう言っておいて結局毎日ログインしてるとかは無しですよ? ちゃんと勉強してくださいね」

「ちぇー、全く信用されてないんだからなー。 あはは、いやでもさー、クロちゃんの方こそ大丈夫なん? アタシがいなくなってもランクポイントちゃんと盛れるのかなー??」

「いやゴリさんいない方がのびのびとプレイ出来るからポイント盛れなくても別にいいっすわ。 いやー喧嘩相手の居ないストレスフリーなペクスとか久々ですわー」

「おい待てコラ! そんな事言われたらアタシ泣くぞ!」

「はは、冗談っすよ。 いつも適切な指示してくれて本当に助かってますよ、ゴリさんいつもありがとうございます!」

「……じゃあこれからは敵が目の前にいるからってアタシの指示を全無視してキルムーブに行くのやめてもろていい?」

「あははそりゃ無理っすねー」

「いや何でやねん!」


 そんなこんなで俺達はお互いにいつも通り軽口を叩きながら笑い合っていた。 うん、やっぱりゲーム関連の話をしてる時が一番落ち着いていられるなぁ。


(……さて、と……)


 落ち着きをだいぶ取り戻した所で、もうそろそろ七種先輩との“約束”についてもちゃんと言及しないといけないと思った。 いや実際には本当に約束をした訳じゃないんだけどさ。


(でもその恰好が好きだと言ったのは俺なわけだから、そんな恰好をしてくれた七種先輩には何かしら言わないと駄目だよな)


 という事で俺は意を決してそれについて七種先輩に言ってみた。


「……あ、そ、そういえば……えっと、前に通話で言っていた“約束”ってそれの事だったんすね」

「うん? あぁ、これ?」


 俺がそう言うと、七種先輩は自分の髪を触りながら嬉しそうに笑ってきた。


「ふふ、いいでしょー? クロちゃんが所望した三つ編みメガネっ娘の図書委員長ちゃんスタイルを今風っぽくしてみたよ。 どうよ、クロちゃん? 可愛いっしょ??」

「えっ!?」


 突然七種先輩に意見を求められてしまい俺は焦ってしまった。 だいぶ落ち着きを取り戻せたと思ってはいたんだけど……先輩の満面の笑みを直視したら普通に駄目だった。 しかも心臓もバクバクとしてきてしまった。


(いやそんなのめっちゃ可愛くてとても似合ってるに決まってるじゃないですか!!)


 いつもの先輩のサラサラロングヘアは当然好きだけど、今回のようなアレンジを加えた髪型も最高に似合っていてとても素敵だった。 だから俺は心の中で思った事をそのまま素直に伝えようとした。


「そ、それはそのえぇっと……は、はい、そ、そうっすね。 そ、その、め、めちゃくちゃ似合ってると、お、思います!」

「……ふぅん?」


 心の中でなら流暢に褒める事は出来ていたのに、実際に口から出た言葉は終始しどろもどろになってしまった。 いや本当はもっとスマートに伝えたかったんだけど……でも仕方ない。 女性慣れしてない男子高校生なんてこんなもんだよ……


 でも先輩は俺の言葉を聞いて少し意外そうな顔をしているようだった。 それでも先輩はすぐにニヤっと笑いながら俺にこう言ってきた。


「……ふふ、今日のクロちゃんはやけに素直だねぇ?」

「え? い、いや知らないかもしれないっすけど、俺って結構素直なんすよ?」

「はは、んなわけww もしクロちゃんが本当に素直な人間だっていうんなら、アタシ達あんなにしょっちゅう喧嘩なんかしないでしょ」

「う……そ、それはまぁ確かにそうなんですけども」

「あはは、それにさぁ、この恰好だって本当はクロちゃんの事をからかうつもりでやっただけだしね? きっとクロちゃんならこの恰好で会い行ったら物凄く挙動不審になるだろうなーって思ってさ、あははー」

「い、いや正直どうせそんな事だろうとは思ってましたけどね!! ……ま、まぁでも、そ、その、先輩のその恰好がとても似合ってると思ったのは本当ですから。 だ、だから、その……えぇっと、なんていうか……あ、ありがとう、ございます……」

「ん-? ふふ、まぁそんなに喜んでくれてるのならアタシも朝早くから頑張ってセットしてきたかいがあったってもんだよー。 ふふ、こちらこそありがとね」

「う、うっす……」

「あはは、でも素直なクロちゃんって言うのは本当に何だか新鮮だねぇ。 ふふ、もしかしてアタシに惚れたのかい?」

「……っ!?」


 そのセリフはいつもゴリさんが俺によく言ってくる冗談だった。 だから俺はいつもそのセリフを軽く受け流していたんだけど流石に今回は状況がアレすぎてヤバイって!! で、でも俺は……


「ゴ、ゴリさんと対戦する時だけしれっと無線でやってもガチギレしなければ惚れますわー」

「あははーってはぁ!? ちょい待てこら!! それはもう戦争だろっ!!!」


 非常にヤバかったけど、俺は何とか理性を保っていつも通りを装ってみせた。


◇◇◇◇


 それからも俺達は喫茶店で雑談を続けていき、そして程なくして俺達は会計を済ませて喫茶店から出る事にした。


「……さて、と……どうしよっか、神木君?」

「え? な、何がですか?」


 喫茶店から出るとすぐに七種先輩は俺にそう尋ねてきた。 先ほどまで先輩は俺の事をずっと“クロちゃん”と呼んでいたのに、それがいきなり本名で呼ばれたので俺はビックリとしてしまった。


 俺は何事かと思って七種先輩の顔を見た。 すると先輩の顔は先ほどのニヤっとした笑い顔から一転して、今は神妙な顔つきというか……少しかしこまった様子でこちらを見ていた。

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