第10話
人の剣気を感じ取れるようになった秀蔵の修行に戦闘訓練が追加された。
「秀蔵が戦うとしたら相手の攻撃を誘い込み、カウンターを放つ戦い方になるだろうな」
今の秀蔵にできるのは相手の剣気を大まかに感じ取ることだけ。本来の心眼の様に地形なども感じ取ることはまだできていない。
だから秀蔵は戦いの最中に移動することができないのだ。
「今父さんが剣に剣気を流しているのがわかるか?」
「うん、わかる」
既に半瞑想状態になった秀蔵は抑揚なく答える。
薄らとだが殺気を感じていた。
「それじゃゆっくりと振るからそれに合わせてみろ」
「わかった」
相対した正彦がゆっくりと木剣を振るう。
スローモーションの様な世界で正彦の振るう剣に合わせて動く剣気を感じ取れた。
木剣から木刀に持ち替えた秀蔵はそれに打ち合う様に木刀を振るう。
カンとぶつかり合う音。
見ずとも剣を合わせることが出来た喜びにわずかに集中力が乱れてしまう。
正彦の剣気を見失いそうになり慌てて再度集中する。
「少しずつ速度を上げていくぞ」
「わ、わかった」
秀蔵が感じ取りやすい様に剣気を強め、大袈裟に振るう。
カン、カンと間が空いていた打ち合う音がカンカンカン、カッカッカッ、ガンガンガンと早く重くなっていった。
秀蔵は汗を滴らせ必死に集中力をかき集める。しかし集中しすぎると振るわれる木剣に反応できなくなる。木刀を振ることを意識しすぎると正彦の剣気を見失ってしまう。そんなジレンマに気力がどんどん削られていく。
「ここまでだな」
「ふーっ、はぁはぁ、はぁ……」
汗だくで地面に座り込む秀蔵。正彦の言葉で答える余力もない。
「まだまだお遊戯みたいなものだぞ? そんなんじゃ剣士として戦うなんて夢のまた夢だな」
厳しさを含む正彦の言葉。それが秀蔵のことを思って無理して言っていることを理解している。
だから秀蔵は膝を震わせながら立ち上がった。
「ま、まだまだいけるしー。全然、余裕だから!」
「……そうか」
虚勢を張る息子に微笑みが溢れる。
「なら父さんも張り切っていくぞ!」
「え、ちょっとまっ」
言い切るまもなく打ち込まれる木剣。秀蔵も慌てて構えるが間に合わず頭部を叩くいい音がスコーンと道場に響き渡った。
「あら、頭に瘤ができてるわね」
「父さんに叩かれたー」
「秀蔵!?」
「あなたー?」
修行を終え汗を流した二人は瑞希の作った夕飯を食べていた。
よく動き腹の空かせた二人のために唐揚げが山盛りになっている。
笑顔でにじり寄る瑞希に正彦は慌てて秀蔵に弁明を求める。
楽しく幸せな日常だ。
『次のニュースです。国際指名手配されているテロ組織「使徒崇拝」によって再び大規模なテロ行為が起こされました』
そんな食卓の間に流れる不穏なニュース。
「父さん、この使徒崇拝って?」
「……あぁ、亜人を神の使徒として崇める一種の宗教団体だな」
亜人は神が使わせた使徒である。
亜人が人を害するのは欲に塗れた人類に神罰を下すためである。
人類は神罰を受け入れ滅ぶべきである。
そんな終末思想を掲げ世界各国でテロ行為を繰り返している組織だ。
「嫌なニュースね」
「全くだ。自分だけで思うならまだしもそれを押し付けあろうことか人に危害を向ける」
正彦の眉間に皺がよる。
「そんな思想に賛同する剣士がいるんだから許せない」
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