第2話 試さなくていいですよ

「起きられますか? お腹はすいています?」


 メイドの格好をしたシーアと呼ばれる彼女は淡い色の金髪を編み込んでまとめ上げており、大賢者様と違って瞳の色も淡い。ブルーかな? あれ、そういえば大賢者様は黒かったっけ。だるさはあるが立ち上がることはできる。彼女の背は高い方だと思うが自分よりは低かった。手足も長い……ああ、顔が小さいのか。


「よろしくお願いします、シーアさん。そういや俺、死にかけていたとかいってたような……」


「呼び捨てで構いませんよ。そうですね……あ、お客人様、どうお呼びしたらよろしいでしょう」


「祐樹です。姓は篠原です。どちらでも呼び捨てで構いませんよ」


「はい、ユウキ様ですね。主様は賢者様ですので配慮がなくて困りものです」


 おどけた様子で微笑む彼女。なるほど。賢者なら相手の名前なんて見ればわかるもんな。おまけに自分の名前は隠してるし。小さめのテーブルに手際よく食事の用意をする彼女。


「珍しいことのようですが召喚の際に衰弱されていたようです。主様が魔法で回復させたと伺っております」


「使い物にならない魔女ならそのまま死なせてもよかったんじゃ……」


「そんなこと言わないでください! 招いておいてそのような失礼は。それに神様のお怒りを買います」


 なんでも召喚を司る神様がいて、召喚者に力を与えているらしい。――ああ、あれだ! 白い空間。あれ神様だったのか? ほんとにゲームか小説みたいだな。確認してみるとやはりあれが神様らしい。それにしても俺が貰ったのは魔女の力? 賢者の力?



 ◇◇◇◇◇



 食事を終えた後はシーアさんに文字を教わる。読み方を教わって自分で読み上げても意味が理解できないのだが、何故か彼女に読み上げてもらうと理解ができるのだ。意味を理解している人の言葉だから伝わるのだろうか? そういえば大賢者様が悲鳴を上げていたあの言葉、何だったんだろう。重要機密?


「主様にとっては重要機密かもしれません。あ、いまわたくしの機密を覗いていますね」


 慌てて視線を下げ、謝罪する。


「シーアさんにもあの鍵があったもので……つい」


「れいの鍵ですか? 何と書いてありました?」


 シーアさんのその文字を板切れに書く。


「剣士……」


 『剣に熟達する者』と言葉を添えながら書かれたそれは、剣士と称される――と。目を伏せる彼女の表情から何かあるのだろうということは伺い知れた。慌てて俺は問いかける。


「あっ、えーっと聖騎士というのはどういうものなのです?」


「聖騎士のタレントですね。戦えるだけでなく、味方を守り、癒す強い力を持ちます」


 魔王と呼ばれる災厄と戦うため、勇者と共に戦うだけの力を持った強力無比なタレント――だそうだ。他にも聖女や剣聖といった強力なタレントが存在するそうだ。


「仮に聖騎士だったとしても、大賢者様としてのお役目の方が重要ですけどね」


 もちろんあの方の話だ。その後、自身の鑑定結果を板切れに書き写しながら説明してもらう。数の読み方も教わるが、『んんっ?』っとシーアさんは目を見開いたりしている。能力は低いと大賢者様から聞いてはいたがそんなにだろうか。魔女については『聖秘術に長けた者』と書くそうだ。聖秘術って言われてもわからない。何?


「性交で相手に祝福を与える魔法です」

「は?」


 食い気味で聞き返す。すました顔で答えるシーアさんに。


「は???」


 再び聞き返すがすまし顔のまま返答はない。なるほど確かに最前線でヤるわけにもいかない。しかもいったい何人に祝福を与えられるんだそれ。


「性秘術とも呼ばれます」


 いや聞きたくないからそれ……て、ちょっと待って、男の場合はどうするの? 相手に子供ができちゃったら最前線とかそれどころじゃないでしょ。そもそも女性が最前線にそんなに居ないんじゃないの?


「女でも戦う人も居ますよ。召喚者の皆さんのように妊娠期間は長くありませんし、妊婦が死ぬことも稀です。なんなら魔女は避妊の魔法も使えるとか」


 街でいい小遣い稼ぎになるかもしれませんねと、揶揄うように返される。冗談。そんな現場に居合わせたくない。



 ◇◇◇◇◇



「ところで魔法ってどうやるんです? 俺でも使えますか?」


 文字を教わりながら聞いてみる。


「ご自身への鑑定と同じと伺っています。学習により覚えることもできますが、タレントをお持ちなら必要な呪文と力の効果を見ることができます」


 魔法を――目を瞑ってそう思うと、確かに一覧が出る。もちろん読めない。そのうちのひとつを注視すると拡大されて文字が追加される。やはり読めないが光る文字列を注視すると頭の中に声が響く。これが呪文だろうな。


「試さなくていいですよ」


 ハイハイ、わかってますよ。魔女の魔法ですもんね。ここで致すわけにもいきませんし。いやちょっと待てよ。俺は最初になんて言った? 神様とやら、望む力をくれたんだよな? なんか違うくない? 方向性まるで逆じゃない?


 魔法の知識なのもあってか、羊皮紙が貰えたので効果を書き出していく――のだが、昼食と休憩を挟み、さらに夕食後まで続く。そして書き出す内容がまた生々しい。整った顔立ちのシーアさんに読み上げられると、ご褒美とも思われるかもしれないが、実際は申し訳なさの方が先に立つ。そうして最後の魔法を書き出す。やっとだ。やっと解放される――。


「ユウキ様、少々お待ちいただいてもよろしい?」


 羊皮紙を持って部屋を出て行ったシーアさん。長いスカートの裾が踊っていますよ。落ち着いてもう明日にしましょう。――しかし願いは叶うことなく、大賢者様がお出ましになる。なんかもうご就寝前だったんじゃないの? 身支度も整っていないように見える。


 そうして魔法の効果を伝えられる。大賢者様は何とも言えない、残念なものを見るような表情をしている。シーアさんは微笑んでいるが視線が冷たい気がする。いや冷たい。きっと冷たい。鍵の謎も解けたよ。よかったね。そして俺? 俺はなんかもうね、消えたい。ごめんなさいとしか言えない。神様からのギフトはそう、罰ゲームかなんかかな?


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