ホッピースクールライフ
@mlosic
第1話オアシス部
「ホッピースクールライフ!」
残暑も過ぎ去り紅葉も色づき始める10月。6人の生徒達の掛け声とともに、一つの作戦が決行された。
ピッ
「頼んだぞ、大樹、六華ちゃん」
少し癖っけのある自分の髪を手でひねりながら、一ノ瀬 優希(いちのせゆうき)は、無線に向かって話しかけた。
部室には、優希を含めた3人の人物がいた。
カタカタカタ
「そろそろ時間だぜ」
ソファーの上であぐらをかき、パソコンのキーボードを軽快に叩きながら四谷 正史郎(よつや せいしろう)は答えた。彼らが現在使用している無線は、正史郎の手作りである。
ガガッ
「職員室前に着いたよ」
無線から目的地に到着した報告が入る。
「おけ。じゃあ、まずは六華ちゃん。手筈通り頼むぜぇ」
「はーい。あ、見ててね優希くん!」
正史郎からの問いかけに、長谷川六華(はせがわりっか)は威勢よく返事をし、扉を開けた。
ガラガラガラッ!
職員室に入ると数人の教師がいて、何人かが六華の方を向いた。
「お、長谷川じゃないか! どうした?」
何人かの教師が六華に近づいてくる。
「実は、わからないところがあって」
六華は綺麗なブロンドヘアーをなびかせがなら、甘えた声で教師たちに話しかける。気付くと、六華の周りにほとんどの教師が集まっていた。
六華はプロポーションは抜群で、整った顔立ちをしている。いわゆる美少女だ。彼女には男女問わず惹きつける魅力があった。
そして、群がる教師と六華の間を、三谷大樹(みたにたいき)はすり抜けていく。しかし、誰一人として大樹を気に掛ける人物はいなかった。大樹はそのまま職員室の中を少し歩き、一つの金庫の前に立った。
「頼んだよ」
大樹が無線に話しかける。
ガガッ
「オッケー」
カタカタカタ
カチャ
大樹の持つ無線からキーボードを叩く音が聞こえてから間もなく、金庫の鍵が解除された。
「ヒヒッ、それにしてもお前のそれ犯罪スレスレだな」
「いや、人のこと言えないだろ……」
不気味に笑いながら発言する正史郎に、大樹は少し含みを込めた言葉で返した。
「あった。屋上の鍵」
無線から大樹の報告を聞いた3人は、少し安堵の表情を浮かべた。
大樹は金庫から少し錆びた鍵を取り出し、職員室をあとにした。六華をのぞいて、大樹が職員室から出ていく様を、誰も気に留める様子がなかった。
「あ、もう大丈夫でーす」
大樹が職員室から出たのを確認すると、六華は適当に切り上げようとする。
ガシッ
「きゃっ!」
誰かが六華の腕を掴む。
「ちょ、はなして、げっ」
手を振りほどこうとした六華の前に、パンチパーマのイカツイ男性が立っていた。
「キバセン……」
立っていたのは体育教師であり、指導教員の鬼葉一徹(きばいってつ)だった。
「長谷川お前、いつその髪の色もどすんや」
一徹は、ドスのきいた声で六華に問いかけた。
「だから、これ地毛だって!」
「た、頼んだよ……」
退出間際に鬼葉一徹の姿を見た大樹は、六華に祈りを捧げた。
「六華が捕まった。とりあえず僕だけでも、むか……」
「三谷!!」
ビクッ
優希達に報告を入れようとしたその時、大きな声がした。大樹が恐る恐る声のした方を振り向くと、身長180cmはあるガタイのいい学生が立っていた。
「岩倉……」
大樹は、少しおびえていた。
ガガッ
「走れ!」
大樹は、無線から聞こえてきた優希の声で我に返り、一目散に走り始めた。
「あ、てめえコラ!」
それをみた岩倉も大樹を追いかける。
「ハァ、ハァ……」
必死に走る大樹。
「待てやゴラァ!」
「ハァ、なんで……いつも……ハァ、追いかけてくるの……」
コツコツコツ
向こうの廊下から大樹に向かって、学ランを着た小柄な生徒が歩いてくる。
「た、頼んだよ……」
大樹はすれ違いざまに言葉を遺して走っていった。
「うん」
木更津五月(きさらづさつき)は、岩倉の前に立ちはだかった。
「なんだお前は、邪魔だどけ!」
岩倉は五月にまくしたてる。
「どかねーなら知らねえぞ!!」
岩倉が五月に殴りかかる。
パシッ
「え?」
岩倉は何が起きたかすぐには理解できなかった。五月の顔面に入ったと思われたはずの拳が、五月の掌で包まれ止められていたからだ。
「え、おい」
岩倉は、掴まれた掌を振りほどこうとした。しかし、びくともしなかった。ほどなくして岩倉は、五月の前髪で隠れた隙間から、獲物を狩るような眼をのぞかせていることに気付く。
「ごめんね」
「うげっ!!」
五月が岩倉の掴んだ拳をひねると、岩倉は勢いよくこけた。
ドガッ
大きな音がして、周りの生徒たちが岩倉の方を見ていた。
「まだやる?」
「く、くそが……」
岩倉は服についた汚れを掃うと、去っていった。
「終わったよ」
五月が優希達に報告を入れた。
「さすがだな。じゃあ二葉、僕たちも向かうか。」
「分かったわ」
岡二葉(おかふたば)が、優希の問いかけに答え、準備を整える。
「なんかあったら連絡よろー」
優希と二葉は、正史郎を残し集合場所である屋上へと向かった。
屋上に着くと、先に大樹がいた。
「もう準備は整っているよ」
先に着いていた大樹は、先ほど手に入れた鍵を使って、屋上の扉を開けていた。
優希達の学校は少し前、ある事件をきっかけに改修が行われ、校内のほとんどが電子で管理されるようになった。しかし、あまり利用されていない一部の場所は改修が行き届いておらず、依然として普通の鍵が使用されている。立ち入り禁止である屋上もその内の一つだった。
優希が扉を少し開けて覗くと、屋上に男女2人が立っていた。
「よし、準備は完了」
「尊い犠牲もあったけどね」
「始まるみたいよ」
二葉の言葉と同時に、優希と大樹は口を閉じた。屋上では男女の生徒が無言で見つめあっていた。
「わたし……」
「待って!」
女子生徒が何か喋ろとしたが、男子生徒が遮るように大きな声を出した。
「こういうのって、やっぱり男の方から言わないとな」
少し照れたように、男子生徒が話す。
「ふたりの様子はどんな……」
「ノイズやめて! 聴き取れなくなる!」
「ノイズて」
優希の言葉を遮るように二葉が言った。
「俺、ずっと由美のこと!」
「きゃぁーっ」
二葉が小さな声で乙女のような声を出す。
「……」
その様子を、優希と大樹は無の表情で見つめていた。
「好きだった! 付き合ってくれ!」
「きゃぁふーーーん」
興奮する二葉。
「……」
無言で見つめる、優希と大樹。
男子生徒が告白をした後、静寂が周りを支配する。
「じつは私……」
少ししてから女子生徒がしゃべり始めた。男子生徒もはにかみながらも、勝利を確信した眼差しで女子生徒を見つめていた。
「あなたのこと」
男子生徒がゆっくりと左手を差し出そうとする。
「なんとも思ってないの」
男子生徒はすぐに手を引っ込め、キョトンとした顔で女子生徒を見た。
「え?」
二葉も、女子生徒の言葉に驚きを隠せないでいた。
「ん? どうした?」
二葉の様子がおかしいことに気づいた優希は問いかけた。
「ねぇ、優希。今回の依頼人って女の子のほうだよね?」
「え、そうだけど」
今回、優希達は女子生徒から、幼馴染の男の子に屋上で告白をしたいから舞台を整えてほしいという依頼を受けていた。
「なんで、振ってんの?」
「え、振ったの?」
大樹が驚きながら聞き返す。
「実は私、ちょーかっこいい人と最近知り合って、そのことを博人くんに知ってもらいたかったんだ!」
女子生徒が早口でまくし立てる。その後も、女子生徒の言う「ちょーかっこいい男性」が、いかにかっこいいかという話を、男子生徒と二葉は延々と聞かされていた。
「はぁー、スッキリした! じゃあね!」
それだけ言い残すと、彼女は優希達がいる扉の方に向かってくる。
「オアシス部のみなさん! 今日は、この場を用意してくれてありがとね!」
女子生徒はお礼を言い終わると、そのまま階段を下りていった。優希達は屋上の方を見ると、固まった男子生徒の姿があった。
「成功?」
大樹が、優希に問いかける。
「Our Assistant」通称オアシス部とは、優希をリーダーとした6人が所属している同好会である。
全ての生徒が楽しい学校生活を送れることを望む、「ホッピースクールライフ」をモットーに優希は活動している。
今回、女子生徒は満足した様子だった。しかし、固まった男子生徒を見た優希はとても複雑な心情だった。
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