9

そんな折、僕の部署に新人女性が配属された。

独身男性の目の色が変わる出来事だ。


また青田みたいな真面目な子が来るのかと思ったら、ちょっと違った。

その青田がちょっとそわそわしだすぐらい美人だった。

教育係が自分になるのではないかと期待していたみたいだ。


教育係は僕になった。青田の教育係は卒業だ。

食堂で青田がこんなことを言った。

「私が教育係になると思っておりました。」


あきらかに残念そうに言うから笑ってしまった。

「まあそんなに残念がるな。」

「そうではありません。通常は1年先輩がなると聞いておりました。」

「通例は通例だよ。」

不満そうにコロッケを食べている。


新人女性は名波と言った。

「名波さんが美人だからそう言うんだろう。青田も正直だな。」

「それもそうではありません。」

と言っておきながら理由を言えないでいる。

こういう時の青田はわかりやすい。


でもなぜ僕が教育係になったんだろう。

課長の判断だろうか。

課長は僕がドルヲタなのを知っている。

というか部署全体が知っている。

だから安全だと判断したんだろうか。


ドルヲタだって告白することはあるんだぞ。

名波さんはどんな性格だろう。

仲良くなれるだろうか。


なんか青田が言っている。

「何?」

「名波さんは美人でしょうか。」

「え?美人かって?」

おかしなことを聞くやつだ。


「青田にとってはどうなんだ?美人には当てはまらないのか。」

「チャーミングだとは思います。」

青田の口からチャーミングなんて言葉が飛び出すから、

コロッケを吹き出しそうになった。

青田は面白いやつだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る