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去年までよく集まった定食屋は最近ようやく営業を開始した。

ただまだ集まるような場所ではない。

マスクをした4人は久しぶりにイチローさんの部屋に集まった。

まるで前にあっていた時にタイムスリップしたような錯覚に陥った。

でももう何も張られていない壁と同様ななちゃんは居ないのだ。

そう考えたら無性に切なくなった。


「ななちゃん急にいなくなっちゃった感じですね。」

「そうだね。」とイチローさん。

「まだヲタやってるんですか。っていうか次の推し居るんですか。」と新入社員になったオルトが聞いた。

「就職おめでとう。」とイチローさん。

「おめでとう。」と僕。

そうかSNSではやり取りしたけど会って言うのは初めてだ。


「推しはさ、まだ居ない。」とイチローさん。

「仕事はどう?」と僕。

「まだまだ慣れないですよ、テレワークも多いですし。周りに咲丘さんみたいな素敵な人が居ないか探してます。」とおどけた。

咲丘さんは、僕の会社のあこがれの人だ。さきおと心の中では呼んでいる。

彼氏が居るとわかってからも同じようなあこがれの関係のままだ。

「あさきちゃんのライブそろそろやらないですかね?」とオルト。


あさきちゃんは、僕の大学時代の先輩の妹でジャズシンガー。

みんなでライブに行っていたけど、コロナになってしまってライブが行わなくなり再開していない。

ただ最近状況は少しづつ前に戻りつつある。

「そろそろかなあ」と僕。

「そろそろ配信のみのライブとかね。」とイチローさん。


ななちゃんの卒業ショックも色々なところに影響があって夏近くになってようやくそのショックから癒えてきた。

「咲丘さんやあこちゃんにも会いたいですね。」とオルト。

あこちゃんは、咲丘さんの親友。ジャズのボーカルを習ってる。

去年はみんなであこちゃんの発表会を聴きに行った。


あこはあさきちゃんのライブが行われなくなり時々愚痴を言いに僕の部署にやってきていた。

ななちゃんが卒業したショックの只中にいた僕は、廃人のように応対したのを覚えてる。

またあこちゃんは僕がさきおに彼氏が居ることを知ったことも知って心配して来てくれたのだ思う。

だから僕の対応を見て余計に心配になったに違いない。


あこちゃんのやさしさに触れて涙が出そうになった。

それでも傷が癒えるにはだいぶ時間がかかったけれど。

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