第2話 能力鑑定

 現在、騎士学院は春休み。

 里帰りしている者も多く、敷地内に人は疎らだ。

 春のうららかな陽気に包まれた道を一人歩いて高等部の校舎に向かう。


「あれっ、ジークス君じゃん。おっひさー」


 気安い声の方を振り向けば、そこには見知った少女が居た。


「おはよう、サレン。そう言えば里帰りはしないと言っていたな」


 赤紫の髪を肩にかかるくらいまで伸ばした彼女はサレン・ロアラ。

 『剣王』という最上位の天職を宿し、平民ながらに特待生として入学した麒麟児だ。

 不思議と一緒のクラスになることが多く、またソード系天職同士なので武器種別講習が被りやすいこともあり、友人として親しくさせてもらっている。


「まーねー。ウチ、かなり遠いし交通費も馬鹿にならないんだよね」


 あっけらかんと懐事情を嘆くサレン。

 遠方からだと仕送りも一苦労であり、長期休みでも学院に留まる者はそれなりに居る。

 特待生は学院から金銭が給付されるが、それも豪遊できるような額ではない。


「皆みたく貴族なら気になんないんだろうけどさぁ……って、ごめんね、愚痴みたいになっちゃって」

「構わない。愚痴程度、時間がある時ならいくらでも聞こう」

「ジークス君が暇してるのなんて見たことないけど……あ、そういや今日はどうしたの? 朝はいつも鍛練場に居るのに」


 目的地に歩きながら話していると、白緑の瞳が不思議そうにこちらを向いた。


「実はカーディナルが発現してな」

「へえ、十五なのに目覚めるのは珍しいね。戦闘系?」

「そうだ」

「おぉー、ラッキーじゃん」


 【カーディナルスキル】に目覚める人間は少ない。

 しかも中には戦闘に活用できない、ないしは活用し辛い【カーディナルスキル】もある。

 そういう意味で、私はとても運が良いと言える。


「それじゃ鑑定所に行くんだ」

「そうだ。登録も必要だし、詳細も聞きたいからな」

「詳細、ってことは試したんだ。どんなスキルな──あぁ、着いちゃったから後からでいいよ。どうせ暇だし」

「すまない。聞いた後で詳細も合わせて教えよう」


 サレンと別れ、高等部本校舎の入口をくぐる。


「失礼いたします、来年度から高等部一年生となるジークス・デン・マードです。【カーディナルスキル】が発現したため参りました」


 一階の職員室でそう伝えると、近くに居た教員が鑑定士の方を呼んでくださった。

 奥の部屋へと案内される。


「じゃあ早速だけど始めようか」


 モノクルを掛けた、人の好さそうな壮年男性の鑑定士は、物腰柔らかにそう切り出した。

 よろしくお願いします、と会釈をする。


「手の平を見せてもらえるかな」


 言われた通り手を差し出す。

 彼はそれをまじまじと見つめ、


「【魔法剣】という名前のようだね、君のカーディナルは」


 と口にした。

 彼の【カーディナルスキル】は他人の手を見ることで発動するようだ。


「【魔法剣】ですか」

「そうだよ。効果は魔力を消費して魔象ましょうを剣に纏わせる、だね」


 魔象ましょうとは魔力による仮初の現象のことである。

 魔技や一部の【カーディナルスキル】によって引き起こされる。

 魔象は本物の火や氷ではないが、それに近い性質を有す。火の魔象は熱く、氷の魔象は冷たい。


「それは良かったです」

「というと?」

「いえ、私の天職は『ソードウォリアー』ですので」


 魔法槍や魔法斧といった【カーディナルスキル】だったら宝の持ち腐れになっていた、という意味だ。

 そのことを伝えると鑑定士は、合点がいったように頬を緩める。


「なるほどね。まあでも、この手の対象限定は結構融通が利くからね。先端が尖ってるから槍だって思い込んだり、刃が付いているから斧だって思い込んだり、認識次第で抜け道は作れるよ」

「そうなのですか」


 鑑定士の広い見識に感嘆しつつ、話の続きを窺う。


「【魔法剣】の魔象には一律で使用者保護の効果が付くみたいだね。敢えて保護を切らない限り、君自身やその持ち物には被害は行かないみたいだよ」

「それは安心です」


 魔象が通常の現象と異なるのは、その拡張性だ。

 同じ火の魔象でも魔技の術式によって延焼しやすかったり、特定の存在しか燃やさなかったり、変わり種だと治癒効果付きの炎にもなったりする。

 【魔法剣】の場合は自傷を無効化してくれるらしい。


「持続時間は五十七秒。魔力消費量は一Mマォーツ未満。効力は中級。但し、これらは今の段階では、です。これから鍛えて行けばもっと効果を伸ばせると思うよ」

「分かりました。それから属性についてなのですが……」

「【魔法剣】で纏えるのは消費した魔力が親和性を持つ属性だけのようですね。僅かでも親和性があれば等級に関わらず一定の出力で纏えるようですが、親和性皆無第六等級の属性は使えません」

「それでですか」


 希少属性が使えない理由に合点が行った。

 私も一般人の例に漏れず、希少属性の親和性は皆無第六等級である。

 それ故に【魔法剣】の干渉が空振っていたのだ。


 その後もいくつか説明を受け、たまに質問もしつつ鑑定作業を進めた。

 専門家だけあって【カーディナルスキル】の登録手続きも滞りなく進めてくれ、最後に礼を言って職員室を出たのだった。

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