モンスター勇者、外道を狩る。
愚本虫
序章 シュウ‐外道狩りモンスター
社会の裏では、闇の組織が暗躍する。それは、地球だろうと、ファンタジー世界であろうと変わらない。
闇組織、裏組織は「暴力団」などと呼ばれ、忌み嫌われるものだ。だが、裏組織の存在は絶対悪とは限らない。表社会にも善の組織と悪の組織があるように、裏社会にも善の組織と悪の組織があるのだ。
この組織、【懲悪組】も、悪人を狩る善の?組織である。その名が示す通り、社会の闇に跋扈する外道を狩り、懲らしめ、場合によっては、容赦なく抹殺する。
当然、地球だろうがファンタジー世界だろうが、このような所業は法に反する行いである。しかしこの世界は法や警官の力が弱すぎて、法や警官は事件を解決できない。だから、法や警官の力で対処できない外道を狩る裏組織は必要悪で、警官や政府は、組織の裏の所業を知っていながら、あえて超法規的に見て見ぬふりをしている。
懲悪組の中の最強派閥、【鉄槌団】の中心に、異質なオーラを醸し出す存在がいた。
不死鳥を模した銀の刺繡が施された漆黒の着物に、南国の海のように青い袴を身に着け、胸くらいまである白いサラサラの髪を後ろで一つに束ねている。
左目は不気味に輝いていて、その上から濃緑のフレームの眼鏡をかけていた。
彼は人ではない。肌は三日月のように青白く、顔から左足にかけて赤い、ひび割れ模様がらせん状にあり、耳はエルフのように尖っていて、口にはドラキュラのような牙がある。
彼、シュウ=アサイーは、今、ガラの悪い一団と路地裏で対峙していた。
「貴様だな、少女ばかり狙っては攫って凌辱を繰り返す外道どもは。」
彼は、威厳のある、落ち着いた声で、外道集団に問いかけた。
「何だ、この五月蝿いオニは。こいつ、殺しちゃおうぜ。」
懲悪組最強の一角であるシュウの恐ろしさを知らない愚かなリーダー格が、笑いながら部下をけしかける。
チンピラたちは、全員、レベル50~80程度。並みの異世界なら幹部も夢ではないが、残念ながらこの世界はレベルの桁数が他のファンタジー世界とは一つ違う。
レベルと単純な「強さ」は二乗に比例するから、この世界の住人は、他の世界の同格の住人の100倍強いことになる。当然ながら、チンピラたちは、シュウの魔の手にかかって、一瞬にして昏倒した。
「誰を殺すんだって?もう一度言ってみろ。この、外道!」
「チーン!」
外道の一人は、奇妙な断末魔を上げて、その場にぐしゃりと倒れこんだ。
シュウが外道の股間を、思い切り蹴り上げたのだ。シュウの靴は先端がアダマンタイトの凶器。それがモンスターの尋常ならざる力でもろに入ったのだから、外道にとっては堪らない。
シュウの魔の手に最初にかかった外道の股間は無事では済まない。睾丸が両方とも壊れるどころか、男の象徴が根元の肉ごと吹き飛んでしまった。
シュウは二人目の外道を一撃でノックアウトしながら、最初の外道に吐き捨てるように言い放つ。
「外道の遺伝子は、世の中にいらないと思う。」
シュウの罵声の一語一語にモンスターの危険な一撃が乗っている。
「黙れ!」
ある者の腕が割りばしのように折れ、釘付きの木製バットが地面に転がった。
「うるさい!」
ある者の足がくの字にへし折れた。巨体が倒れ、シュウを見下ろす側が見下ろされる側に早変わりする。
「ス、スミマセンでしたぁ!どうか見逃してくだせぇ…」
「ダメだ。男ならかかってこい。」
命乞いした外道の一味も、シュウの毒牙の餌食になった。
「外道。あとはお前だけだ。諦めて地獄に行こう。」
まだ、シュウが来る前に湯を入れた極細インスタントラーメンがカチカチに固いままだというのに、チンピラ集団は、リーダーを除いて、陸上に長時間放置された魚のようになっていた。
そして、リーダーは、シュウがどこからともなく取り出した強力スタンガンによって意識を刈り取られた。
「ニライカナイ!こいつを【懺悔の間】に放り込めぇ!」
私はシュウに命令され、シュウと外道を転移させた。
外道の服や持ち物を剝ぎ取ってボロ雑巾一枚にした直後、外道は目を覚ました。
「被告人もお目覚めですので、ここに、鉄槌団裁判を開廷します!」
懺悔の間にはもう、裁判所のような本格的なセットが組まれていた。シュウは外道に裁きを下す前に、まず、「裁判」と称して外道の罪を炙り出すのだ。。
検事役の白髪の若い大柄な女、ベータ=クライネが、「起訴状」を大声で読み上げる。
「被告人は部下を凶器で脅して少女らを略取誘拐させては強姦し、少なくとも10人の被害者を生んだ外道です!よって、私刑を求刑します!」
「死刑」ではなく、「私刑」と書くのは、あくまでも司法による正当な裁きではなく、裏の組織による非合法な制裁だからだ。外道は殺すとは限らないというのも、理由の一つだ。起訴内容には多少事実でないことも混じっているが、裏社会においてそれを気にする輩はおらぬ。
「おい!こんなことをして、ただじゃ済まないぞ!俺一人の号令で、何十人もの手下が集まるんだぞ!ぶごぉっ!」
全く、どうして、外道の学習能力は低いのだろうか。手下十数人が、目の前で瞬く間に壊滅したというのに。
追い詰められた外道の妄言は余程、シュウの琴線に触れたのか、シュウは表情を変えるより前に外道をモンスターの力でグーパンチして、顔を台無しにしていた。
「俺の神聖なる法廷で、勝手な発言は断じて許さん。」
この裁判において、外道に発言権はないのだ。勝手に発言すれば強引に黙ることになる。
「どうだ?外道、罪の意識はあるか?被害者に申し訳ないと思わないか?」
「はい…」
「罪を償いたいか?」
「はひ…つぐなひまふ…」
シュウはそれを聞いて、表情を悪魔の笑いに変えた。私まで鳥肌が立つ。そして、罪が炙り出された外道に、シュウは木槌を打ち下ろし、「判決」を言い渡す。終始、弁護人役の長い金髪の小柄な男、アルファ=クライネは、終始黙ったままだった。外道は哀れなことに、弁護人にすら見捨てられたようだ。
「主文、被告人オナーノ=テテーキを私刑に処する。刑は【ドリルの刑】により執行する。苦痛と恐怖を以て償え、この外道が!ルーン!用意! 早くしろ!」
シュウの命令を受けて、赤シャツ赤ズボンに白いジャケットがトレードマークの色黒のアシスタント、ルーン=ワーシントンが、シュウがどこからともなく取り出した道具を、外道にセットしていった。外道は逆さ大の字の、極めて間抜けな格好になる。
シュウはドリルを、五月蝿い悪漢の股間に宛がう。そして、ドリルは無慈悲に回転し、どんどんめり込んでいく。床と壁が
「これが、貴様に犯された娘さんたちの苦しみだ。その1兆分の1でも味わうがいい!」
外道が半死半生になったところで、シュウはドリルをニンジンのように引き抜いた。そして、開けた穴にファンタジー世界ならではの強力ポーションと回復魔法を流し込んだ。
元に戻ったところで、またもや、ドリルがめり込む。この苛烈な制裁が、トータルで10回も繰り返された。
「被害者は少なくとも10人いる。だったら、貴様も10人分の苦しみを受けるべきだろう。そうは思わないか?外道。」
「うげぇぇぇぇぇ!」
ドリルの回転スピードはだんだん遅くなるので、だんだん長引くのだが、遂に終わりを迎えた。
最後に外道を完全回復させて、ボロ雑巾1枚のまま懺悔の間から放り出した。服と持ち物は返してやらない。裏社会ではこういったものすら高値で取引されるので、換金して被害者に「慰め」として差し上げる。
「これに懲りたら、二度と娘さんたちに危害を加えるなよ、バーロー!」
この時、シュウの脳裏に、こんな文言が表示される。
【経験値が一定量貯まった。レベルが上がった。】
私は思わず、シュウに声をかけた。
「シュウ君、今回はちょっとやりすぎじゃない?流石に可哀想だよ。」
するとシュウは私を睨み、毒を吐いてきた。
「はぁ?ニライカナイお前、よくもまあ、『やりすぎ』だとか『可哀想』だとか言えるな。お前は神とはいえ女だろう。何故女の敵を庇う?」
この通り、シュウは極めて、容赦のない性格なのだ。そしてとても無礼なのだ。これでも最上位の女神である私に対し、「お前」などと、罰当たりな呼び方をしてくるのだ。
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