第17話

 ようやくおおじいさんの遺言が聞ける。

爪が綺麗な女でも、畑仕事で割れててもいい、それから、そんなことはどうでもいい。幸せになれ。


おおじいさん。しあわせになるのが怖いよ。

幸せと辛いという字は似てるじゃないか。


もっと恐ろしい字が知りたいか?


知れば軽くなるのかな。幸せになることへの恐怖が。


しあわせになれ。うんとうんと幸せになってみろ。

一人ではあったが、孤独ではなかった。

妻と娘は心中するかと思ったが、一度も帰ってこなかった。ただ、オレに仕事を与えた人間も二度と現れなくなった。


辛くはないの?


一人で生きる、誰からも弔われず、己自身の意識も失いながら、そういう民族みたいに、たった一人で生き残るんだ。


おおじいさん、それは、とても。


誰かが代わりにできることじゃない。しかし罪の意識までも喪失したならば。


シリアルキラーなのかな。


知らない言葉だ。


おおじいさん、ぼくの次はいないよ。どうする。

ぼくもね、一生分の呪いをかける。

我が一族に。


これ以上背負う業がまだあるか。なぜだ。


妹のためだ。たとえ叶わなくても、おおじいさんも応援することになるよ。


なぜだ。


善悪の区別もつかぬ幼子がいたら、ぼくは善へと導こう。ぼくは教師だからね。先生。懐かしい響きだ。先に生まれた者として、施すことがたくさんある。罪と罰は別の場所にある。だからおおじいさん。


ぼくは善として妹が子に恵まれることを望み祈ろう。女の子だ。幸せに育つ。


それならオレはまた、男を悪夢へ誘う。


おおじいさん、それはまたホラーな展開だね。


展開とはなんだ。


長い対話ができる。でも、ぼくの命は長くない。


おおじいさん、どうか。遺言をもう一度聞かせて。


・・・・・・。


そう、叶えられない。おおじいさんの悪はぼくが請け負い巻き込みながら、また一つ、ほんの一寸でも、末端でも、細部でも。とにかくぼくの魂に混ぜ込まれて、消える。


ホラーとはなんだ。なぜ業が受け継がれていかない。なぜこいつを選んだのに次がないんだ。


それはお父さんをぼくの先代に選んだからだ。


おおじいさん。貴方にも罪の意識があったんだ。

だからこうして亡霊のように子孫達に拘って、成し遂げようとしたんだよ。


オレは、残酷で、残虐なことをした。


そして救済と贖罪を望んだ。


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