第2話 ワカレバナシ 2

 君と別れてから僕は何事もなかったかのように家路についた。本当は何事もなかったように帰りたかったのだ。

 というのも、学校を出れたのは夜の9時頃で、お祭りから帰る人が増えてきていた。その中には僕と同じ学校の生徒も混じっていたからだ。

 幸い誰とも顔を合わせることなく家の門を開けることができた。

 いつもと同じ道で帰ってきているはずなのに、いつもより長い道のりだと感じた。

 家に帰るや否や、真っ先にベットに入った。

 いつもはこんなことはしない。

 別れて寂しいからというわけでもない。

 ただ、肩の荷が下りたように感じられて自分自身がソワソワしていたからだ。

 しかも、無性に胸が苦しい。

 それらを押さえつけたくてベットに入ったのだ。


「あ゛あ゛あ゛ぁぁ......」


 今日はもう疲れた。10時半。

 いつもよりちょっと早いけど、いいや、寝てしまおう。

 課題?そんなの断ればどうとでもなる。

 だから今日だけ、今日だけは......




 ふと目が覚めた。窓から差し込む太陽の光がちょうど僕の目に当たっていた。

 時刻は、


「えーっと、長いほうが1で、短いほうが、んーっとどこだ......」


 起きたばかりでうまく時計が見えなかった。

 改めて目を擦り、時計の針を探す。


「あ、あった。長針に重なって見えなかっただけか」


 日も上がり、ゆっくりと体を休められてよかったと思う。

 課題が終わっていないのが少し不安ではあるけど、朝のうちに断ればなんとか......


「ってか、短針が長針と1で重なってるってことは、もしかして」


 まさに授業の真っ最中だ。

 やばい。流石にやばいぞ。課題は断ればなんとかなるけど、無断で大遅刻をしたら許されることすらも、許されなくなってしまう。

 昨日は制服のまま寝ていたから、シャツとか下着だけささっと着替えて、ご飯はそっちのけで家を出た。


 当然と言うべきか、学校の授業はほぼ全部終わっていて最後の授業の途中で僕は学校についた。

 この学校では、遅刻したらまず最初に教員室に行き、登校したことを知らせなければいけなかった。こんな遅刻などしたことがなかったし、教員室に入ることさえほぼなかった。だからその遅刻手続きにも手こずり、結局は最後の授業にも間に合わなかった。

 何をしに学校に来たのかは僕自身がとても疑問に思った。部活も今日は休みだし、用事も入っていない。放課後カフェなどに寄り、暇を潰すような人ではない。だから本当にやることがない。

 もし君とまだ付き合ってたなら、そんなふうにも考えた。でもそれは僕の中でなにかとっかかりがあり、考えるのもやめてしまった。

 そんなふうに学校をフラフラしていたら、一人に声をかけられた。


「アキ、学校来てたのか。朝のショートホームで一樹先生困ってたぞ。なんかあったのか」


「いや、何もないよ。お恥ずかしい話、寝坊しちゃってさ。このザマなんだ」


「珍しいじゃねェか。規則正しい生活送ってるって前自慢げに言ってたくせに」


「そういうお前はどうなんだよ」


「今日も安定の10時寝、6時起きだよ。しっかり寝てるのに身長伸びねェんだよ」


「はいはいそうですね、おチビちゃん」


「は?チビじゃねェぞ、こんにゃろ。ズラ貸せ......!」


 こんな感じにいつも絡んでくるのが成瀬遥。小学校からの付き合いでかなり仲はいい。ただ、少し頭が残念なようで、いつも赤点のラインといい勝負をしている。かわりにというか、運動はめちゃくちゃできる。陸上競技、水泳、球技に武道。一週間あれば県で優勝して東北ベスト3ぐらいの記録を安定して出せるようになる。ただ遥は飽き性で、二週間ほどで大体の部活をやめている。ちなみに今は帰宅部らしい。もったいないと思う。


「まぁ、元気そうで良かったよ。またな」


「おう、それじゃ」


 遥はそう言って廊下の奥へと消えていった。

 正直ほっとした。もし僕が別れていたのを知っていたら、どう説明すればいいのか分からなかったからだ。

 他の誰も知らないでいるといいんだけど、そんなにうまくはいかないと思っている。なぜ別れたのかと聞かれたら、少し話を盛ってでも答えないと。要はうまく答えられればいいのだ。変に気を使われたり、噂を立てられたりしないように。


 そんなふうに考えていても結局誰にも会うことがなく、一日が終わった。

 僕のコミュニティの狭さがとても良く伺えて、大きくため息をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る