老人と紙切れと就活生 (修正中)
イノベーションはストレンジャーのお仕事
第1話 と、あるフリマの老人
三夫は途方に暮れていた。やっと掴んだ内定の会社から取り消しの通知が来たのだ。流石にどのご時世も食いぶちが無いと暮らせないのは既存の事実。これからどうしようか、と身の振り方を案じていた。
三夫の自宅近くに公園がある。公園と言っても小さな角地に滑り台と砂場が有るくらいだ。夕暮れ時、その公園で老人が何かを片づけ始めていた。よく見てると何かを売っていたようだ。古い人形などがある事からして、フリマを催していたようだ。とはいえ、他の出品者はいない。もう引き上げたのか。
三夫はその公園を横目で見た後、すぐに自分のスマホに目をやった。(なんだ、フリマか)くらいの認識でその角地の公園を右に曲がりかけた。(ん?待てよ?今までこの公園でフリマなんかしてたか?)とふと思い、その老人を暫く見ていた。老人は長い髪と服装がだらしない風貌だ。なるべくなら関わりたくない雰囲気。案の定老人と目が合ってしまった。
「お若いの、何か買っていくかい?もう店じまいだからサービスするぞい」
「え?」
三夫は毛頭何も買うつもりもないのであっけに取られた。
「今日はちょっと」
ぺこぺこしながらその場を切り抜けようとしたが老人はさらに続けた。
「まぁ、だまされたと思って品物だけでも見ていきなされ」
「は、はぁ」
この辺の人の良さが逆に内定を取り消された要因の一つかもしれない。しかし、それも個性の一つだから仕方ない。
三夫は老人の言われるがままに、小汚いゴザに並べられた商品?を眺めた。古しい女の子の日本人形と田舎の家にありがちな熊の置物、それとこけしが並べられている。今の三夫には確実に必要ないものばかりである。しかし、何となく普通じゃないように感じられた。よく見ると、どれにも左胸のあたりに小さな<名札>のようなものが貼られている。それに気づいた三夫は
「この名札みたいのに何か書いてありますね」
「お、よく気が付いたのぉ、お若いの」
「ん?このこけしには、うーんと<防衛大臣>って書いてありますね。何ですか?この名札」
「名札は名札じゃよ。このこけしは<防衛大臣>じゃ」
「へぇ~」
(やばい香りがしてきた)と思いながらも、話の途中を遮るのもはばかられたので、
「この熊の置物には、う~んと、<長者番付第一位>ってありますけど」
「いかにも」
(え?この熊が長者番付に載るわけねぇよな。ヤバい、ハマった!)
「この日本人形は、と」
三夫は日本人形に付けられた小さな<名札>を覗き込んだ。
「ん~と、なになに?えーっと<日本一の美人女優>ですか?」
「いかにも」
三夫は一刻も早くこの状況から脱却することのみを考えていた。
⇒第二話
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