枯野の魔女とアイの花/Re-posting
なめらか
花畑での邂逅
荒野の中一つ、細い音が鳴り響いている。声にもならないその音は、こちらに何か伝えたげなような感じがする。
「————————!」
それが必死に
「…もう朝……?」
甲高い機械音を鳴らす時計が、ベッドの上に転がる少女の耳を攻撃する。それによって彼女の脳は叩き起こされたようだ。部屋は、ライトという人工的な光源によって明るく照らされている。アラームによって叩き起こされた少女は、不機嫌そうに灰色の掛け布団から這い出て音を止めた。
「……自分で買っておいてなんだけどやっぱこのアラームの音、攻撃力高すぎない…?」
そうブツブツと呟きながら彼女は朝の支度を始める。そんな彼女の足元に白い、金属の箱のような…しかし上辺についた2つの三角形からは猫のような感じもするという…奇妙な物体が静かに近づいてきた。
「アルスケット、しょうしゅう。だいいちルーム。はやく。」
キューグルと呼ばれるそれから知らせを受けた少女、アルスケットはさらに不機嫌そうに反応する。
「分かったよ……キューグル。朝からなんなんだろうね?まだ起きたてだってのに…」
不思議な金属の箱に急かされながら支度を終えた彼女は、それの前面についたモニタをじっと見つめた。
「キューグル。行くよ。準備できちゃったからね。」
重いドアを開けて、外に出る。開けた先にある廊下には、仄暗い明かりが灯っていた。そこには同じように召集されたのだろう、不機嫌そうな仲間たちがちらほら見えた。その中を白い箱を連れた彼女は駆け抜けて「第一ルーム」へと向かった。
第一ルームと書かれた重厚な扉を開けると10名程の先ほど外で見たような少女達が、並んでいた。後続も次々と集まってくる。部屋に入った少女達は来た順にだろうか、きちんと整列してこれから何があったのかと待っている。
静かに張り詰めた空気の中、部屋の奥にあった扉が静寂をを切り裂いて音を立てた。その奥からつか、つかと足を鳴らして小学生くらいの大きさの少女が此方へ歩いてくる。そして部屋の中央でピタリと立ち止まると、第一ルーム中央にある、やけに存在感を放つ普通の革椅子にどかりと腰を下ろした。
「皆さん朝からご苦労。目覚めが悪くなってしまったかな?だとしたらすまないな。親愛なる我が
すまないと言っている割には悪びれた様子のない、腰掛けた長髪の彼女は部屋によく響く朗々とした声で話を始めた。きっと今日の本題だろう。
「今日はとてもいい天気だ。そう思わないか?諸君。あぁ、返事はいらないよ、私にはよくよく考えていることが伝わってくる。そんな良い日に申し訳ないが、皆にお願いをしたくてね。少々大輪の花が咲いたみたいなんだ。ほったらかす訳にもいかない程のモノだからね。摘んできて頂きたいと思ったんだ。よろしく頼んだよ。」
お願いという割には断らせる意思を感じないお願い…要するに命令を出し終わった後、満足した顔でその人は扉の奥へと帰って行った。
皆は首を揃えて頷くわけでも無く、無言で見送った後に行動を始めた。各々の装備を身につけ、外へと飛び立っていく。アルスケットもその流れに遅れないように、金属質の物を装着して天井に円く開いた
外に吹く穏やかとは言えない風が黄土色の砂を掬い、砂煙を低い雲のようにたなびかせている。木が立ち枯れするような荒野の中、アルスケットは風を切り飛行していた。飛んでいるのにも関わらず、その為に使っている道具などは一見して見当たらない。しばらく進んで行くと、前方に人型の影が見えた。所々に光のラインが入っているようだ。影を観察しても、見た目だけでは違いがわからない。備品のレーダーを覗いて、その存在の正体を確認する。
(あぁ、確かにそこそこのだな。)
花とは、外の世界に数多と存在している金属と肉で構成された生物群である。姿形は様々で、蛸みたいなものから見た目麗しい人型までと幅広い。彼らが何処から来るのか、何が目的なのか、何故敵対しているのかなんてこれっぽっちも分からない。ただ、敵対生命体。こちらに害が及ぶ為、こうして摘むようになっている。
『こちら、アルスケット。花咲く荒野にて目標確認。タイプはC。対象と交戦を開始する。』
雑音混じりの許可を示す音声が返ってくる。戦闘開始だ。
神器と呼ばれる特殊装備の攻撃ユニットを展開し、相手に気づかれる前に対象の
(そこだ……!)
その輝きへと、一直線に光線が吸い込まれて行った。撃ったものが一直線に落ちて行くのが見える。備品に示されていた反応も消えたようだ。
地上に降りて、一応残った戦利品を確認する。
(何かいいものが作れると良いけど……)
彼女らの装備は、花から取れたものから作られている。その為、何も使わずに飛ぶような非科学的な事が可能になっている。原理は分かっていない。
(飛行速度の限界とか、ちょっとくらい上がるかな?)
ただ、効果は元の花に依存するので素材の能力や特徴を見ていなければ何になるのかが分からない。
せっせと落ちている部品を回収し、その場を後にする。
(他の奴も探すか)
宙に浮き、移動を再開する。少し速度を上げて飛行すれば、風を切る音が気持ちいい。そうして探索している間に、アルスケットは違和感を感じた。先程まで視界には他の仲間も目に入っていたが、今は周りを見渡しても見当たらない。
(他の奴は…?
そう考えた時、気がついた。ついつい風を切る音が楽しくて、速度を上げながら飛んでいるうちに、想定よりも遠いところまで来てしまったのだ。方向なんて見てなかったからもはや迷子まである。
(あーっ!もう…っ!バカかっ……どうする……?戻ってみるか?いや、でも迷子の時下手に動くのも辞めた方が良いと何処かで聞いたような……)
そうこう考えていた彼女の頭を、突然朝のアラームのように攻撃的な音が貫いた。耳に入れた通信機からの、警告音の襲来だ。何かよろしく無いことでも起きたのだろうか。
『強力な花を感知。異常個体。数は1と予想されます。気を付けて下さい。警告レベルⅤ。』
「異常個体!?」
思わず口から声が漏れ出てしまった。異常個体なんて滅多に見ることはないし、聞くこともない。どういう所が異常なのかも伝えられなかった為、どう対処すれば良いのかも分からない。さらに現在彼女は迷子なので一人で対処しなければならない。
(運が悪すぎる……!)
未探索のエリアに入ってしまったのだろうか、既知ならばとっくにその異常は見つけられているはずだ。しかし悲しきかな、考えていてもこの状況は変わらない。
レーダーの深緑に浮かぶ少し大きい赤丸がこちらに近づいて来る。
(もう気づかれたのか!?)
特にアクションを起こした訳でもないのに。
その赤の周囲には黄色で示された中〜大輪のやつらも居るようだ。こんな数を一人だけで相手にできるわけがない。蜂の巣かなんかにでもされて死ぬのがオチだろう。
(今日は命日なのかもしれないな…しかし生憎周りに人は居ない…誰にも看取って貰えないな。誰かが骨を見つけてくれるといいが。)
遂に、目の前に
敵対生命体にも異常個体にも、ましてや機械にすらも見えない、柔和な微笑みをたたえた幼い花冠の少女の姿をして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます