ぼやけているもの
伊富魚
道化の独りごと
「人は、愛し合うことだけはやめられないのだ」
日曜の昼下がり、柔らかな陽射しが入り込んでいる小さな父の書斎で見つけた本の中に、こんなセリフがあるのを僕は見つけた。
一体どういうことだろう。
形あるものはいつかなくなってしまうのだということを、当時の僕は祖母から聞いていたのだ。
「愛し合う」はずっと残ってるってことなのかな。
従妹のミキちゃんのことが好きだっていうのとは違うのかな。
僕はいつものように、辞書で辞書でその語を調べてみた。
互いに愛情を寄せ合う。
互いに愛の行為を交わす。
むむう、余計にわからなくなる。
互いにってことは一緒にってことだよね、僕はミキちゃんに「愛し合う」をやってみようと思った。
今度彼女が僕の家に泊まりに来る時にできるかも。
僕は胸躍らせて、実際に踊ったりした。
ところで、「愛し合う」ってなんなんだろう。
ミキちゃんは知ってるかな。
十年以上経った今でも、何も変わっていやしない。
定義を知りその外枠にだけ齧り付いてばかりいるが、実際のところ何も分かっていやしないのだ。
そんな考えの浮かぶたびに愚かで惨めな自分を貶してみるも、ひどく痛々しい許りである。
いつまでも繰り返している阿呆の所業を、彼はお道化ていたのだとせめて笑ってくれたらいいのになあ。
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