大文字伝子が行く104
クライングフリーマン
大文字伝子が行く104
======== この物語はあくまでもフィクションです ========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。
一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。
愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。
草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。
渡伸也一曹・・・陸自からのEITO出向。
青山たかし警部補・・・元丸髷署生活安全課所属。退職した後、EITO採用。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
金森和子1等空曹・・・空自からのEITO出向。
早乙女愛警部補・・・警視庁白バイ隊からのEITO出向。
大町恵美子1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。
馬越友理奈2等空曹・・・空自からのEITO出向。
安藤詩3等海曹・・・海自からのEITO出向。
浜田なお3等空曹・・・空自からのEITO出向。
日向さやか1等陸佐・・・陸自からのEITO出向。
飯星満里奈・・・元陸自看護官。
稲森花純1等海曹・・・海自からの出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。
高峰くるみ・・・愛宕みちるの姉
高峰圭二・・・元警部補。警備員をしている
物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。
物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。
福本英二・・・伝子の翻訳部後輩。演出家。
依田俊介・・・伝子の翻訳部後輩。元は宅配便配達員だったが、今はホテル支配人になっている。
依田(小田)慶子・・・依田の妻。ホテルコンシェルジュ。
大文字綾子・・・伝子の母。高遠を「婿殿」と言う。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。
青山たかし警部補・・・久保田警部補の後任。愛宕の上司。後に、EITOエレガントボーイの一員となる。
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
午前10時。喫茶店アテロゴ。
高遠と愛宕がカウンターに並んで座っている。
「そうかあ。2件とも、動機が悲惨だなあ。片方は、男を振った女に男の親友が復讐。もう片方は、病院の連絡不行き届きで揉めて、それを苦にして自殺した母親の敵討ち、か。」カウンター越しに物部がため息をついて言った。
「人間関係は、難しいですね。みちるは、先輩に感化され、浄化したけど。流産のショックは、簡単には・・・。」と、愛宕が言った。
「でもな、愛宕氏。大文字も流産してるだろ?今度こそ産んで、みちるちゃんを刺激しようとしているんじゃないかな。どうなんだ?高遠。」
「副部長の言う通りです。流石、副部長。伝子は、自分が『乗り越える』見本になりたいんですよ。」
「お前も言うようになったなあ。それはそうと、今度の枝?は闇サイト使いか?リヴァイアサンだなんて大袈裟な名前つけて。」「そうですね。『恨み持ってる人いませんか?お金も武器も成功報酬もあげますよ』って、詐欺っぽい誘いに乗る人は多いでしょうね。恨みの種類も五万とありそうだし。」と、高遠は愛宕の方を見た。
「EITOでも後手に回らざるを得ないのに、警察は何やってる?って言ってくるし。マスター。100件ですよ、100件。一日に。」と、愛宕は物部に愚痴った。
「異常だな。何?俺は、私は恨まれてると思いますか?殺しにくるんでしょうか?って感じかな?」「その通りです。」
「怖いなあ。」とうとう、従業員の辰巳は口を出した。
「何だ、辰巳。何か恨まれるようなことしたのか?」「マスターの煎餅食べた位かな。」
「愛宕氏。どこで申し込めばいいのかな?やっぱりクレジットカードが要るかな?」
物部の言葉に高遠も乗った。「煎餅殺人事件か。新聞のいい見出しになりますよ、副部長。」
愛宕のスマホと高遠のスマホが鳴った。「何、サボってんの?」
両方のスマホから、同じ言葉が聞こえた。
高遠と愛宕は支払いを済ませて、慌てて出ていった。
「やっぱり怖いのは『カミサン』か。」辰巳は何故か、物部の言葉に大きく頷いた。
午前11時。伝子のマンション。
高遠は、帰宅すると、後ろから目を塞がれた。
「だーれだ?」「僕の可愛い、伝子ちゃん!」と高遠が言うと、横から「僕の可愛い伝子ちゃん!」という声が聞こえた。やはり、綾子だった。
「お義母さん、そうして茶化すのを止めて欲しいんですけど。」高遠が抗議すると、どこかへ消えた。トイレだった。
「暇なの?」と高遠は伝子に尋ねた。「多分ね。不衛生テロとか言われた子が姿を消したそうよ。何か悪い予感がする。」
正午。3人で昼食を食べている時、綾子が点けたテレビで幹事長が会見を行っていた。
「予定を変更したのかも知れない。」そう聞いた伝子はすぐにテレビを消した。
「そう言えば、総理に頼まれてEITOからもSP出したんだっけ?」高遠が言うと、 「大町達の報告を聞いて納得したわ。危機感ゼロだったって。フェイク。ヤラセよ。官房長官や副総理が誘拐されたことがあるのに、自分はないから。」と、伝子は毒づいた。
「やだ。ないものねだり?駄々っ子みたい。」「あんたもたまには、いいこと言うな。」
「たまに、は余計よ。ねえ、婿殿。」「たまに、ですね。」「嫌な夫婦。」
玄関で藤井が笑っていた。「いつもながら。見事なコントね。入場料要るかしら?あ、これね。京都の知り合いから『千枚漬け』送って来たの。お裾分け。」
「いつも、済みません、藤井さん。夕食にでも食べさせて頂きます。」と高遠が言うと、「え?今じゃ無いの?」と綾子は言った。
高遠と伝子は口を揃えて言った。「あ、と、で。」
藤井は大笑いをした。
午後3時。昨日の話を聞いて、綾子は「病院関係のことはあまり、知らないけど、コロニーの頃、介護施設よりかなり厳しい制限を設けていたらしいわ。結局、とっくに収束に向かっていたのに、無理矢理利権で伸ばしていた政府が悪いのよ。」と、言った。
「お義母さん、たまにはいいこと言いますね。コロニーは日本の文化を停滞、いや、後退させてしまった。前の総理は、「見当をつけます」とか言って、何でもかんでも問題を先送り。早かったのは大臣の更迭、詰まり、クビを決めた時だけ。市橋総理には、立て直しを頑張って貰わないと。」と、高遠が言った。
その時、EITO用のPCが起動した。
「大文字君。渋谷道玄坂にあるホテルで立てこもりだ。拳銃を持っているのは、あの『ソースなめなめ』少年だ。不衛生テロ犯だ。」
午後4時。渋谷。なまこホテル。
エマージェンシーガールズが到着すると、静かなホテルの光景だった。
ホテルの従業員が寄って来て言った。「支配人の寄道です。今、警察の方に説明していたところですが・・・。」
隣に中津警部補と部下達が現れた。「中津さん?犯人は?」
「ホテルが警察に通報した後、ある黒ずくめの集団が現れ、そいつをかっさらって行ったそうです。そいつって言うのが、コロニーの頃、世間を騒がせた宝田だ。宝田はチェックインするとき、自分のポケットから拳銃を出し、驚いた顔でこう言った。 『僕のじゃ無い。』他の宿泊客が騒ぎ出し、奴はパニックになって、そこら中を走り回ったそうです。そこで集団登場ってことらしい。」
「少なくとも、立てこもりじゃないですね。本人がいないし。宝田はおびき出されたって感じですね。誘拐だとすると、何か要求してくるかも。宝田の家には?」
「今、捜査員が向かいました。我々も一旦、引き上げましょう。寄道さん、犯人がこのホテルを中継地点にする可能性もなくはありません。何人か捜査員を残しますから、警察と連携を取って下さい。」「承知しました。」
午後7時。伝子のマンション。
高遠は、DDメンバーとLinen会議をしていた。
「というわけだ。」「ウチじゃなかったのは、幸いなのかな?ウチはなまこホテルと違ってマイナーかな?」高遠の説明に、依田が呟いた。
「ヨーダ。ラッキーだったって言うべきだろ?」伝子が言うと、「そうだぞ、依田。変な売り込み方するな。」と物部が言った。
「先輩、どういうことでしょうね?宝田が事件起すなら、分からないでも無いですけど。損害賠償成立したけど、一生かかって返せるかどうかって言われてますよね。」と、福本が言った。
「本人は『初めて』で『いたずら』の積もりでも、『許せない青少年の犯罪』の前歴があったからこそよ。」と、祥子が言い、「何か重い罰がないと、また同じようなことが起こるって言われていたわ。まだ起こってないけど、当事者は学校卒業すると関係無くなるのよ。忘れていたんじゃなくて、知らないのよ。」と蘭が憤慨して言った。
「蘭ちゃんとこの美容院の客は?」と高遠が尋ねると、「皆覚えているから、誘拐されたって聞いたら、ザマア見ろ、よね。」と蘭が答えた。
「行儀や躾のことが随分話題になりましたよね。」と文子が言った。
「小学校上がる前位だったら、無邪気ってことになるけど、高校生じゃ『悪意』と解釈するのが普通だわ。」とコウが言った。
「あの事件や類似事件が流行った頃、何度も舞子に言って聞かせたわ。ああいうことやっちゃダメよって。」と珍しく、くるみが発言した。
「正に、反面教師、か。」と伝子が言った時、EITOのPCが起動した。
理事官が画面に出て言った。
「東京都内、5カ所で同時に火災。犯人からの声明が警視庁に届いた。宝田の名前でな。」
「ええ?」一同は揃って声を上げた。
午後8時。渋谷。改装オープンセールをしているAparco。破壊された痕跡はもうない。
警察官や警備員が避難誘導をしている。
第1班である、伝子が消防隊員に尋ねた。「はい。声明の通り、明らかに放火です。MAITOにも応援要請をかけました。しかし、5カ所同時とは。」消防隊長は、すぐに消防隊員の指示に走った。
午後8時。四谷。王急四谷ビル。
警察官や警備員が避難誘導をしている。
第2班である、なぎさが消防隊員に尋ねた。「はい。声明の通り、明らかに放火です。MAITOにも応援要請をかけました。」
午後8時。池袋。サンシャイン水族館。
第3班である、増田が消防隊員に尋ねた。「はい。声明の通り、明らかに放火です。MAITOにも応援要請をかけました。」
午後8時。秋葉原。秋葉原西丸電機。
第4班である、金森が消防隊員に尋ねた。「はい。声明の通り、明らかに放火です。MAITOにも応援要請をかけました。」
午後8時。品川。OBQクリニックしながわ。
第5班である、大町が消防隊員に尋ねた。「はい。声明の通り、明らかに放火です。」
「ここは、そんなに大きなビルじゃない。MAITOは不要だな。」と大町は思った。
午後9時半。4つの地区は、MAITOのオスプレイが消火弾を投下して、鎮火した。
5カ所目のクリニックはボヤで済んだ。
エマージェンシーガールズは、消防と警察に協力して、残骸をチェックして回った。
結果。それぞれで、防火金庫が見つかり、プラスチックカードが見つかった。
『が』、『ま』、『や』、『な』、『れ』の五枚のカードだった。
夜半なので、理事官は、そのカードを回収し、明日会議をする、と指示を出した。
午後11時。伝子のマンション。
高遠は、おにぎりを作って待っていた。
伝子からカードのことを聞くと、「アナグラムに違いない。専門家のひかるに頼もう。」と言い、伝子がおにぎりを食べている間にLinenでメッセージを送った。
高遠が風呂の用意をしている間に、ひかるから返信があった。
「高遠さん。『ながれやま』だよ。流山って千葉県だよね。もう東京に拘る理由は無くなったから、ここだと思う。宝田を連れて行ったのはどこか?それは材料が足りないから分からない。でも有名な3つの公園のどこかじゃないかな。地図、添付しておくね。」
メッセージを読んだ伝子は、「じゃあ、明日の会議で検討するよ。」と高遠に言って、その場で服を脱ぎ始めた。高遠は、出来るだけ早く寝たいな、と思った。
翌日。午前9時。EITOベースゼロ。会議室。
ホワイトボードには、こう書かれている。
1.東部地域
総合運動公園
2.中部地域
大堀川水辺公園
3.南部地域
南流山中央公園
「他にも公園は幾つかある。観光課に問い合わせたら、ひかる君が言って来たこの3つでまず間違いないだろうという答が返ってきた。3つとも臨時閉園して貰った。」理事官は皆を眺めた。
「流山市か。しかし、日時が分からないと、ねえ。」と伝子が言った。
「これは、私の思いつきだったが、消防に問い合わせた。クリニックの現場から、自転車のダイヤル錠が発見された。関係者は皆知らないと言っている。恐らく日時のヒントだ。それで、急いで専門家に番号を調べて貰っている。午前中には答が出るだろう。大文字君は、今の内に班分けしておいてくれ給え。」と、理事官が言った。
「了解しました。」
伝子は一気にエマージェンシーガールズをオスプレイで運んで、パラシュートで現地に降りて、何も起こらない状況の場合、再びオスプレイで移動することにした。
早めの昼食を終え、待機していると、河野事務官が伝達に来た。
「理事官。ダイヤル錠の番号は、『1714』です。」
「17日14時か。17日は、今日だ。時間がない。諸君、急行してくれ。」理事官の指示に、エマージェンシーガールズは全員出て行った。
午後1時半。流山市東部地域。総合運動公園。
伝子率いるAチームがパラシュートでオスプレイから降り立った。
午後1時40分。流山市中部地域。大堀川水辺公園。
なぎさ率いるBチームがパラシュートでオスプレイから降り立った。
午後1時50分。流山市南部地域。南流山中央公園
あつこ率いるCチームがパラシュートでオスプレイから降り立った。
午後2時になった。
Bチームの中部地域の大堀川水辺公園には、異様な風景は見受けられなかった。
Aチームの東部地域の総合運動公園にも、異様な光景は見当たらなかった。
ところが、Cチームが降り立った南流山中央公園は違った。
100人近い那珂国人達が武器を持ってたむろしている。
頭巾を被った男が2人、椅子に縛られている。
あつこや金森達は、ブーメランを投げ、シューターを投げ、ペッパーガンやバトルスティックで闘い始めた。オスプレイは、AチームとBチームを回収する予定だったが、双方とも、Cチームの南流山公園に走った。
オスプレイから、2機のホバーバイクがオスプレイのカタパルトから発進した。
シューターとは、EITOが開発した武器で、うろこ形の手裏剣には、痺れ薬が塗ってある。一方、ペッパーガンとは、胡椒や調味料を主成分とした丸薬を発射するガンで、敵の鼻孔を刺激し、戦意を喪失させて動きを鈍くさせる銃である。バトルスティックとは、チタン合金の棒で、シューターと同じしびれ薬が先端に塗ってある。
シューターやブーメランで、集団の拳銃は落とされていった。
ホバーバイクとは、民間発明家の開発した『宙に浮くバイク』をEITOが採用して改造したバイクのことである。
ホバーバイクに乗った筒井と青山は、ペッパー弾や水流弾を発射した。水流弾は、拳銃を無効化した。
闘いの終盤、頭巾を被った男達の内の1人が、頭巾を取り、立ち上がった。縛れてはいなかった。そして、もう一人の頭巾を取った。猿ぐつわをされた、若い男だった。
伝子達、なぎさ達が追いついた。
全ての那珂国人が倒された時、伝子は言った。
「終わりにしよう、流血なんか望んでいなかったんだろう?リヴァイアサンに捕らわれて、身動き取れなくなったんだろう?負けることが分かっていて事件を起したな、斑鳩。」伝子は、斑鳩の耳にそっと呟いた。
大町が、宝田の猿ぐつわを取った。
「俺はいたずらしただけなのに。寄ってたかって・・・。」
その時、吹き矢が飛んできた。大町が「危ない!」と言って、庇った。
「例の吹き矢か。どうやら、マフィアは君も邪魔らしいな、宝田。」伝子は言った。
飯星がオスプレイからホバーバイクを発進させて、降り立った。
すぐに、飯星は大町に血清を打った。「これは、マフィアの猛毒に対する血清だ。効くかどうかは分からない。死んだら。お前が殺したようなものだ。」
間もなく、救急車がサイレンを鳴らしてやって来た。救急隊員が大町をストレッチャーに乗せ、救急車は大町を運んで、去って行った。
「君は、最初は被害者だった。誘拐されたんだからな。それで、斑鳩と同じ、組織の葉っぱになった。もし、彼女が亡くなったら、君はマフィアの中では英雄だ。でも、日本社会では、悪人だな。日本では生きていけないから、那珂国に亡命すればいい。そうすれば、警察もEITOも手が出せない。でも、君の家族や友人とも縁が切れる。自分で選んだ道だ。誰にも文句は言えないぞ。それと、斑鳩はな。お前のせいでクビになった新ジローの元従業員だ。奴の目的は、お前への復讐だった。だから、トリックもお前に考えさせた。」
ミニパトがやって来た。みちるとあかりが降り、みちるは、容赦なく宝田に手錠をかけた。「今日、誕生日なんだって?誕生おめでとう。私たちからプレゼントをあげるわ。手錠って、案外冷たいでしょう?もう少し温度調節しようかしら?」みちるの合図で、あかりは手錠の上に保冷シートを貼った。
「成人だから、名前も顔もバッチリ世間に公表出来るわ。良かったわね。有名人よ。」
宝田は恐怖に顔が引きつった。
「確かに、君の両親は謝った。迷惑をかけた会社にも、世間にも。でも、君は笑っていたそうだな。いたずらなんだから、微罪。しかも少年犯罪だから、『こら』で済むって。同級生から50人以上の証言を貰ったよ。君がやったことは、所謂ネット民が主張したように『テロ行為』だ。我々は、テロは許さない。アンチテロリズムだからな。お巡りさん、充分事情聴取をお願いします。」と、伝子はみちるに言った。
エマージェンシーガール姿の伝子は、警察官姿のみちるとあかりに深々と頭を下げ、その場を離れた。
離れた所で見ていた斑鳩に、なぎさは言った。
「仕返しの方法は。いくらでもあった。パニックになったお前には、目の前にぶら下がったパンしか見えなかった。残念だったな。あの吹き矢はフェイクで、撃たれたのは演技だ。拘置所に入る理由も刑務所に入る理由もない。でも、奴は、いつか躓く。君は手を出す必要はなかった。刑が決まったら、しっかり更正してくれ。」
なぎさは、待っていた中津警部補に斑鳩を引き渡した。
斑鳩は、去る前に、なぎさに深々と頭を下げた。
伝子が近づいて来た。「お疲れ様。」「おねえさま。泣いていいですか?」「いくらでも泣け。でも、オスプレイの中、でな。」
伝子は、なぎさの肩を抱きながら、オスプレイに向かった。仲間たちの元へ。
翌日未明。New tubeで、エマージェンシーガールズとマフィアの闘いが流れた。
午前11時。EITOベースワン。記者会見場。
真っ先に手を挙げて発言した記者がいた。
「動画ジャーナルの北上です。理事官。闘いの後、ある未成年の男性を逮捕していますが、どういうことでしょうか?彼は確か『不衛生テロ』で騒がれた・・・。」
「流石、詳しいですね。ベルトコンベア寿司新ジローの元従業員斑鳩栄介が、騒動の中心人物でした。事件の原因は、コロニーの頃の不衛生テロにあることは明白でした。不衛生テロの犯人である宝田落人こそ、事件の元凶でした。宝田の両親は新ジローに詫びを入れ、裁判が行われました。まだ一審ですが、損害賠償が成立しました。しかし、この不衛生テロの陰で、大量の人員整理、詰まり解雇が行われたことをご存じでしょうか?斑鳩は、高校を卒業し、アルバイトした先が新ジローでした。貧しい家庭でしたから、大学には進学出来ませんでした。年度替わりで、正規雇用に詰まり、正社員になることが内定していました。彼の夢や希望、将来は絶たれました。宝田のことを『将来を微罪で潰していいのか』という、世間の声がありました。斑鳩のような青年の将来を潰すことは考えなかったのでしょうか?裁判でジャッジするのが裁判官の仕事です。情状酌量を訴えるのは弁護士の仕事です。昔、『一億総評論家』と言われたことがありました。個人的感想を社会正義に変えて日本を貶めていく。それこそが、那珂国の目的です。自分たちで自分たちの社会を壊していく。それを煽動する為に、ジャーナリストを買収して行きました。新聞やテレビが廃れてきたから、今度はネット動画やSNSですか。北上さん、あなた、不衛生テロの数年前に騒がれた、バイトテロの当事者の一人ですね。そして、テラーサンタから依頼されて闇サイト『リヴァイアサン』を運営した張本人ですね。」
北上は、反射的に拳銃を出し、斉藤理事官に向けた。
どこからか、ブーメランが跳んできた。拳銃は叩き落とされていた。
「あなたが隠しカメラを仕掛けたことは分かっていました。わざと放置し、別の場所から我々も撮影しました。家宅捜索すれば、色々と出てくるでしょう。」
北上は、記者達を押しのけて出ていこうとした。北上の足のかかとにシューターが刺さった。
あつこが、近寄って来て北上に手錠をかけ、冷たく言い放った。「終わりよ。あんたの枝としての役目も、あんたの『将来』もね。」
連行されていく北上に、エマージェンシーガールが声をかけた。「痛かったわ、あの吹き矢。吹いた犯人も捕まったから安心して眠れるわ。」
午後1時。伝子のマンション。
なぎさ、あつこ、みちる、あかりが来ていた。
チャイムが鳴り、高遠が開けると、筒井が立っていた。
「高遠。煎餅を・・・。」
4人が伝子の回りでじゃれているのを見て、筒井は言った。
「マタタビでも食わせたのか?高遠。」
―完―
大文字伝子が行く104 クライングフリーマン @dansan01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます