ジョーカーという男
「みんなが一斉に争い出した・・・!!これが世界の滅びなの!?」
着替える間も惜しく、桃花はパジャマの上からコートを羽織っただけの格好である。
そんな彼女を背負って街中をひた走るのは道化師。
彼は頷く。
「ああ。間違いなくテルの仕業だね」
その言葉を聞き終えるのと同時に、桃花は頭上でガラスが激しく砕ける音を聞いた。
「――――ッ!!」
人が、落ちてくる。
死 に た
く
な い
道化師は“彼”の心の声を聞き届けた。
聞こえたから声を張り上げた。
「来い!!アンブレラ!!」
するとその場に巨大なピンク色の傘が現れ、落ちてきた“彼”は柔らかいそれに勢いよくぶつかった。
“彼”の体はぼよんと大きく跳ね返り、再び宙へ。
「――――ッ」
だが巨大な傘のおかげでビルの三階から落下した勢いは弱まっており、“彼”は持ち前の運動神経で見事道路への着地を決めた。
「・・・・っ、う・・・」
だがそこで力尽き、その場に倒れ伏す。
「――――よし」
道化師はそこまで見届けると巨大な傘を消し、また走り出した。
(・・・ピエロさん・・・)
その様子を見ていた桃花は、思った。
“
この世に未練を残した者を笑顔にして、強制的に未練を無かったことにする者。
この世に留まる霊を一掃する為にセカイが生み出したシステムの一つ。
・・・そう、桃花は本人から聞いている。
(死者を笑わせて・・・・今を生きる人の言葉を聴いて・・・・助ける)
『憎しみという感情を大事に抱えたままでもヒトは楽しく生きていけるってところ、キミがボクに見せて』
・・・ああ、そうか。桃花は腑に落ちた。
(君は、生者にも死者にも、楽しくなって欲しいんだね)
「楽しいね」って、笑ってて欲しいんだね。
「ピエロさん、聞いて」
「なに?」
道化師は返事をしながらもひた走る。
街中は
人々が血走った目で相手をにらみ、言い争い、取っ組み合い、果ては暴力に及ぶ。
楽しげに笑い合う人間など、もうどこにもいない。
だから桃花は言った。
「あなたには分かるんでしょう、テルの居場所が。それを教えて」
「桃花?」
道化師は何かを察して責めるように彼女の名を呼んだ。
「わたしは一人で行ける。だから――――あなたは生きたいって思った人をさっきみたいに助けてあげて欲しい」
「駄目だよ」
「どうして?」
「ただでさえ衰弱しているキミをこんな状況で一人にはできない。それに――――ボクから離れたら桃花、キミにもテルの呪いがかかってしまう」
「・・・・人を、呪わずにはいられない呪い?」
「そう」
「ピエロさん。わたし、もうとっくに人を呪ってるし、世界が憎い」
「・・・・・・」
「自分が嫌な奴だって自覚、あるし」
「・・・・桃花」
「それでもこの世界で生きていく覚悟ができたよ。死にたい、もうイヤだ、って言いながら、泣いて、それでもまた生きていく覚悟が」
それはあなたたちと出会えたおかげ。
「だから、それをテルに伝えに行く。ピエロさん――――お願いだ」
派手な柄をした帽子を被った後頭部からは、しばらく返事が来なかった。
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