女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研(やきうけん)
導入部
「わ、私……今から服を脱いで……は、裸になるので……み、見ていてください!」
一年下の図書委員の後輩から、頼みがあると言われたので聞いてみたのだが……どういうことだ?
***
「もうすぐ先輩、卒業ですよね。私と二人で受付をするのも今日が最後です」
受験が終わったので、久しぶりに戻ってきた図書委員会の仕事。
図書室のカウンターの中、シフト表を見ながら彼女が話しかけてくる。
「そうだね」
改めて口に出すと感慨深い。そうだ、あと一ヶ月もしないうちに僕はこの高校を卒業する。
図書委員の仕事どころか、この図書室に入ること自体もなくなるだろう。
**
僕たちは図書委員。放課後の図書室では、通常二人一組で当番をする。
男子の委員は少ないので、大抵は女子と組まされる。
本の運搬などの力仕事を担当するので、自然と女子からは頼りにされる。つまり、モテるのだ。
「委員会の中では付き合わないほうがいいぞ、色々トラブルになるからな。まして後輩からは実態以上に良く見られるんだ」
一年生の頃、男子の先輩に言われた。
その先輩は別の高校に彼女がいるという話だ。なんでも、中学時代からの同級生だという。
「実際、それで辞めていった委員だっているんだからな。そんなことになりたくないだろ?」
僕は図書室が好きだ。というよりも本が好きなのだ。
もちろん女の子に興味がないと言ったら嘘になるが、せっかくの居心地のいい場所は離れたくない。
だから僕は、先輩のアドバイスどおりに、女子たちとは意識して距離を取るようにしていた。
今日、一緒に当番をしている後輩は、僕をよく慕ってくれていた。というよりも懐いてくれていた。
集団では寡黙なのに、僕と二人で当番をしたときなどは饒舌に、好きな小説の話をしてくれたりする。
鈍感な僕でも好意のようなものは感じていたが、僕が特定の委員と必要以上に親しくなることを避けていることは彼女も察してくれているようだった。
**
「これ、義理ですから!」
去年のバレンタインデーもたまたま二人一緒の当番であり、帰り際にそう言われてチョコを貰った。
しかし他の男子委員が彼女からチョコをもらったという話は聞かない。義理というのは建前なのかも知れない。
僕としても彼女との仲を進められないことをもどかしく思っていたが、結局自分を守るために前に進めない、ある意味で卑怯な人間である。
**
放課後の受付時間が終了し、最後の片付けや点検をしているところだった。
図書館の奥の資料室で二人きりになったところで、彼女が切り出した。
「あの、先輩」
「どうかした?」
このとき、僕は少し期待した。彼女から告白の言葉が聞けるのではないかと。
卒業した後であればトラブルとは無縁だ。ただ、僕は大学進学とともに引越して下宿するということは、既に委員会のみんなには伝えている。
「あの……一つだけお願いがあるんですけど、……いいですか?」
「何かな?できることだったら力になってあげたいけど」
しかし、彼女の口から出た言葉は少し意外だった。時間はたっぷりあったのに、今になってから頼みたいことというのは一体なんだろう?
「わ、私……今から服を脱いで……は、裸になるので……み、見ていてください!」
「……は?」
理解が追いつけない。服を脱いで?裸になる??この学校の中で???
「だから、裸になるんです。制服も、し、下着も全部脱いで……」
どうやら彼女は本気のようだ。なぜ?一瞬ドッキリを疑ったが、彼女がそんなものに乗るとも思えない。
「ちょ、ちょっと待った!なんでここで裸にならないといけないんだ」
「……今は聞かないで下さい。それと、え……エッチしたいとかじゃないので、先輩は脱がなくていいです」
彼女は絞り出すような小さな声で答えた。
「よ、よくわからないけど、僕は部屋の外で待ってるから」
「あ、行かないで下さい!私のことを見ていてください!」
「見ていて、ってことは、服を脱いでいくところも見てほしい、ってことなの?」
「はひっ!」
彼女の息は荒く、声が上ずっている。無理をしていることは明らかだ。
「えっと、服を脱ぐってことだけど、誰かにやらされてるとかじゃないよね?」
最低でもこれだけは聞いておきたいと思った。彼女にそんなことをやらせる奴がいるとも思えなかったが。
「違います!私が自分で決めたことです!」
「そうか。……わかった、ここで見ているから」
「あ、ありがとうございますっ!」
僕は椅子に腰掛けて彼女を見る。
彼女の裸、想像したことがないと言えば嘘になる。
卒業したら告白して付き合って、下宿先に連れ込んで……なんて妄想は何度もしていた。
だが、この図書資料室の中で、しかも彼女自らの意思で裸になっていく様子を見ることになろうとは想像すらしていなかった。
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