安倍晴明物語☆夢幻の月完結編2・最終「夢幻の花は咲く」

第五十五話・第一話「安倍晴明の娘、安倍朝陽」

 ※完結編では、化生の表現を混血-半妖に変えてあります。


 夢幻の月 完結編「夢幻の花は咲く」表紙

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16817330667031414734


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 夢幻の月 完結編「夢幻の花は咲く」登場人物紹介


 1. 安倍晴明あべのせいめい

 夢幻の月本編の主人公。

 美夕の夫、三児の父。

 都の二大大陰陽師と呼ばれている。天狐と人の混血。


 2. 安倍美夕あべのみゆう

 夢幻の月本編のヒロイン。晴明の妻、三児の母。

 鬼と人の混血で現在、賀茂家巫女塾の副巫女長をつとめている。


 3. 安倍朝陽あべのあさひ

 完結編、夢幻の花は咲くの主人公。

 晴明と美夕の娘で、巫女見習い。篁が大好き。

 天狐、鬼。人との混血でその霊力は未知数。

 父のような陰陽師になると切望しているが…


 4. 小野篁おののたかむら

 地獄の官吏をしている男性。若く見えるが、

 年齢は不明。過去は色々あったが、今は落ち着いているらしい。


 5. 蘆屋道満あしやどうまん

 鬼と人との混血で、美夕とは異母兄弟。

 法師陰陽師をしている。美夕が好きだったが、

 現在は、ハルという彼女がいる。


 6. 津島疾風つしまはやて

 侍の息子で、朝陽の幼なじみ。

 朝陽に何かとちょっかいをかけてくる。


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 皆、女は陰陽師になれないっていうけど私は絶対、父様のような陰陽師になってやるんだ!



 賀茂家の庭で都の大陰陽師の一人、賀茂光栄の特別授業を受けているのは、

 安倍朝陽あべのあさひ、14歳。

 長い黒髪を藍色のリボンでたばねて、ポニーテールにしている。

 清純で活発そうな少女だ。


 優しい光を宿した父ゆずりの紫の瞳が、不思議な印象を現している。

 都の大陰陽師安倍晴明と、副巫女長の安倍美夕の長女だ。


「朝陽さん。そろそろ、終いにしましょうか」

「はい。先生!」


 そこに道満が朝陽を迎えに来た。

「朝陽ちゃん。迎えに来たよ~!」

「道満ちゃ~ん!」


 朝陽は喜び、道満のもとにかけていく。

「光栄先生、ありがとうございました。さようなら」

「はい、朝陽さん。さようなら。気をつけて」


 光栄は柔らかな笑顔で、にこやかに朝陽を見送った。

 屋敷を出て歩いていると

 一人のつり目の少年が、にやにやしながら待ち伏せていた。


「よう、朝陽。今日も元気におかめ顔か?」

「うるさーい。つり目!」


 朝陽は舌を突き出した。

 この失礼な奴は、幼馴染の津島疾風つしまはやて。侍の息子でなぜか昔から私に突っかかって来る。

 でも、こいつは私達家族を半妖って差別しないのよね。

 意地悪だけど、本当は優しいのかも。道満はちらちらと、疾風を見ながら睨んでいる。



 朝陽は何とか、気をそらそうと道満に話しかける。

「ねえ、道満ちゃん。ハルさん元気?」

 ハルというのは、道満が付き合っている女性の名だ。


 ハルは道満が仕事で通っている家の娘で道満と縁があり、もう三年も付き合っている。

 前は美夕のことが、諦めきれない様子の彼だったが

 どうやら、朝陽達のことやハルの穏やかな人柄に触れて吹っ切れたようだ。

 すると、道満は嬉しそうに


「ああ、元気だよー。この前、ハルと足をのばして桜の綺麗な丘に行ってね!」

 と彼女の話をし始めた。しかし終わるとまた、疾風を睨んでいる。


 うわっ。気まずい……


 朝陽はいつものことなので、なるべく気にしないようにしようとした。

 朝陽は疾風を気にしない様子でスタスタと歩いていて、

 疾風は道満を無視して、そっぽを向きながら歩く。

 屋敷の近くに着いた時、朝陽は疾風の方を向いてにこりと笑い


「結局、送ってくれたじゃない。疾風ありがとね!」

「うるせー、へちゃむくれ! 俺の用事が、こっちにあっただけだ。早く行け!」


 疾風は少しだけ、頬を赤らめぶっきらぼうに吠えると路地に入っていった。

 道満は、疾風が消えていった路地をキッと睨んだ。


「俺の可愛い朝陽ちゃんを! いつも、いつも! あいつ嫌いだ」

 口をたこのようにとがらせた。

「ごめんねー。あいつ、口は悪いけど。悪い奴じゃないから気にしないで?」

「むう、朝陽ちゃんがそう言うなら」道満は渋々納得した。


 可愛いなあ。

 朝陽は思わず、吹き出しそうになった。

 一体どちらが大人なのだろう、でも朝陽はそんな単純で優しい道満が

 昔から本当の兄のようで大好きだ。道満をともなって朝陽は屋敷の戸を開けた。



「ただいま、帰りました~!」


 奥から、母の美夕と弟の吉昌よしまさが出てきた。

 晴明と美夕はアヤカシの血が濃いので

 血の薄い道満のように肉体が年齢を重ねることがない。


 二人とも、二十代の外見のままなので、人里でも暮らしていけるように

 外出する時は、年相応の姿に変化していた。

 長男の吉平よしひらは陰陽寮が経営している学問寮に入っており、今は長く家を留守にしている。


「おかえりなさい。姉上!」

「おかえりなさい。朝陽、兄様。朝陽、篁様が見えているわよ」

「えっ? 篁様が来てるの!?」


 朝陽は、瞳を輝かせて草履を脱ぎ急いで、茶の間に駆けていった。

「あっ、こらっ、草履をそろえなさい。もう、仕方ないわねえ。篁様が来るといつも、こうなんだから」

 美夕はくすっと静かに笑った。





 朝陽は、茶の間まで駆けてくると、立ち止まり髪を整えて笑顔をつくった。

 篁は茶の間で、茶を飲んでいた。静かにふすまを開けて入ってきた

 朝陽に気づくと、にこりと微笑みかけてきた。


「ああ、朝陽。 おかえり」

「篁様。ただいま帰りました!」


 朝陽は篁と目が合うと、背筋が伸びてドキンと胸が高鳴った。

 不思議、篁様にはなぜか心惹かれるのよね。

 まるで、前世から惹かれあっていたみたいに……?


「今日はどうしたの?」

「ああ、ちょっと野暮用があってな」

「また、冥府の用事で?」

「まあ、そんなところだ」



 ――なんだ、私に逢いに来てくれたんじゃないんだ……


 朝陽は、頬をふくらませてむくれた。

 それを見た篁は、面白そうにくすっと笑い。

「ははっ! 用事もだがもちろん。お前に逢いに来たんだぜ?そんな顔、すんなよ。可愛い顔が面白くなってるぞ」


 篁は立ち上がって、朝陽の頭をくしゃくしゃっと、撫でまわした。


 ――お前に逢いに来たんだぜ――


 篁様はいつも、私が欲しい言葉をくれる。

 篁様大好きよ。

 朝陽は、頬を真っ赤に染めて黙って篁に撫でられていた。




 ☆+☆+☆


 夕刻、晴明が仕事から帰って来た。夕餉は川海老の焼き物と山菜そばだ。

「山菜のおそば、おいしー!」

「吉昌、姉様の海老一つあげる。あんた好きでしょ?」


 朝陽は、吉昌に海老をあげた。

「わ~い。姉上ありがとう!」

 殻まで、カリカリに焼けた海老を、大きな口でほおばる吉昌が可愛い。

 食事がすむと晴明は道満と篁と共に自室に行った。



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