第三十九話「化生の守護者たち」❖

 そこに篁が駆けつけてきた。後ろから、白銀に輝く人影が歩いてくる。

 道満が目を凝らして見ていると

 見たことのない半人半妖の狐のあやかしが、純白の尻尾を揺らして歩いてきて美夕達の列に加わった。


 初めのうちは新たな敵かと思い道満は、身構えていたが。

 そのうち美夕達が、あやかしに対し落ち着いていることと

 あやかしの顔が良く知っている人物に似ていることに気がつくと、道満は震えて涙をこぼした。


「晴明ちゃん!?もしかして、晴明ちゃんなの?」

「ああ! 待たせてすまなかったな。道満」

「よく帰って来たな、晴明!」


 道満は晴明と肩を組んだ。


「晴明ちゃん、仙人のじいちゃんは? 大丈夫なの」


 道満が心配すると、晴明は辛そうな顔をして唇を噛みうつむいた。美夕も涙を流した。

 その様子を見て道満は全てを、悟り顔をゆがめた。

 迷いを振り切り、晴明は微笑むとキリッとした表情でさけんだ。


「我こそは人と人ならざる者を繋ぐ使者、白き天狐、安倍晴明。ゆくぞ!皆の者!炎獄鬼を今度こそ打ち取るぞ!」

 仲間たちはおたけびを上げて炎獄鬼達に向かって行った。

 死の淵からよみがえった、晴明は炎獄鬼と刃を交えた。


「貴様は死んだはずでは」

「お前を倒すため、黄泉からかえったのだ!」

「くふふ。それならば!(はれあきら!)」


 炎獄鬼はもう一度晴明の真名を呼んだ。

 しかし、晴明はビクともしない。


「その名はもう利かぬ!」

「バカな!」

「爆ぜろ!」


 晴明が、術で爆発を起こす。鬼達は吹き飛んだ。

「くそう! 燃えろ!」

 炎獄鬼は手のひらから、火を放った。


「うなれ! 吹雪刀!」

「お願い! 人魚のうろこよ」


 晴明の吹雪刀の凍てつく吹雪と、美夕の魔法の雨が、炎獄鬼の火に向かって放たれ、水蒸気になって消滅した。

「炎獄鬼よ、本気を出せ。それとも、お前は弱き者を盾にとることしか、出来ないのか?」

 晴明は鋭い視線で睨み、挑発してみせた。


「フフフ…こざかしい!この炎獄鬼を、こけにしたことを後悔させてやるわ!」

「今度こそ、美夕は私が守る!」

「守りたいのは、俺もだよ」


 道満も晴明の横に並び身構えた。

 その時、空気が震えた。

「死ね! ウジ虫共!」

 炎獄鬼は、真っ赤に燃える炎を美夕に放った。


「きゃあっ! 父様―――!」

「あぶない!」


 晴明、道満、篁は美夕をかばった。

 晴明達は炎に包まれる。

「やったぞ!」

 にやりと笑う炎獄鬼。

 その瞬間、水球が発生し炎がかき消された。

 蒸気じょうきで辺りが見えなくなる。

 しばらくして霧が晴れてきた。

「道満、だからお前はつめが甘いのだ。それ、髪が少し焦げている」


 尻尾を揺らした天狐晴明が。

「晴明ちゃんも篁もずいぶんと変わっちゃって、まあ~、母様。びっくりよ?」

 鬼の道満が。

「誰が、母だ。誰が! お前らこんな時にのんきに会話するなよ」

 流星刀を構えた青年篁達が

 炎獄鬼の炎を盛大にかき消して、美夕を守る守護神のようにゆうゆうとたたずんでいた。


「チィッ!」


 舌打ちをする炎獄鬼、しかしにたりと笑うと腕を広げた。

 炎獄鬼の身体はメキメキと音を立てて変化し始めた。

 虎に似た体、大蛇の尻尾が生え、翼を持った巨体の姿は、異国の神と呼ぶにふさわしかった。

 逆上した炎獄鬼は、大妖怪に変化した。


 大妖怪炎獄鬼AIイメージイラスト

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818023214029731339


「うそ! 父様がこんな化け物だったなんて!」


 美夕は突然の出来事に震えとめまいがした。

 近くにいた道満が支える。


「大丈夫かい? 美夕ちゃん。俺もこんな恐ろしい奴を見るのは初めてだ。よもや、こんな姿だったなんて」

 自分の身にも同じ血が流れているかと道満が身震いする。


『悪夢にもだえろ』

「皆、気をつけろ!」


 晴明は後ろにいる美夕達を振り返った。

 炎獄鬼は濃度の濃い霧を放ってきた。

 美夕が霧に呑まれそうになる。

「あぶない!」

 道満は美夕を突き飛ばし、かばって霧に呑みこまれた。

「道満様!晴明様!篁様!」

 道満と晴明、篁達は霧に呑まれていった。


 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

 次回は、第七章に入ります。いよいよ最終決戦です!

 よろしければ、ご一読ください。

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