本編です。

第三十八話「道満の戦い」 

 一方、洞窟近くの村では、美夕達を探しに来た炎獄鬼が、部下と村に火を放っていた。


「ははは!出て来い!化生ども! 出てこんと、この村を滅ぼすぞ!」

「キャー」

「わー!」


 村人が、阿鼻叫喚あびきょうかんの叫び声をあげて逃げまどう。その中にお鶴達もいた。

 道満が坂を駆け下ってきた。


「こっちへ、早く逃げろ!」



 その時、道満に生き残った一部の村人達が、石を投げてきた。


「お前のせいで村が燃やされて、俺の友人が殺された! お前が炎獄鬼に逆らって余計なことをしたからだ!」

「やめてください!私が悪いのです。私がこの人に頼んだの!」


 お鶴とお鶴の祖父が道満をかばった。道満はお鶴の肩に手を置いた。

「いいんだよ。お鶴ちゃん。それより早く逃げてくれ!」

「お前達も早く逃げろ! 殺されるぞ!」



 道満は錫杖を振り上げて必死に村人を逃がした。

「道満か、見つけたぞ!」

 炎獄鬼はしもべの鬼達を使ってきた。

「うおおおっっ!」

 道満は敵を錫杖でなぎはらった。


 道満は自慢の剛力で襲い来る鬼達を倒していく。

 チッと舌打ちをする炎獄鬼。状況不利とみた炎獄は、突然道満の養父風獄鬼ふうごくきの話をして、揺さぶりをかけてきた。

 美夕の母の人面そを消すには、百人の混血の生き肝と地獄の鬼の血肉が必要だった。

 しかも、とびきり強く穏やかな気性の男の鬼であるのが条件だったのだ。


 炎獄鬼はそれを知っていて弟の風獄鬼を殺した。

 しかも、抵抗しなければ息子の道満を化生狩りからはずして

 助けてやると、風獄鬼に話しを持ちかけ風獄鬼は望んで、生きながら食われるという壮絶な最期を遂げたのだという。

 話が終わると道満は怒りで震え始めた。


「ふざけんな!母ちゃんを食っただけでは飽き足らず父ちゃんを利用し、その鬼女のエサにしただと!?命をなんだと思ってんだ! こんにゃろ―!」


 道満は先ほどより明らかに動揺している。


 炎獄鬼はさらに揺さぶりをかける。


「ふふふ、一人で来た貴様の勇気に免じて、養父の最期の遺言を聞かせてやろう!」

 何と、炎獄鬼は風獄鬼そっくりに声をまねた。


「息子よ。生きろ! 生きてさえいればいつかは、報われる日がきっと、来る。お前は俺と母さんのたった一人の自慢の息子だ。」

「だそうだ」


 炎獄鬼はにやっと笑って道満を見た。

「てめえが父ちゃんを語るな!」

 道満はいきりたって炎獄鬼に襲いかかった。


 炎獄鬼は道満に向けて火炎を放った。

 炎が道満に迫る!刹那、黒月が飛び込んできて刀を振るった。

氷気斬ひょうきざん!」

 刀から発生した冷気により

 炎は、白い霧へと変化して散った。


「わっ! 黒月!こんなところに来てて晴明ちゃんは大丈夫なの!?」

「――問題ない、そんなことより。勝算はあるのか?」


 勝算と聞かれて道満は、にやっと笑った。

「仙人のじいちゃんのおかげで、自由に鬼に変化出来るようになった。時間制限は、あるけどね!」

「お前にしては上出来だ」黒月がめずらしく道満を褒めた。



 道満は一瞬驚いてきょとんとしたが、すぐに不敵に口角をあげて体制を整えた。


「行くぞ! 黒月!」

「俺に命令するな」


 二人は、炎獄鬼と鬼達に向かって行った。

 道満と黒月が、炎獄鬼と配下の鬼達と戦い始めてから、配下の鬼もだいぶ減ったが。

 炎獄鬼は、相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。

 村の家々はもう半分ほどが燃えてしまっていた。



 にわかに空が曇り、雷鳴がとどろいた。音を立てて、雨が降りだしてきた。

 道満が気配に気がつき、振り向くとそこには、美夕がカロリーヌのうろこを天にかざして立っていた。

「美夕ちゃん!」

 火が次々と消えていく、恵みの雨をもたらしたのは美夕だった。


 🌛・・・・・・・・・・・・・・・・・・・🌛

 ここまでお読み頂いてありがとうございます。

 最終章が近くなってきました。

 次回もよろしくお願いいたします。

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