第四章「卑劣な鬼の陰」
第二十一話「見世物小屋」
◇今回の登場人物◇
① 見世物小屋の主人
旅の見世物小屋の主人。いかがわしいものを見世物にしている。
② カロリーヌ
見世物小屋の主人に見世物の目玉にされている、可哀想な人魚。
☆・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆
賑やかな朝餉が終わり美夕と白月が、炊事場で食器を洗っていると、晴明が入ってきた。
水瓶のふたを開け、ひしゃくで水を一口飲んだ晴明は、美夕の方を振り返った。
「美夕、先ほどは怖い思いをさせて本当にすまなかった」
「お気遣いありがとうございます、晴明さま。私はもう、大丈夫です」
「良い子だ」
晴明は長い指で軽く美夕の髪をすいた。ふいに白月から声が掛かる。
「そうですわ、美夕ちゃん」
「なんですか? 白月さん」
「今日はご主人様のお休みですし、お二人で右京市の方へ行かれてはいかがですか?」
「そうだな、行くか!」
「はいっ、晴明様」
美夕は嬉しそうに返答を返した。
二人は、都人の生活を支える流通拠点。右京市へ出かける事にした。
美夕は、白月のみたてた鈴蘭の柄の着物と青いりぼんでおめかしをした。
様々な商品の店が立ち並ぶ、商人の街。
魚、青果、乾物、小間物等、ほとんどの品物はここでそろうだろう。
賑やかな街並みの中を晴明と美夕は、歩いていく。
ちょっとした大通りに出ると、大勢の人々が行きかい
美夕はおおがらな男性とぶつかり、晴明とはぐれそうになった。
「せいめ…」美夕は晴明の名を呼ぼうとした。その時、力強く誰かに手を引かれた。
次の瞬間、美夕は晴明の腕の中にいた。
「大丈夫か? 人通りの多い場所では、気を付けるのだぞ」
「はい」
恥ずかしくて顔が、真っ赤になった。
「仕方がないな、ほら」
晴明はさりげなく手をつないできた。
美夕の胸がこどうをうった、心が温かくなる。
美夕も、握り返すと晴明は目を細めた。
この街の町人には、晴明は顔見知りで
そのこともあって、二人は比較的気持ちよく店をみて回ることができた。
飴屋、水菓子屋、青果、魚、乾物など。様々な店があり中には女物の小間物屋もあった。
街の一角に旅の(見世物小屋)ののぼりばたがたっている。
「さあ、いらっしゃい、いらっしゃい」
見世物小屋の主が客の呼び込みをしている。
「晴明さま、ちょっと覗いてみましょう」
「そうだな」
晴明と美夕は、見世物小屋を見てみることになった。
カッパのミイラや鬼の手など晴明のような特殊な人間なら
すぐニセモノだと見抜いてしまうような、うさんくさいものばかりだったが。
美夕が他の客と一緒に歓声をあげて観ているので黙っていようと思った。
しばらくして店の目玉が運ばれてきた。
下半身は魚。るり色のうろこを持ち、上半身は人で金髪と青い瞳。美しい女性だ。
「ここにおります。化け物は、外つ
美しい声で唄を歌い船をも、難波させるといわれています。
何と、その肉を食せば不老不死になるといわれてもおります」
「おおーっ!」客から歓声があがった。
しかし、晴明と美夕は自分たちと人魚を重ね合わせてしまい
楽しんでみることができなかった。
「ほら、唄え!」
店主は棒切れで人魚をぶった。「キャア!」人魚は一声悲鳴をあげると
綺麗な声で唄を歌いだした。その美しくも物悲しい歌声に観客はうっとりし
晴明は眉をしかめ、美夕は目じりに涙をためた。
「晴明様…あの人魚さん。かわいそうです。
なんとかならないのでしょうか」美夕が悲しそうに言うと
「気に入らぬな」晴明は低く一声もらした。
見世物が終わって客たちが帰った後、店主に話しかけた。
「はい、なんでしょう」
店主は作り笑顔でにこにこしながら聞いてきた。
「突然だが、あの人魚を解放してもらいたい」
晴明は懐から
「あのねえー。お客さん。こんなはした金じゃ、
うちの人魚は売れないね!こっちはあれで商売してるんだ!それともなにかい?
そちらの化生の娘さんでも売ってくれりゃあ。少しは考えますけどね」
店主はガラッと表情が変わり、あくどい本性を現して美夕を品定めし始めた。
「晴明様っ!」震えながら晴明の袖をつかんだ。
背中越しに美夕をかばう。
「悪い冗談だ。店主よ…彼女は私のつれでな。売り物ではないのだ。あきらめられよ」
「けっ、冗談じゃやれねーよ」
今度は晴明に目を付けてきた。
「だんなも化生だな? 紫の目はそうは、いないからな。それになかなかの男前だ。オレにゃ負けるが。女の客が増えそうだ。どうだ、あんた。買われてみないかい?」
晴明の頬をなでた。うっとうしさに手を払う晴明。
晴明は店主のあくどさにヘドが出そうだった。(道満だったら殴っているな)
と思いながら「私にはこの美夕と大食らいの弟子を養って
いかなくてはならないのだ。売られるわけにはいかぬ」
店主は青すじを走らせると
「おう! 兄ちゃん。こっちがしたてに出てれば、付け上がりやがって!冷やかしはごめんだぜ!」晴明は煮えくり返る怒りをおさえていた。
「それでは、これではどうだ?」
腰に下げている布袋から大きな水晶玉を取り出した。
店主は、高価そうな水晶玉に目を奪われたが
「これは高価なものだが、これだけじゃ。人魚の代わりにはなんねえよ!」
「ただの水晶ではない。これは母の形見で耳に当てると鳥や獣の声が人間の声のように聞こえる代物だ。売っても十分な、釣りがくるほどの大金が、舞い込むぞ」
美夕は晴明の母の形見と聞いてハラハラしていた。
もし晴明の母の形見になにかあれば、自分がと思いながら鼓動がはやくなる。
「なに!? そんな力があるのか! 大金が舞い込むだと!確かめさせろ」
店主は耳を水晶に当てて耳をすましてみた。
すると、鳥かごに入っている小鳥の声が聴こえてきた。
それは店主の悪口で、非常に腹立たしかったが共に旅をしていなければ
知りえないことばかりだった。
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