武勇伝摘発業者の話し

ちびまるフォイ

へぇ~すごいんですねぇ!!!(うんざり

これでも前の仕事は武勇伝を取り締まる側だったんだぜ。


男ってのは武勇伝を語りたがる生き物だからね。


昔はワルでやんちゃしていたんだぜ。

今はそうでもないんだけどね。


そんな話をする奴がいたら取り締まりに向かうんだ。


なんでそんなことををするのかって?


ずいぶん当たり前なことを聞くなぁ。

武勇伝を聞かされて楽しいやつなんていないだろう。


昔はどこそこの学校で不良グループを仕切ってて、

他校とのケンカに明け暮れて、教師とやりあったりしてたんだぜ。


そんな話を語られてどう思うよ。


「あ、そっすか」


って感じだろう。

誰が話そうが内容がどう変わろうが反応はいつも同じさ。


俺ら武勇伝摘発業者はいつも通報を受けて

昼夜とわず武勇伝を話してるやつを取り締まったものさ。


あのときは本当にしんどかったなぁ。


家に帰っても武勇伝アラートですぐに現場へとんぼ返りだもん。

あのときは若かったから無理できたけど、今じゃそうはできないなぁ。



もちろんプライベートなんてないよ。

デート中だろうが、トイレでこもっていようが。


武勇伝アラートが鳴ったらかけつけなくちゃいけない。


同僚は何人もやめたし、新人が入ってもすぐに離職する。

少ない人数で必死に続けていても限界はやっぱり見えてきたわけ。


で、どうしたと思う?


俺は思ったわけ。

このまま続けるんじゃなく環境を変えなくちゃってね。


ほら、2年くらい前だろ?


武勇伝禁止法が作られたのって。


あれは何を隠そう俺が口火をきったんだ。



街で武勇伝反対の署名を受けて国会に提出したもんさ。

それだけじゃダメだから政治家と何度も会談をしてね。


最初こそ、自分が楽できる環境にしたくてはじめたものの

途中からはこの世界から武勇伝を語るオヤジを消したいって心から思ったものさ。



武勇伝禁止法が決まってからは本当に楽になったなぁ。


毎日ひっきりなしだった武勇伝アラートは鳴らないし。

途中何度か電池切れなんじゃないかと心配したものだよ。ははは。


飲み屋の女の子にカッコつけて武勇伝を語って逮捕されるんじゃリスク高すぎるからね。


ただひとつ誤算があったんだ。


武勇伝摘発業者がまさか解体されるとはねぇ。

いわばリストラさ。ひどいものだよ。


みんなを楽をするために動いた結果が、自分が職を失うんだからひどい話さ。


俺はほんと思ったね。

ほんとうにこの世界は利益しか考えないなって。


再就職? 当然さ。

もちろん必死に探したよ。


ただ武勇伝摘発業者っていう前職は世間的に風当たりが厳しくてね。


どこへいっても臭いものでも見るように扱うんだ。


武勇伝を監視する目の上のたんこぶが職を失い、

自分の目の前であたまを下げて仕事をくださいと言ってくるんだぜ。


そりゃ痛快だし、ざまあみろって感じだろう。


再就職先もなかなか見つからなくて辛かったよ。

俺じゃなかったら鬱になっていたかもね。



ただね、俺は一度ころんだからってタダじゃ起き上がらない。


ピンチはチャンスと思ったわけ。


武勇伝が禁止されているほど、やっぱり語ったときの快感はちがうと思ったんだ。


あんただって、お腹をすかせたときに食べるご飯は格別だろう?

それと同じものさ。


そこで始めたんだ。

繁華街の地下深くに会員制のバーを作ったんだよ。


客は身分をちゃんと証明できた人だけが入れる都会の隠れ家さ。


バーのコンセプトは「武勇伝バー」。

どうだい? 斬新だろう?



バーテンを含めて店員はすべてキレイな女を揃えたんだ。


そして、マニュアルを徹底的に叩き込んだ。


これでも元武勇伝摘発側だからね。

どんな武勇伝にどんなリアクションが求められるか。


そんなのは実家の間取りよりもわかっていたんだ。


で、それを女の子たちに叩き込んで接客させる。



開店したらバーは大繁盛!


もう、今までの苦労がふっとぶくらいの金が入ったよ。


男はみんな武勇伝に飢えていたんだね。

客足が絶えることなんてなかったよ。


なんなら借金してまでバーに通って武勇伝を語る人もいたからね。


きっと男なんてのは女に武勇伝を話すことで、

自分の中の活力をチャージしているのかと思ったよ。


俺はいわばオアシスの開拓者ってわけ。


これ結構いい表現じゃない?

書き残しておいてくれよ?



バーは大成功して、そっからはこれまでの青春を取り戻すような生活さ。


家はバカでかい豪邸にして使用人を何人も雇ったよ。


愛人に無人島を買って贈ったりしたっけね。

ブランドバッグを買い与えるなんてちゃちなことはしないよ。


有名人や芸人も武勇伝を語りたくてバーに来るもんだから、

俺にはそのツテもできたし、俺には頭があがらないんだろうね。


みんなが俺を中心に立ち回っていたよ。


街を歩けばみんな俺に会釈してくれるんだ。


この世界はもう俺を中心に回っているね。



法律を変えて、世界を変えて、人の憩いの場を提供する。


こんなことできるのは俺くらいなものさ。



どうだい? 俺って本当にすごいだろう?









「あ、そっすか」


「……もう思い残すことはありません。

 最後に武勇伝を聞いてもらえてよかったです」



2023年2月15日

武勇伝禁止法により死刑が執行された。

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