激闘!勇者アルタイル

天然ナガイ

激闘!勇者アルタイル

 

 必殺 星降る聖なる秘剣

「コズミック・セイバー・スラッーーシュ!!!」


「ギャアアアーー!」


 断末魔の叫びとともに、魔物たちは光のチリとなって目の前から消えた。

 

 俺は、聖剣スターライトソードをくるりと回し、背負った鞘に収めた。

 頭を揺するとサラサラの金髪が優雅になびいた。

「フッ、口ほどにもない」

 キラッと白い歯がこぼれる。


 自他共に認める王国一のイケメン剣士、勇者アルタイルこと、この俺にかなう相手などいない。

 これで魔王城にいる配下のモンスターはすべて片付けたはずだ。

 残すは邪悪な総統、魔王のみ。


「今ゆくぞ、待ってろ魔王」

 

 俺は、玉座の間を目指し、城の階段を駆け上がっていった。





 アルタイルは高さ三メートルはある重厚な扉を押し開けた。

 そこは豪華絢爛というのが相応しく、舞踏会でも開けそうな広い空間だった。

 赤い絨毯のうえを真っ直ぐ歩いた。

 フロアより数段高い位置に玉座の神輿みこしがある。そこに、でーんと腰掛けているのが宿命の敵だ。


 アルタイルは魔王と目があった。


 魔王は臆することなく、勇者の到着を待っていたようだ。


「勇者アルタイルよ。ここまで来たのは誉めてやろう」

 

 腹の底に響くようなダミ声だった。


 アルタイルは威勢よく返した。


「いざ、尋常に勝負! 覚悟しろ魔王!」


「フフフ、貴様の戦いはずっと水晶で見せてもらった」

 

 魔王は不敵に笑った。


「相手にとって不足はない」


 そういうと、魔王は立ち上がり肩のマントを外した。


「さあ来るがいい。今日が貴様の命日だ!」


 心臓はドラムのように激しく打ち鳴らされ、緊張と興奮にき立つ血潮ちしおが荒波のように躍動している。

 手に汗握る魔王との最終決戦。ついに戦いの火蓋ひぶたは切って落とされた。



 アルタイルは突進すると見せ、真上に跳躍した。


「とうっ!」


 背中のスターライトソードを抜くや、いきなり渾身の必殺技をはなった。


「コズミック・セイバー・スラッーーシュ!!!」


 見事機先を制したはずだった。

 しかしその攻撃は空振りに終わってしまう。魔王は想像のはるか上をいく、脱兎だっとのような素早さを備えていた。


「その技はすでに見切った。今度は余のターンだ」


 魔王は両腕を、十二時と六時の位置に配し、時計回りに腕を動かした。まがまがしいオーラが増幅していく。


 <<< ゴゴゴゴゴゴゴ >>>


 建物は揺れ、大気すら震えている。

 魔王のからだの中心に光の渦ができた。そこから魔王は、黒い鉄球を出現させた。鎖つきの鉄球である。


「このネメシスに触れたら最後、その部位は回復の余地なく朽ち果てる」


 そういって魔王は、暗黒鉄球を振り回しはじめた。


「貴様の命運も、もはやこれまで、覚悟せい」

 

 アルタイルは危険を察知し、いち早くさがって距離をとった。


 鉄球は羽がついたように宙を舞う。

 ブォーンと風切り音を残し、アルタイルの頭髪すれすれを通り過ぎていった。

 どうやらあれは物理攻撃だけではない。球には強力な魔力が込められていて、奴が言う通り、聞きしにまさる恐ろしい技のようだ。


 魔王は攻撃の手をゆるめない。


 矢継ぎ早にネメシスを向けてくる。触れることすらままならない以上、俊敏な動きでかわし続けるしかない。


「はっ」

 上体を反らし、くるっとバク転を決めた。


「とうっ」

 伸身の宙返りをしながら1回半ひねり鉄球をやり過ごした。


「やっ」

 手は使わず側転してかわした。


「えいっ」

 高くジャンプしトンボを切った。


 それはどれも華麗な体術である。

 アクロバティックな動きに、魔王の暗黒鉄球は後塵を拝すばかりだ。

 

 アルタイルは得意だった。人差し指をだし鼻の下をこすった。きっと魔王をからかうように、半ケツでも見せてやりたい気分だろう。


「ぬぬぬっ、こしゃくな! おのれ、これが貴様の実力か!」


「フッ、俺がアベンジャーズに出演したらCG無しで撮影が出来るぜ」


 しかし、その軽口が命取りになった。

 調子に乗ったばかりに着地に失敗し、アルタイルは、すっ転んでしまったのだ。


 泡を食って、すぐに体勢を立て直すが、そこにネメシスが迫る。


 バァーーーーン!


「うあっ!」


 つい、よけそこねてしまった。もろに顔面に食らってしまった。


無様ぶさまな。これではハンサムな顔も台無しだな。勇者アルタイル敗れたり」


 魔王は大きな口を開け、カッカッカッと高笑いしている。





 その機を見て、俺は柱の陰から飛び出した。

 ドタドタとやや鈍重な足取りだった。それでも魔王が足音に気付き、振り返ったときにはもう遅い。胸の急所にまんまと剣を突き刺してやった。魔王は勝ったと思い油断していたのだ。


「うぐっ、な、なんと……」


 魔王はゴホッと血を吐き、よろめきながら目を白黒させた。


「こ、これはいったいどういうことだ?! ──勇者アルタイルが、ふたりいる……?!」



「ハッハッハッ、残念だったな魔王。お前がやったのはスタントマンの方だ」

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