第27話 双子の神⑦
「それはどうか判りません。私の問いに正確には答えていただけませんでしたし、今お話ししたことは私の主観が入ってしまっているかと思います」
瞳が特別ということも考えられる。当然エ=ポウも特別だろう。ここは他の誰でもない、火野か浩太、若しくは早瀬がコンタクトを取ろうと試みてみないことには判らない。
「僕が聞いてみましょう」
浩太が提案する。浩太の身体には僅かだがツァトゥグアが混じっている。それをロイガーたちが感じ取っているとしたら、純然たる人間のそれと判断してくれないかも知れない。
「いや、俺か早瀬さんにお願いしようか」
火野にしても火の民であり大勢の火の民を炎として自分の中に取り込んでいて、到底普通の人間とは言えない存在になってしまっている。今ここに居る純粋な人怪訝は早瀬一人だった。
「君や岡本君は同じ理由で駄目だろう。ここは私に任せておきたまえ」
そもそも、そのために来ているのだ。他人に任せて帰るわけには行かない。
早瀬はさっき瞳がやった方法、というか静かに指を胸の前で組んで祈る、という方法で祈った。暫らく一行はその経緯を見守るしかなかった。
早瀬は両膝を付いた体制で身動きしない。目を瞑っているので瞬きもしない。全く身じろぎもしないまま、ただ時間だけが過ぎて行く。
「ちょっとおかしいですね。時間が掛かり過ぎている」
痺れを切らせて浩太が言う。確かに瞳の時よりもかなり時間が掛かっている。というか早瀬が全く動かない。
「早瀬さん、早瀬さん」
浩太が声を掛けながら早瀬の身体に触ってみる。心臓が動いていない。早瀬の身体はそのまま、真横に倒れてしまった。
「あっ」
本来底に居る5人以外の声がした。本山だった。
「早瀬課長、大丈夫ですか?」
本山が早瀬に駆け寄るって抱き上げる。やはり心臓も止まっており、息もしていない。
「お前たち、早瀬課長に何をした?」
「黙って付いてきていたんですね」
「そんなことは、どうでもいいだろう」
「あなたの、その行動が早瀬さんが今置かれている状況を招いたかも知れない、とは思いませんか?」
浩太の問いに本山は愕然とした。その可能性は十分ある。五人しか降りられないと言われていたのに六人目の自分が降りてしまったのだ、何か異常な事か起こっても不思議ではない。
「わっ、私は課長の命令で少し離れて付いて来いと言われていたんだ。何かあったとしても、その責任は私ではなく課長にある」
本山はどんな場合でも自己肯定をして責任を回避するタイプの人間らしい。
「そうですか。それで僕たち全員の命も危険に晒されていたとしても、責任が無いと?」
本山が原因だとは決まっていないのだが浩太はその論調を崩さなかった。早瀬の死に他の人間の責任が無いという風に纏めたかったのだ。特に瞳には責任を感じてもらう訳には行かない。火野も同意見なのか、一切口を挟もうとしない。
「いや、それは。私のことが原因だと決まった訳ではないだろう。それより課長はどうされたんだ?お前たちが何かしたのか?」
「早瀬さんは自ら進んでロイガーに話しかけられていたんです。自分の目的を果たすためにね。その途中で亡くなられた、ということ以外僕たちには何も判りません」
嘘は吐いていない。見たまま、聞いたままのことを正直に伝えただけだ。本山がそれを信じるかどうかは判らないが。
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