第24話 双子の神④

 緑色の不定形の物。それはその存在の極一部を辛うじて表現しているに過ぎない。緑色というのも大きく分類するのであれば、という事に過ぎない。一目でそれを緑色と表現する人類は少ないであろう。


 わずかに判別できるものは触手としか言いようのない器官だった。目的は判らないが、蠢いていることを見ると何かを探しているのかも知れない。


 皮膚(そう呼べるかどうかも判別できない)からは何かの分泌物が常時染み出している。その内容物は判らない。人類にとって有害なのか無害なのか。


 大きさは不定形なのでよくは判らない。全体的には2階建ての一軒家くらいだろうか。それも普通の建売のサイズだ。


「長老、これが双子の神なのですか」


 これ、という表現も不敬だろうが、そうとしか言いようがない。


「そうです、我らが神、ロイガー様です」


 そうだ。双子の神という通称だが、そこには一体しか見当たらない。もう一体、ツァールはどこか別の場所にいるのか。


「ツァールはどうされたのですか?」


「そして、ツァール様です」


 エ=ポウ以外の全員が「えっ?」という顔になった。どうみてもロイガー以外には何も存在は確認できない。


「どういう意味ですか?私たちにはロイガー以外は見えないのですが?」


 エ=ポウは、なぜそんな判り切ったことを聞くのか、という表情を見せたが、応えなかった。


「ロイガーさんと会話はできますか?」


 瞳が問う。瞳からしたらロイガーを見ただけではあまり意味が無い。


「ロイガー様があなたと会話を望まれたのであれば可能でしょう。今、お目覚めになられたことも、あなたたちを認識し興味を持たれたからかも知れません」


「エ=ポウ様はロイガーさんと意思の疎通はできておられるのですか?」


「私がロイガー様のお言葉を耳でお聞きしたことは一度もありません。見ての通り口などの発声器官をお持ちではありませんので、私たちの耳に聞こえるようなお言葉は発せられないのです」


「それではどのような方法で?」


「ロイガー様のご意思は直接頭の中に伝わってまいります。それを言葉にしたり書き残すことが私の役目なのです。ロイガー様を崇拝している我が一族であってもロイガー様のご意思を受取れる者は私以外にはおりません。それもあって長い間私は長老をさせていただいているのです。私が長命なのもロイガー様のご意思が関わっていると私は理解しております」


「では私がロイガーさんと会話することは無理ではないのですか?」


「ですから、先ほど言いました通り、ロイガー様が望まれれば可能、ということです」


 そう聞くと瞳はロイガーの方を向いて祈るような仕草を見せた。


 瞳以外の者は固唾を飲んで身じろぎをせずに見守っている。瞳も全く動かない。


 そこへ、いつの間にかロイガーの周囲を一回りしていた浩太が戻って来た。瞳の姿をみて、すぐに状況を把握する。


 浩太はトウチョ=トウチョ人以外の今いる者たちのなかで唯一旧支配者と言葉を交わした経験があり、本人も一度ツァトゥグアと融合した経験がある。


 火野でさえクトゥグアの力の一部を利用できるにもかかわらずクトゥグアとコンタクトに成功したことは無い。


 早瀬は瞳がロイガーと意思の疎通を成功させたとして、それが自分にも可能かどうか、駄目ならば瞳を通じてロイガーとコンタクトできないかと思案を巡らせている。


 瞳の祈るような姿は三十分経っても動かなかった。

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