第11話 アラオザル

 ふわぁっと浮く。すぅーっと滑るように湖面の上数メートルを移動する。岡本浩太を抱えているのでスピードは遅い。


「飛ぶってこんな感じなんですね。」


 浩太が能天気な感想を言う。人並み外れた反射神経を持っていても飛べるわけではないのだ。


 湖の中央の島には数分で着いた。広さは結構大きい。都市と言うほどではないが小さな町の広さはありそうだ。ただ高い上空から見たわけではない。


 反対側に有るのか、港のような場所は見当たらなかったので普通に砂浜に降り立った。


「なんだかジャングルみたいですね。」


 少しの砂浜を過ぎると鬱蒼とした森があった。人がかき分けて入らなければ進めない。けもの道も無かった。


「これは彼女たちを連れて来るにはちょっと問題ですね。簡単には進めそうにない。もっと普通に歩ける道があるといいのですが。」


「そうだな。少し高い所から見てみるか。」


 そう言うと火野は空中に浮いた。そのまま高度を取る。が、直ぐに居りてきた。


「駄目だ、上空は何かしらの結界が張られていて木々より高く飛べない。全体を見渡せるところまでは到底上がれないな。」


「そうですか。では地道に歩くしかなさそうですね。湖沿いに周囲を回った方が早いかも知れません。」


 二人は一旦砂浜まで戻って時計回りに歩いてみることにした。森の中は到底真っ直ぐ進めないのだ。かと言って火野が森を焼き払う訳にもいかない。


 砂浜だったところは直ぐに岩場になってしまった。なかなか歩きにくい。船などが寄り付ける場所はなかった。


 1時間ほど歩いた時、少し開けた場所に出た。船着き場のようなものは無かったが、扇状に砂浜が広がっていた。その奥には続く道が見える。ここから奥へと入れるように見える。


 浩太は今一度問うた。


「どうやらここからは入れそうですが、このまま二人で入りますか?」


「無論。」


「でも、ここでトウチョ=トウチョ人に会っても話せないんじゃないですか?」


 一番の問題はそこだった。火野も瞳も、勿論亮太もタイ語をあまり話せなかった。少しは勉強したのだが自由に操るとは言い難い。トウチョ=トウチョ人がタイ語を流暢に話せるとも思えなかったが、それほど遠い言語ではないとも思っていた。いずれにしても火野たちだけでは意思の疎通に困る可能性がある。


「それはそうなんだが。では、どうするんだ?」


「アラオザルらしき場所があることは確認できましたし、少し入ってみて安全かどうかを確認したうえで皆で来る、というところですかね。まあ、安全は僕と火野さんで保証するしかないですが。」


「少しくらいは話をしたうえで彼女たちを連れてきたいんだがな。確かに意思の疎通が出来ないとどうしようもない。判った、一旦戻るとしよう。」


 火野も納得した。トウチョ=トウチョ人との意思疎通は、元々可能かどうかは不明なのだ。


 二人は車を停めた場所まで戻って来た。乗り込んで元来た道を帰る。


「どう思う?」


「どうとは?」


「トウチョ=トウチョ人があの場所に居るかどうか、ということだ。」


「居るんでしょうね。」


「だが全く警戒されていなかった。」


 確かに道はあったが誰も見張ってはいなかった。侵入者は入りたい放題だ。隠していない、若しくは隠れていない、ということだろうか。


 それにしては現地周辺のトウチョ=トウチョ人の情報が少なすぎる。この場所を見つけるのが難しいことは理解できるが、実際に来てしまえば直ぐに見つかってしまうだろう。


「中に入れば判りますよ。」


 浩太は陽気に応えるのだった。

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