第6話 僻地への誘い⑥

「どうしよう。」


 火野は二人に相談することにした。ここまで三人でやって来たのた。一人増えることには他の二人の同意が必要だと思った。


「僕は別にいいけど。」


 亮太はいつもこうだ。最初から考えることを放棄しているかのように即答する。ただ単純に判断が早い、という可能性もあるが火野にはその判断が付いていなかった。


「私は、そうね、別に反対する理由はないわ。」


 瞳は賛成ではないが反対もしない、というスタンスだ。火野に決めさせようというのだ。


「わかった。とりあえず彼が合流するまでは調査を続けて、どうしても糸口さえ見つからなかった時は彼も一緒に参加してもらおう。」


 火野はそう決断した。結局見つからない可能性も高い。だが岡本浩太が合流してもその可能性はある。火野としては少しでも高い方を選択しただけだった。というか、そう自分に言い聞かせていた。


「わかった、直ぐに浩太を向かわせる。数日で合流できると思うから少しだけ待っていてくれたまえ。彼には出来る限りの前情報も持たせることにする。それとセラエノに今、マーク=シュルズペリィが行っているから彼にも連絡を取ってみよう。」


 綾野に連絡を取ると直ぐにそんな話になった。セラエノの情報は有難い。多分それだけで十分なのかも知れない。


 3日後、岡本浩太がタウンジーまでやって来た。それまで火野たちの捜索は全く進んでいなかった。


「お久しぶりです、火野さん。なんかワイルドになりましたね。」


 火野の外見は元々は少しひ弱な感じが見れたが、今は何処から見ても肉体派だった。一人称も僕から俺になっている。


「久しぶりだね。今回は遠い所まで来てもらって済まない。宜しく頼む。」


「それは全然いいんですが、実は綾野先生も大した情報は持っていないそうなんです。セラエノ待ちだとおっしゃっていました。」


 綾野に嵌められてしまった。いかにして浩太を同行させるかを考えてのことだろう。浩太本人はそんなことは全く考えてはないだろうが、火野たちの動向を見張らせる目的なのは容易に想像できる。


(なかなか、あのおっさん、狸だな。)


そう思っていても口には出せない。やはり綾野を頼るのは問題があるか。まあ、向こうとしては仕方ないことだとは火野でも思うが。


「とりあえずマークさんからの情報が来るまで、僕もここでお手伝いします。瞳さんも亮太君もよろしく。」


 浩太は普通の好青年だった。ツァトゥグアに一旦吸収された結果、通常の人間とはかけ離れた身体能力を得てはいたが見た目では判らない。火野のように筋肉で覆われている訳ではない。尋常ならざる動体視力と膂力だった。今の所それを発揮する機会には恵まれていないが。


「それと、もう一人。」


 少し離れて後ろに居た人影があった。風間真知子だ。


「火野さん、お久しぶりです。」


「風間君、どうして君が。」


 火野と風間は一時期星の智慧派の一員としてナイ神父の下で活動していた。火野は火の民、真知子は風の民。二人とも眷属同士だったが、そのアプローチは少し違っていた。


「すいません、勝手に付いてきてしまって。」


「勝手にとは随分な言いぐさね。今は浩太と一緒に行動しているんです。」


「そうだったのか。それは、まあ、いいことなんだろうな。」


 火野は何とも言えない顔をしていた。特に何かの感情を真知子に向けていたわけではなかったが、何か元カノとその彼氏に出会ってしまった、みたいな感じがしていた。


「私も協力しますから、瞳さんも亮太さんもよろしくね。」


 一行は3人から5人になった。

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