第4話 僻地への誘い④
「何々、何の話?」
コーヒーを入れて亮太が戻って来た。話し込んでいる二人に割って入りたいのだ。
「なんでもない。」
「そう、なんでもないわ。」
「何だよ、二人して。僕に内緒の話?」
亮太は少し不貞腐れ気味だったが二人は無視した。いつものことだからだ。
「まあいっか。でも本当にこれからどうするの?いつまでもアラオザルを探し続ける訳にも行かないんじゃない?」
そうだ。目的はアラオザル、というかトウチョ=トウチョ人の長に会うことだった。タウンジー周辺のシャン州をグーグルアースやマップで隈なく探してみたが該当しそうな湖が無い。そもそも、その伝承が間違っているのだろうか。
「綾野先生に相談してみたら?」
瞳の提案は何度目だろうか。将兵は出来得る限り綾野の世話にはならなでおこうと思っていた。それもやはり瞳にフラットでいて欲しいということだった。しかし今回の旅の手配は各大学への連絡など全て綾野がやったのた。実際には綾野の部下の結城良彦という元新聞記者がやったことなのだが。
更に金銭的にも綾野の世話になってしまっている。瞳や亮太には言ってはいないが、火野一人だけならなんとでもなるが二人分の旅費の捻出がかなりの負担になっていたのだ。
綾野たちは元々の資金源であったいくつかの出資者(その内の一人を綾野は女王陛下と呼んでいた)が亡くなったこともあり、新しい出資者を探していたのだが日本で知り合った結城の甥が出資者として名乗りを上げてくれたと喜んでいた。
結城良彦の甥、高弥は友人の遠藤修平の潤沢な資金を使って相当な利益を出している、とのことだった。そして綾野たちの活動に理解を示してくれたのだそうだ。ただ、遠藤修平は火野に少し恩を感じてくれているはずだった。彼の願いを叶えてあげたのだ。ナイ神父の手配で桂田利明に動いてもらっただけなので火野が直接感謝されることはなかったが。
ただ火野も手詰まりなのを感じていたのは確かだ。
「ところで将兵さん、綾野先生ってなんで先生なの?」
瞳はあの場所で一度会ったきりだったので当然綾野の素性何て知らない。未だ名前すら決まらない綾野を中心として組織のことも当然知らない。組織と言っても綾野祐介の他には結城良彦と岡本浩太の三人が中心で後はサポートメンバーだけで構成されている小さな組織だ。一応今は火野もその中にカウントされている。
元々火野はナイ神父の元で星の智慧派に所属して綾野とは敵対関係のようになっていたのだが、今は「敵対はしていない」という程度の関係だった。
綾野との約束で世界各地の火の民を燃やして自らの中に取り込んでいたのを止めた。最終的にクトゥグアの封印を解くことに利することだと思ってのことだったが、火野としては「始まりの少女」り件を優先したのだ。
「綾野先生は元は伝承学という学問の琵琶湖大学の講師だったんだよ。だから本当に先生だったんだ。」
「へぇそうなんだ。講師を辞めてあんなことしてるなんて変わってる人ね。でも将兵さんの同じか。」
「俺は警備会社につとめていた普通のサラリーマンだったさ。ただ出自が少し普通じゃなかっただけだ。」
「そう言えば火の民ってよく判らないわ。風の民もあるって言ってたけど他にもあるの?」
「俺が知っている限り、その二つだけだ。他には眷属と呼ばれるものたちは大勢いるがな。」
「眷属ね。で私たちは、その全てと違う、ってことでしょ。」
「そうだな、お前たち二人は特別だ。ただ自分が特別だという事は意識しないで欲しい、というのが俺の願いだ。」
「判ってるって、何度も何度も言われているんだから。私も亮太も馬鹿じゃないんだから。」
「そうだ、僕は馬鹿じゃない。」
変なところにだけ亮太は割り込んでくるのだ。
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