手を抜いている

エリー.ファー

手を抜いている

 このままずっと、この場所で生きていくのですか。


 考えてはならない。

 しかし、失ってもならない。


 煩わしい悩みから解放されなければ人間にはなれない。


 扉の輝きを知る者のために。


 完全ではないが、不完全ではない。


 百ではないので、愛ではない。


 敗戦処理の森。


 凍てつくための十七歩。


 浮つく心の三十七歩。


 向日葵ではない十七歩。


 フィギュアの形の十七歩。


 純白式の十七歩。


 発光する十七歩。


 苛立ち混じりの十七歩。


 猫ではない。


 猫を愛すための夜。


 白く染上げた夜に飛ぶ烏たちのために。


 時間を積み上げて文字にする朝。


 保存をする前に更新しなければならない。


 物語は乾燥している。


 根源には何があるというのか。


 レモンティーとグラスには世界がない。


 オレンジ色の青春に赤く熱した鉄槌を。


 黒く渦巻く球体。


 白いパズル。


 叩き上げ。


 サイダーとソーダとラムネの違いについて語る六十分。


 言葉は壁に近いものである。


 ダブルクリック。トリプルクリック。ワンクリック。


 美しき悪口を。


 悲しみ。


 慈しみ。


 侮蔑。


 屈辱。


 漆黒の扉は君の笑顔によく似ている。


 白く暮れる。


 発光体夜話。


 完全結成体。




「僕を殺してくれないか」

「殺せませんよ」

「何故」

「あなたが大好きだからです」

「大好きなら、殺してくれ」

「嫌です」




「硝子の中に閉じ込めてある孤独」

「詩的な言葉ですね」

「浮ついているのさ」

「余りにも詩的」

「いやいや、素敵」




「硝子を下さい。骸骨はいりません」

「硝子はありません。骸骨だけがあります」

「では、何もいりません」

「骸骨なら無料でもかまいませんよ」

「では、頂きます」




「偏見から生まれる物語に正解がありますか」

「ありません」

「ないと分かっていて、その生き方を選ぶのですか」




「煙草を愛しています」

「あなたが、愛しているのですか」

「いいえ、違います」

「これが、会話の本質なのですね」




「白い社会に私を置いて下さい」

「さようなら」

「時間が必要です」

「さようなら」

「考えが甘いのです」

「さようなら」

「忘れさせてくれ」

「さようなら」

「思考とは至高なのですか」

「さようなら」




「音をくれませんか」

「あげません」

「音をくれませんか」

「ここに、あなたのために用意された音はありません」

「音をくれませんか」

「ここに、音はありません」

「音をくれませんか」

「あったら、私が欲しいくらいです」

「音をくれませんか」

「ディスクですか、データですか」

「音をくれませんか」

「カセットテープならありませんよ」

「音をくれませんか」

「風しかありません」

「音をくれませんか」

「このあたりでは禁句ですよ。気を付けてください」

「音をくれませんか」

「紅の音ならあります」

「音をくれませんか」

「発光するために必要なのですね」

「音をくれませんか」

「隣町の肉屋に行ってみてください」

「音をくれませんか」

「影を踏んでから来てください」

「音をくれませんか」

「お金が足りないようです」

「音をくれませんか」

「足音ですか、それとも雨音ですか」

「音をくれませんか」

「荷物がいっぱいのようです」

「音をくれませんか」

「頭、大丈夫ですか」

「音をくれませんか」

「音はあげません。林檎ならいいですよ」

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