手を抜く

エリー.ファー

手を抜く

「このままずっと、ここにいる。君と僕ではない、誰かのためのラブソング。嘘をついてしまった。直ぐに君を思い出すよ。友達の手紙を捨てられずにいるよ。どうしても、君を失わずにいたいよ。本当の言葉を重ねられずにいるよ。重要な言葉こそ、口に出せずにいるよ。海底に佇む、思い出を忘れるよ。二人だけじゃいられない、夜が欲しいよ。わざとらしい仕草が、僕を変えてくれるよ。君にはない真実が、今を変えてくれるよ。嘘つきのくせに、今を知ろうとしているよ。投げかけた言葉が、形になるよ。青く輝く、白い太陽が見えなくなる前に。奇数と偶数によって描かれる物語があるよ。喜びも悲しも数値に変えてくれるよ。水浸しの思考が、消化不良になって襲い掛かるよ。このままずっと、僕は君を思い出せないよ。思い出すための努力を忘れてしまうよ。思っても、思っても、君がいないよ。どこにもいないよ。忘れたくないよ。太陽と月の数を教えてほしいよ。テレビから聞こえる、砂嵐の中だよ。花火ではなくて。夏ではなくて。奇跡なんてものは、僕にはもったいないよ。ふざけすぎた時間が、僕と君の間を、遠ざけてしまっても埋めるために生きるよ。凍えた時間も、苦しんだ時間も、投げ出した時間も、埋められた時間も。あなたと僕で作った世界があるよ。黒く淀んだ道が、今を照らし出すよ。ファイルの中に眠る世界を信じたいよ。言葉にできない、思考の先があるよ。このままずっと、世界を変えずに生きるよ。夢にまで見た世界が、どこにもないよ。愛していた時間が、僕を責めに来るよ。嘘つきのくせに、何も知らずにいるよ。君と一緒に行ったラーメン屋を思い出すよ。不思議と味の話をしなかったことを思い出すよ。思い出の手紙を捨ててしまったような、気分になって泣いてしまったよ。削除したメールを思い出してしまうよ。このままずっと僕は一人でいるよ。白い世界がこれからも続いていくよ。会いたい気持ちは忘れてしまったよ。会いたいと願い続けてしまって、心は麻痺して、今も投げ出したくなってしまうよ。哀れだと思われても、君と一緒にいたいよ。どんなにお願いしても、君は戻って来ないよ。神様に祈っても、君は帰って来ないよ。病気とか、運命とか、僕には分からないよ。分かりたくないよ。分からせないで欲しいよ。白いシャツから、剥がれていく思考だよ。嘘つきのために、夢を見るよ。健全からほど遠い関係を望んでいるよ。ネクタイピンの音色を忘れずにいたいよ。大きめのオムライスを初めて作ったよ。お味噌汁の味を忘れられずにいるよ。黒々とした思いが形を保っているよ。ふざけすぎてもいいから、僕を欲して欲しいよ。終わりなんてものは、どこにもないよ。探したところで、無意味でしかないよ。悠久なんて言葉を、僕は知らないよ。夏目漱石の本なんて、読んだこともないよ。君に噛まれた時間を思い出しているよ。紳士的な思考を捨てきれずにいるよ。数値だけでは表現できないものがあるよ。浮ついた気持ちこそ、僕を僕たらしめるよ。空虚な思い出だって、バカにされても、空虚な時間が、僕を満たしたんだよ。お願いの回数を憶えていたいよ。華のない関係でも、愛していたんだよ。伝わらないかもしれないけど。愛していたんだよ。本当なんだよ。心から、君のことを愛していたんだよ」

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