風が吹く日の銀杏

榎木扇海

第1話

 小さな銀杏の葉が暖かい日の光を一身に受け、その木漏れ日が凌駕りょうがを照らしていた。

 黒板の上にある古い時計はたった今七時を回ったところだ。こんな早い時間に登校しているのは間違いなく俺と凌駕くらいだろう。

 俺は窓際の、柔らかな風が吹き込む凌駕の席に座り、凌駕はその前の席に椅子の背を前にして座っていた。頬杖をつき、俺の手元をじっと見ている。彼のうっとりとした前髪が目元から鼻先にかけて影を落としていた。

 凌駕の目線の先、すこしシワの入った紙に、いつもよりずっと小さな字で名前を書く。余白の多いこの紙には、昨夜母親が名前と印を押してくれた。

 まさか、入部して一年で退部届を書くことになるとは思わなかった。


「なぁ、知希ともき、ほんとに部活やめんの?」

凌駕はじっと俺の書く届を見ながら呟いた。

「・・・どうしようもないだろ」

二か月ほど前、ながらスマホのトラックにはねられ、俺の体は激しいスポーツを受け付けなくなった。もちろん、事故からずっと休部していたバスケ部も辞めざるをえなくなった。

 凌駕は細長い角ばった指で届け出の縁をなぞり、「じゃあ俺もやめようかな」なんてひょんと言った。

「は?」

手を止めて彼の目を見ると、首を傾げて眉をひそめてきた。

「だって、トモがいないんじゃ、あんなとこにいたって意味ないもん」

外では、一番大きな老銀杏がざぁっと震えた。

「意味ないたって・・・お前がいなきゃ、あの部はもう成り立たねぇぞ?」

そもそもここのバスケ部は廃部寸前だった。なんとか今まで三年の先輩が支えていたようなもので、その先輩らが卒業した今、実力的にも続けるには凌駕の存在が必要になる。

 彼は頬杖をついたまま横目でちらりと俺を見た。

「エースはトモだろ?」

「これからはお前になるよ。そもそもお前のが俺よりずっと上手いんだ」

もとから、まったくレベルが違うってほどに。

 それを聞くと凌駕は不満そうに目を伏せ、顔を背けた。

「・・・なんにせよ、トモと一緒じゃなきゃ、やだ」

拗ねたような、怒ったような声音で言う。ため息混じりに呟いた。

「・・・ガキじゃねぇんだから」

額に手を当て、ちらっと彼を見る。彼はむっとむくれて、ムキになって返してきた。

「俺は!ただ――」

「めんどくせぇんだろ。先輩が引退したらお前が部長だもんな。ったく」

「ちがう!」

だんっと机を叩く。昔は怒りっぽかったが、ここ最近はクールを演出していたのか、久しぶりに声を荒らげたのを聞いた。

「じゃあなんだよ。そもそもリョウは自分でものを決めるのだって少ないだろ?」

ペンを置き、一本ずつ指を折った。

「係とか委員だろ?遊びに行くとこ、購買のパン、クラス掃除の時だって…」

数えながら実感する。よくよく考えてみれば、俺らずっと一緒にいるな。

「・・・なぁ、部活って」

「知希がバスケ行くって言ったから」

彼はひょんと答え、胸元にある椅子の背に両手を置いて笑った。

「てっきりサッカーかと思って、入部届書いちゃってたんだ」

おもわず前のめりになったせいで、くしゃっと紙にいっそうのシワが寄る。

「ちょ、ちょっと待て!まさか・・・中学ん時に頼んだから・・・?」

中学生当時、小学校を上がってすぐの俺は初心者の身で強豪だったサッカーに入る勇気がどうにも出ず、半ば強制的に凌駕を巻き込んだのだ。・・・結局、目を覆うほどの勉強嫌いを補う凄まじい運動能力により、凌駕は一躍レギュラー、そしてエースになった。

 俺があんまりにも動揺したからか、凌駕はぶはっと吹き出して、楽しそうに目を細めた。

「ちげえちげぇ!知希がいるとこに入りたかったんだよ」

「なんで?お前、俺とやるより先輩達とやったほうが楽しいだろ?」

彼はきょとんと目をまあるくさせ、首を傾げた。サラサラの髪が吹き込む風に揺れる。

「トモのがよっぽど楽しいけど」

「う~ん?でも実力が圧倒的すぎるじゃん」

スポーツに全振りした凌駕に、要領がなにかと悪い俺が優れるスポーツなんてなかった。

「そんなの関係なくね?」

至極当たり前というふうに言う凌駕を見て、どうにも伝わらないもどかしさを感じた。

「――っなんだかなぁ、もういいわ。ところで・・・」

話題を探そうと回想したとき、ふと一年の夏ごろの凌駕との記憶が頭に流れた。

 主に、彼から受けた質問について。

「・・・なぁ、リョウ?」

「ん?」

「・・・お前、文理の時、俺にどっちにするか聞いたよな?」

「うん?」

うつむいていた顔をあげる。いつもと同じ飄々とした凌駕の顔があった。

「あの時、「じゃあ俺も」って言わなかった?」

「うん」

「うんじゃねぇー!」

バッと立ち上がった。凌駕は驚いた様子で俺を見上げた。

「ダメだろ!?文理とか進路は自分で決めなきゃ!」

すると彼はくしゃっと笑い、「クソ真面目かよー」とからかうように手をぱたぱた上下させた。

「そもそも、お前が行くっつぅからココ来たんだぜ?それでトモと離れてどーする」

「え」

まさかの大前提から俺任せ。

「はぁぁああああ!?進学まで俺に合わせたの!?それでめんどくさがりじゃないんだったらなんだよ!優柔不断なのか?」

頭を抱えながら腰を下ろす。それを見ながら凌駕は再度肘をつき、にまっと笑った。

「何が優柔不断だよ。俺はずっと前から決めてたっつーの」

あまりにも自信満々に、おかしいことを言う。新手の言い訳かな?

「どこがだよ。俺の聞いたじゃんか」

むくれて言うと、彼はふわぁと笑って目を閉じた。

 また風が吹く。葉擦れ音が緩やかに耳を癒した。誰もいな教室で、どうにもこの男は様になっていた。

「・・・ずっと、決めてたの」

楽しそうに細められた目の中で笑う真っ黒な瞳が、朝陽を反射していた。

「俺は、おまえについていくんだって」

ふと頭の中に幼い凌駕の泣き顔が流れ、懐かしいような寂しいような、変な気分になった。

 何言ってんの、と呟いて、手元に視線を落とした。

 届の【退部理由】に、反対側から雑な字で「春が来たから」と落書きされていた。

 まぁそれでもいいか、なんて笑うと、凌駕がおんなじ顔で笑っていた。


「さ、退部届書けたし、ちゃっちゃと出しに行こうぜ」

凌駕ががたりと席を立ち、俺も続いて席を立った。

 変に心臓が波打っていた。どうにも、一度決めたことを取り消す瞬間というのは怖ろしく、慣れないままだ。

 一階の職員室に向かって降りる階段を、一段ずつ踏みしめながら下った。先生に向ける言葉を口の中で吟味して、苦しいまま飲み込んでいた。

「大丈夫だよ」

そんな俺を見かねたのか、凌駕が背中を叩いて顔を覗き込んだ。

 何の根拠もないその言葉が、俺を日常に戻して、なんだか可笑しかった。


 職員室の扉を叩こうと拳を持ち上げたタイミングで、がらりと引き戸が開いた。上背があり、とても筋肉質な体育教師が顔をのぞかせた。

「あ、炉掛ろかけ先生・・・」

「なんだ、丸江まるえ、怪我の調子はどうだ」

彼は四角い顔を柔らかく緩め、ことさら声色を優しくして聞いてきた。

「あ・・・実は、やっぱ、もう無理そうで・・・」

退部届をおずおずと出しながら言った途端、パッと目が見開かれ、口角が無理やり上げられたのがわかった。

「そうか、丸江もよく頑張ったな」

退部届を受け取ったのとは違うほうの硬い手が頭をぽんぽんとなでた。ホントかウソかもわからない優しさが、どうにもやるせなかった。

 ぎゅっと拳を握りしめた俺の背中を、ドッと何かが圧した。

「先生ぇ、俺も辞めます」

間の抜けた声が、頭の上に顎を乗せた。

「だから退部届ください。親の印もらって、明日出します」

「「は?」」

まさか本気でそんなことを言うと思っていなかった俺と、まだ事態が飲み込めていない先生の声が重なった。ふたり、つまり四つの目が一気に凌駕を見た。

「俺、こいつとしか部活やる気になれねぇんで」

炉掛先生の体が震えたのがわかった。慌てて彼のほうを見ると、怒りで歪んだ顔があった。

「・・・丸江はまだ分かるが、お前はどういうつもりなんだ?」

説教モードに入っていることが目に見えてわかった。この先生はこれになると、言葉をねっちょり吐き出すから嫌いだった。

「部活は遊びじゃないんだぞ。ただのボール遊びだと思われたら困る。俺はそういうつもりでお前を指導してきたんじゃないし、そもそもお前をそれだけの実力にしたのは仲間と俺の指導があってだろう。少々天狗になっているんじゃないか。無念の中部活を去ることになる丸江の前でそれはないだろう。丸江はお前の言い訳に居るんじゃないし、仲がいいからって善悪の区別もつかないんじゃこれから上手くやっていけないぞ。なぁ、なんとか言ったらどうだ。突発な考えでものを言うから、そうやって何も言えずに詰まるんだ」

凌駕は黙って先生を見上げた。とても怯えてるようには見えなかったが、かといって反抗的でもなかった。

「・・・突発的かもしれないけど、俺はこれでいいんです」

すっと体を離し、深く頭を下げた。さらさらな黒髪が重力のままに流れて、床の影が濃くなった。ぴしりと曲がったその姿におもわず唖然とする。

「辞めさせてください。お願いします」

凌駕の放った攻撃は、すさまじい効果を生んだ。

 移動中の先生、教室へと向かう生徒、この場にいる全員が彼のほうを見た。彼の声はそれほど大きいわけではなかった。ただ、まっすぐな声が、静かな廊下にはよく通った。

 いくら説教中とはいえど、周りはよく見えていた先生はおもわず身を引き、黙って凌駕に退部届の用紙を渡した。

「よく考えてから書きなさい」

早口にそう言うと、どこかに行こうとしていたはずだろうに、職員室内に戻ってぴしゃりと扉をしめた。

 退部届をじっと見つめていた凌駕に声をかける。彼はくるりと首をひねって俺を見た。

 随分と、憎たらしい笑みだった。


 教室に戻ると、ちらほらとクラスメートが登校してきていた。

 俺たちはそそくさと窓際の凌駕の席に向かい、今度は俺が机の隣に立った。

 どかっと椅子に座った凌駕は何の気もなしに届を机に置き、その上に肘を乗せた。

「さっきの炉掛、めっちゃキョドってたな!」

「おいおい、俺も焦ったわ。ぅえ!?お前だれよ!?ってなったつぅの」

凌駕が軽快に笑う。それにつられて俺も笑った。

 おかげで、なんだか暗かった気持ちがちょっとずつ溶けていく気がした。


「・・・なーぁ、リョウ?」

だんだんと騒がしくなってきた教室で、机に彫られた穴をいじりながら凌駕に聞いた。凌駕は頬杖をついて窓の外を眺めていた。

「んー?」

風に煽られるようにこちらを向く。花の香りがふわりと流れた。

「なんで、俺についてくることにしたの?」

あ、さっきの話?と凌駕は顔を緩め、中指でこめかみを叩いて言った。


「うーんとねぇ」


「好きだから?」


柔らかい風に揺られ、髪がなびいた。黒髪からのぞく、あたたかな光に照らされた笑顔がきらりと輝いた。

 なまじ顔がいいせいで、危うく新しい道を拓くところだった。

「・・・いやいやいや、そうじゃなくて――」

俺の声を遮るようにチャイムが鳴った。

「1限数学か。先生だるいから、はやめに準備しとけよ」

にまりと笑う凌駕が、なんだか憎らしかった。

 自席に戻り、ポケットから携帯を取り出すと、通知が来ていることに気づいた。彼女からのものだった。

そこには普段絵文字を多用する彼女らしからぬそっけない一文。

『昼休み、五階上階段の踊り場に来て』


 昼休み、凌駕からの昼食の誘いを断って、彼女が指定した場所へ向かった。

 うちの学校は屋上が閉鎖されており、そこへ行くための階段は第一校舎の北階段しかない。そもそも使われることが少ない教室しかない五階から伸びる階段なのでその踊り場は電気さえなく、いつもの喧噪も遠ざかるためたびたび告白に使われたりしている。俺もそこで告白されたのだ。

 うすぐらい踊り場に立つと、あの時を思い出す。去年の夏頃、じめじめとしたこの空間で一体どれほど待たされたんだっけ。

「・・・ごめん、待った?」

五階から彼女の円華まどかがのぼってきた。

「いや、五分くらいだし告られたときに比べたら全然待てるね!」

茶化して言うと、彼女は不機嫌そうに鼻を鳴らした。その様子におもわず口を噤む。

「・・・知希くん、部活辞めたって聞いた。それマジ?」

元々しばらく行けてなかったし大方予想はついていたのだろうが、思ったよりも速い情報伝達で驚く。

「うん、まあ」

「なんで?」

「え?円華も知ってるだろ?俺、事故でさ――」

「そんなこと聞いてないっ!」

静かな階段に円華の声が響いた。耳をつんざくような声に驚いて仰け反る。

「・・・なんで?・・っ私、バスケしてる知希くんが好きって言ったじゃん!」

「そんなこと言ったって、仕方ないだろ」

困惑しつつ肩に触れようとすると、ぱんっと払われた。彼女のつりあがった大きな目からは涙がこぼれ落ち、桃色でキラキラした唇が怒りで噛み締められていた。綺麗に手入れされた髪が少し乱れている。

「バスケ部のエースだったから、付き合ってあげたのに!」

キン、と耳に甲高い声が響いた。

「なんで!?事故なんかで足が使えなくなるなんて!エースどころか、バスケ部でもないアンタになんか、なんの価値もないじゃない!」

「・・・足は、歩けるだけでも奇跡だって――」

「うるさいうるさいうるさい!これ以上私を傷つけないで!」

彼女はがくりと崩れ落ち、わぁわぁ声をあげて泣き始めた。

「こんなことなら、凌駕くんにしとくんだった!知希くんより身長高いし、運動神経いいし!」

俺の中で、何か大事なものが崩れていく音がした。

 ふらっと1,2歩後ずさり、額を押さえて笑った。こんなやつに一喜一憂していた俺が馬鹿みたいだ。

「はっ・・・残念だが、凌駕は俺と違って見る目があるんだ」

彼女が顔をあげる。絶望と憤怒をごちゃまぜにしたような顔だった。

「可哀想にな。相手にもされねぇよ」

パンっと、頬が弾かれた。瞬間的な痛みが目にまで届いた。頬に触れると、ネイルがひっかかったのか血がにじんでいた。

 悲鳴とも怒声ともつかない叫び声をあげながら彼女が階段を駆け下りると、いくらかの声が聞こえてきた。

「円華ー、よく頑張った」

「なにいまの!丸江くんってあんなやつだったんだ!」

「流石にあれはないわー、円華のこと馬鹿にしてるじゃん」

「フラれたからって、ダサすぎでしょ」

「円華は気にしなくていいよー、大変だったね」

「頑張ったよほんと」

気持ち悪いほどの傷の舐めあいに、円華は泣き声で「うん、うん」と相槌を打っていた。

 彼女らの声が遠のくのを聞きながら、壁に体を預けた。ずるり、と背中がすべって、俺は踊り場に座り込んだ。

 歯を食いしばると、耳にまで心音が届いた。苛立つほど落ち着いていて、渇いた笑いが唇からこぼれた。


 放課後、掃除へ向かおうとする凌駕に声をかけた。

「・・・凌駕、一緒に帰ろ」

凌駕はしばらく黙って俺を見ていたが、すぐにいつも通りの笑顔を見せた。

「おー!トモから言うの珍しいな。つーか、言われなくてもそのつもりだっつぅの」

彼はそのまま俺の腕を掴み、ずかずかと大股で進んだ。

 隣を並んで歩きながら、あくびする凌駕を見た。

「ごめん、掃除サボらせた。それに、部活も」

凌駕はちらっと俺を見て、「いーのいーの」と手を振った。

「しょーじきトイレ掃除とかダルすぎたし、お前がいない部活なんかしたって仕方ないからな」

それより、と顔を覗き込んで、不思議そうに眉根を寄せた。

「トモ、どしたの?なんか元気ねーじゃん」

「・・・なんだろね、なんか自分の醜さにやんなってるとこ」

「は?トモは十分かっけぇだろ」

凌駕はくるっと目の前にまわり、両手の親指と人差し指で四角をつくると、わざとらしく目を覗かせた。

「そーゆーことじゃなくて」

「じゃ、どーゆーことよ」

顎を押さえて眉をひそめる凌駕に、ことのあらましをざっと説明した。

「・・・つーわけで、円華には思ったよりひどいこと言っちゃったなーって」

「ほーん」

「ほーんて・・・」

呆れて凌駕のほうをみると、彼はじっと前を見据えていた。その冷たい眼光におもわずぞっとする。

「なんだ、あいつ、そんなやつだったのか」

ぼそりと呟くと、ぐるっと俺のほうを見た。

「・・・昼間教えてくんなかったけど、もしかしてそのほっぺ、そのときに?」

凌駕の視線に合わせて自分の頬を見る。爪の跡がいくらか痛痒かった。

「あー、まぁ」

彼はキッと冷たくその傷を睨み、指でそれを拭う仕草を見せた。それから見た目に似合わず高い女子力を発揮し鞄から絆創膏を出して渡してくる。受け取った俺があたふたとしていると、ちょっと不器用そうに頬に貼ってくれた。

 絆創膏を貼りながら、ちょっとむくれて呟いた。

「そんなやつ、俺の可愛い知希と付き合わすんじゃなかった」

「親か!」

存外まじめな雰囲気が余計に可笑しくて、つい噴き出してしまう。すると凌駕もつられて笑い、俺の肩にどかっと乗っかってきた。バランスが崩れてぐらりと右によろける。

「まー、お前が俺のこと見る目あるって評価してんの、嬉しいけど」

それは俺も本人に言うのは小っ恥ずかしかったのだが、これがないと落ち込んでいる理由にたどり着かなくて渋々言ったのだった。

「・・・うるせー」

肩にくっついてる凌駕を離そうとすると、むしろガシッとしがみついてきた。

「へっ、俺はぜってぇおまえから離れねぇから。覚悟しとけよ」

向かい風のせいであらわになった白いおでこを指ではじく。凌駕は楽しそうに笑っていた顔を少ししかめた。

「何言ってんの。お前を放さないから、覚悟しとけ」

凌駕は目を瞠ったが、すぐに笑った。結構可愛い笑顔だった。

「・・・だから、ずっと前からしてるっつぅの」



 風が吹く。まだ緑色の幼い銀杏がさらさらと揺れている。


 黄色くなっても、茶色くなっても、共に散るまでずっと、そばに居ような。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

風が吹く日の銀杏 榎木扇海 @senmi_enoki-15

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ